第49話 ボディガード
「ボディガード君は唯に手を出していないだろうね!?」
「だからボディガードって、たぶんお祖父様は幸にぃ…幸守のことを言ったのよ!」
「あっ、なるほど。確かに幸守君も同じ学園に通っているそうだから、登下校中はボディガードをしてくれるわけだ…」
「頼りになるボディガードだったわよ。ひったくりに鞄を盗られた時は、鋭い足技でひったくり犯を撃退して鞄を取り返してくれたし、私がトラックに撥ねられそうになった時も命がけで助けてくれたわ。土手から転がり落ちた時も、私にケガを負わせないように頭を抱えて抱き締めて身代わりになってくれたし、毒蛇に噛まれそうになった時には障害物が無かったからって自分の腕を盾代わりしちゃうそんな人だったわよ…」
自分で言っててなんだけど…。
ちょっと、幸兄、格好良過ぎるわね。
「…唯はそれで、惚れてしまったと?」
「そう……って何白状させてんのよ!?」
自分で白状させておきながら両手両足を床につけて落ち込んでしまう父。
「だって恋する乙女の顔だったよ唯!?」
「えっ、そっ…そうかしら?……」
仕方無いじゃない。恋してるんだからっ!
幸兄のことが本気で好きなんだから!!
「はぁ〜…お祖父ちゃん、幸守君のことを両手放しで褒めるからね。唯から見てどうなんだい? そんなに優秀な子なのかい?」
「…そうね。顔は上の下。身長は普通だけど身体はかなり鍛えられていて、足はすこぶる速いわね。頭はとても良くて、教科書を眺めただけでテストで軽く満点を叩き出すわ。性格も良くて自ら人のやりたがらないことに取り組める好青年で、誰にでも優しくて気遣いもできるまさに理想のお兄ちゃん……」
「理想のお兄ちゃん!??」
「……って親友の和奏が言ってたわ!!」
「親友ができたのかい! 今度1度こちらにも連れて来なさい! お父さん早退してでも歓迎パーティーを開くから!」
「真面目に働きなさい!…もうっ…」
改めて幸兄のスペック思い返すと、確かにお祖父様が次の水城院家の後継者にしたいと思うのも納得できる。
ハイスペックにも程があるんじゃない!?
というか、私って幸兄と釣り合うの!?
幸兄本人が優秀なことを自慢したり、あまり外にさらけ出すタイプじゃないから目立ち辛いところはあるけれど知れば知る程、水城院 幸守という男がハイスペックなことに気付かされるわね!?
そりゃ和奏も理想のお兄ちゃん認定したくもなるでしょうね! だって凄いもの!!
私が振られたの…妥当…だったんじゃ?
ただただ、妥当だから、振られてない?
私身の程知らずだっただけなんじゃ?
「唯? お〜い? どうした唯戻ってこ〜い」
「私、幸兄が好きだから! 今は見向きもされてないけれど、諦めないんだからね!!」
「が、ガーン!? そんなの許さないぞ! 最低でもお父さんより優秀じゃなければ唯の彼氏として交際を認めることはできん!!」
「お父さん何1つ勝ててないわよ!!」
「ガーン!?…父ショック……」
「だ、だって…格好良過ぎるんだもん…」
「その乙女の顔をやめなさい! お嫁に行くのはまだ早い! 早まらないでくれ唯! せめてお父さんが子離れするまで待ってくれ!」
お父さんが子離れするのが先か。私が幸兄を振り向かせるのが先か。そもそも、あの男を私は振り向かせることができるのかしら?
いいえ。できるか? じゃないわよ。やるのよ! だって、戦うって決めたじゃない!
「ねえ、お父さん…」
「結婚資金はありません!!」
「私ね…本気なの…こんなに…誰かのことを好きになったこと無かったのよ……」
「………………………」
「今まで散々助けられて来たわ。もう、何度お礼を言ったらいいかわからないくらい。幸兄は私のことを助けてくれて、大切にしてくれて、優しく接してくれたのよ…」
「唯……」
「だからね。今度は私が、幸兄のことを助けてあげたいの! もう1日だけ、私のために有給を使うことはできないかしら?」
「唯!? お父さん有給は確かに残っているけれど会社の中じゃ、お前ごときが何一丁前に有給なんぞ使ってんだと思われちゃうタイプのお父さんだからして…」
「お願いお父さん!」
「任せなさい! お父さんに不可能は無い!」
「本当に大丈夫?」
「しばらく、サービス残業頑張るよ…」
仕事はできないかもしれないけれど、いざという時には私のために、家族のために、いつだって何だってしてくれた。人の上に立つ才能は無かったかもしれないけれど、お父さんは私の自慢のお父さんだ。
「ありがとう! お父さん!!」
「唯、今日は一緒に寝ようか?」
「うん! それは嫌!!」
父を水城院家のお屋敷に連れて行き、幸兄にこの真実を伝える。
父の話では、幸兄はそもそも私のお父さんが優秀ではなかったため家督を継げなかったことを知っているはずだという。
それでも、頑なにそんなはずはないと思い込んでいるのは、お祖父様の息子である水城院 幸作本人に会ったことが無いからだ。
自分を水城院家の後継者にするための優しい嘘だと思っているのだという。けれども、この父を見たら幸兄も納得するだろう。
父は水城院財閥を継がなくてもいい。
私も別に水城院財閥を継ぐ気はない。
私はただの普通の女の子だから…。
幸兄がもし、真実を知り、それでもなお、水城院家を継ぐ次代後継者となることを拒んだら、その時は義妹として義兄にお強請りでもしてみようと思う。強情さでは私も幸兄に引け劣らないと自負している。
私はお祖父様の後を継ぐ人は幸兄が1番相応しいと思っている。誰もがそう思い、幸兄を支え導こうとしている。私も今はもう、彼をちゃんと認めている。
もしも、私が彼の1番傍で、彼を支える立場の人間として選ばれることがあるならば…。
「違うわね……私らしくない………」
私が幸兄を1番近くで支える人になる!
私はそのために、こうしてここへ、戻って来たのだから!
水城院家のお屋敷の前。
正門にて、ほんわかした声の男が久方振りの実家に向かい感想を述べる。
「いや〜、相変わらずでっかいお屋敷!」
「幸兄、その心配かけてごめんなさい。これがお探しの私の父、水城院 幸作です…」
「どうも幸守君! 水城院 幸作です!!」
「…あっ…えっ…へっ………何で!??…」
幸兄が激しく動揺していた。
それはそうだろうと私もそう思う。幸兄が探し出して水城院家のお屋敷に戻るよう、説得しようとしていた人物なのだから…。
「はいは〜い。指紋確かに一致しました。間違い無くこの方は水城院 幸作様本人ですよ幸守様! 源治郎様の息子さんです!」
緑髪メイドそこまでやるの? とも思うけれど、疑り深い幸兄に、ぐうの音も出ない程、信じさせるにはそこまでやる必要があるのかもしれない。
「唯を助けてくれてありがとう!」
「えっと、いえ…当然のことです!!」
幸兄が珍しく緊張している。緊張する程の相手ではないことを幸兄は知らないからだ。でも緊張するのも当たり前かもしれない。幸兄の立場からしたら、自分はお父さんの居場所を横取りした存在だと思い込んでいるのだから、罪悪感が見て取れる。憂いを帯びた表情で顔色はとても悪い。
罪悪感なんて抱く必要は無いのに…。
「幸守君、君に伝えたいことがあってね!」
「は、はい!……」
「唯香はまだ君に嫁には出さぬぐはっ!?」
「ふざけるなバカオヤジ〜!!」
「…な、ナイスブロー………」
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
どうしてシャンとできないのだろう!?
「………お父さん…怒るよ!!?…」
「ひっ!? あだだ、ゆ…幸守君!」
「は、はい…」
水城院 幸作は話し出す。
「私はね。父と喧嘩などしていないんだ。私が優秀ではなかったから、父の跡を継ぐことができなかったのは事実なんだよ。だから君が私の居場所に居座っているというその思い込みは勘違いだ。君は、父の期待に応えられなかった私に代わり、父が見つけ出した水城院家を次に託したい人間なんだよ。だから、私の父も、私自身も、もちろん唯香も…誰も君に居なくなってほしくはないんだ…」
「……………………………」
「君が嫌でなければ、君は、水城院 源治郎の息子の水城院 幸守として…私の義弟の水城院家 幸守として、父の跡を継いでほしい。君はこの水城院家を継いで良い立派な人間だ…」
「…そんな……僕は…どこの馬の骨とも知れない人間で、だから…貴方の方がっ!…」
「私にその力は無いんだ。けれども、君にはその力があるんだよ。君は皆に望まれてここに居る。ここに居ていいんだ。ここは、そんなに居心地が悪いかい?…唯香と仲良くするのは、君にとってそんなに苦痛かな?」
なんてことを彼に聞くのだろう。
胸が張り裂けそうになる。
不安な顔を見せてしまった。
もし、そうだなんて言われたら、涙が溢れてしまうだろう。でも、言われても仕方の無いことをして来た自覚はある。凄く反省している。だから、嫌いにだけはならないでほしい。これからも傍に居てほしい。
「…苦痛だなんて思ったことはありません。唯香さんは…少し怖いところもありますし、滅茶苦茶するなと思うこともありますが…彼女はいつも僕がおかしたミスを最後には笑って許してくれました。最後にはちゃんと、こんな僕と向き合って、目を見て話をしてくれました。一緒に居られて、僕はとても楽しかったです。できることなら…これからも、一緒に居られたらいいなとも…思います…」
彼に見詰められて自分の想いを再確認する。
「……幸兄…………」
どうしようもなく、幸兄が好きだ。
「そうかい。それならば、これからも、くれぐれも! 節度ある学生として! 娘のボディガードをよろしく頼むよ幸守君!!…」
「…え、えっと………はい!…」
幸兄はもう少し節度が無くてもいいくらいなのだけれど。父の前でそんなこと思っても言えないけれどね。でも、もう少し節度を無くしてくれないと、何も進展しないから…。
「それから、父のこともよろしく頼むよ。老い先短い命だろうけれど…父は幸運だった。水城院家当主に与えられた最後の責務を果たせたからね。君という後継者を見付けることができたのだから…満足しているだろう…」
「…え?…………」
幸兄が源治郎お祖父様の居るお屋敷に視線を向ける。私も、父の言葉に引っ掛かるものを感じて同じようにお屋敷に視線を送った。
どういう、意味だろう?
お祖父様…。
「「………………………」」




