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第40話 分かれ道


腹ごしらえを終えて、小休止を挟み、身軽な格好になってから、僕たちはキャンプ場から少し歩いたところにあるハイキングコースへ赴いた。青々と茂った草木の匂いがリュックサックを背負い歩く僕の鼻腔を擽る。


去年もここを訪れたが、景色は変わり無く、大自然のハイキングコースがそのまま残されていた。これはもう完全に森林浴と言っていいだろう。


「よし幸守! そんじゃここらで熊が出たらどうするか今のうちに決めておこうぜ!」


唯香と和奏ちゃんが聞いていないという顔をするが、言ってなかったので当然だ。


「大丈夫だよ。確かに過去に1度目撃されたそうだけど、こんな麓にまでは下りて来ないからさ。でも、そうだね。万が一熊と遭遇したら先ずはテルが熊を引き付けて……」


「何で俺なんだよ!?」


「そんなの決まってるじゃないか。僕らの中で1番男らしくて部分的に頼りになるからだよ! 女の子たちに逞しいところを見せるチャンスだと思うんだけど、まあ…テルの腰が引けていると言うのならその役は僕が……」


「俺様に任せろぉお! この中じゃ、俺様が誰よりも勇敢なナイスガイだぜ!!」


そうだね。部分的にね。


「そうさね! この中でテルちんよりも蛮勇を誇れる男は居ないさね〜!」


こら新園さん! 照明君がヘソを曲げたらどうするつもりなんだ。きっと、意味を知らないだろうけれども。


「そうだろ〜そうだろ〜!…ところで、バンユーってどういう意味だ?」


僕は心の中で笑顔になった。セーフ。


「それはだね。恐怖やリスクを無視して、ド真ん中ストレート160キロで突っ切り、壊滅的な働きができる漢の中の漢ってことだよ! 僕やマサにはできない行動だよ…」


将隆君もそうだなと頷いてくれる。


「ふむ! 仕方ねぇな〜! 蛮勇引力な俺様に任しておけ臆病者ども! がははははは!」


僕と将隆君は顔を見合わせて上手く行ったと頷き合う。君は勇気があるからと言ったようで実は、全然、全く、これっぽっちも褒めてなどいないことに、照明君は当然気付いていない。気付いているのは呆れ顔の唯香と、訂正すべきか悩んでいる和奏ちゃんだが…。


将隆君が和奏ちゃんの肩に軽くポンと手を置いて首を横に振った。


「アイツは、こんな時のための男だ…」

「だ、大丈夫なのでしょうか?」


「大丈夫じゃないでしょうけど……」

「大丈夫! テルは殺されても死なないよ!」


唯香の不安は僕が拭い去っておく。


「当然だぜ! 俺たちは死の瀬戸際から蘇る度に戦闘力が爆発的に増加する。熊の1匹や2匹現れたところで問題はねえぜ! 俺様が更に強くなるだけだ!」


生き延びることができればの話ではある。


「いよっ! 流石は逆立つパツキンヘアー!」

「それ程でもある! んがははははは!!」


新園さんも照明君をここぞと煽てる。自分は生贄を差し出して逃げる気満々のようだ。全く良い性格をしている。


どこから湧き出て来る自信か知らないが、やる気はあるようなのでもう全部任せようと思うよ。照明君が犠牲になっている間に僕は唯香を護衛しながら逃げて、将隆君には和奏ちゃんを逃がしてもらおう。新園さんは、何だかんだで上手いことやるだろう。熊に遅れを取るような小悪魔ではないからね。


「一応、幸兄の友達?…なのよね?……」


「え??」

「違ったの?…」


「唯香はまだ知らないかもしれないけどね。友達にも種類があるんだ。唯香にとっての和奏ちゃんは決して裏切れない親友だよね。でもね。僕にとっての照明君は、いつでも縁を切っていいかなと思う大親友なんだ!」


大親友という単語だけで誤魔化せるだろう。


「俺たちマブダチだからなぁ〜!…ん? いつでも切り捨てれる??…ふざけんなこの野郎俺様を生贄にする気か!?」


ヤバいバレた! 攻め過ぎたか?


「それは誤解だよ。僕とマサで唯香と和奏ちゃんを逃がしたら直ぐにテルのもとへ駆けつけて骨は拾うから大丈夫!」


「そうだな! 唯香ちゃんと和奏ちゃんの安全が1番だと俺様も思うぜ!……ん?…俺様息絶えてないか?…」


ヤバいバレた! 意外と賢いぞ!?


「そ、そこら辺に落ちている野生動物の骨を棍棒代わりにして加勢するって意味さ! カルシウムたっぷりで栄養も満点だよ!!」


「なるほど、ホネこんぼうやホネブーメランで援護するってわけだな! 頼もしいぜ!」


その程度で援護になればいいけどね。猟銃を脳天にぶっ放すくらいしないとダメージなど無さそうだし、援護に駆けつけた頃にはもう照明君は帰らぬ人になっているか、満身創痍だとは思うが、これも取捨選択だ。


「テル…後ろは気にせず、心置き無く暴れて来い…白沢と幸守の妹は俺たちが守る…」


「おう! 任せたぜ!!………ん? 何か美味しいとこだけ取られてね?」


「バルバロイ照明の健闘を祈るよ!」

「バルバロイ俺様! 響きがいいな!!」


遠回しに、蛮族って言ってるわけだけど、響きが気に入ったようなので放っておこう。どうせテストに出る言葉でも無いから意味を教える必要も無いだろう。


「幸兄たちは本当に仲が良いのね…」


「俺たちは爆竹の友だからな!!」

「ば、爆竹の友??…」


誤解だ唯香。僕も将隆君も、そんなクレイジーな遊びをした覚えは無い。2人で揃って首を横に振るが、唯香は照明君の頭が残念なことを理解しているので大丈夫だろう。


照明君はきっと、竹馬の友と言いたかったのだろう。ちなみに僕と照明君の出会いは高校1年の時なので全くもって幼馴染などではない。僕の幼馴染と言えるのは、今ではナユタくらいのものだ。


「死なないでくださいね?……」


「和奏ちゃんが俺様の心配をしている! 大丈夫だぜ和奏ちゃん! 俺様は狂人だし、無敵だし、最強だからな! 2匹目が出たらお前も相手しろよ幸守!」


その可能性も考慮しなきゃダメなの!?


「知ってっか? 幸守はこう見えてもそこそこ強いんだ! その気になれば、熊の1匹や2匹葬ってみせるさ!! んな!」


んなっ! にっこり。じゃないよ。


「いや、流石にそれはどうかな……ナユタなら、できるかもしれないけどね…」


「あのメイド、ボディーガードに必要だったなんてことにはならないわよね?」


唯香がナユタが熊に勝つことを疑っていないのが笑えるところだが、本当にたぶん勝つ。ナユタはコンバットメイドなので…。


「大丈夫だって。本当そんな万が一が起きたらその時は僕が唯香を死ぬ気で守るから…」


「…し、死ぬ気で………それは……」


何だろう? まるでトラウマでも呼び起こしてしまったかのように動揺する唯香。


「……死ぬ気で守ろうとはしないで…自分も生きながらなら、守られてあげるから…」


「…えっと、うん。それはもちろん!」


あくまでも万が一なんだけどね。僕が生命を投げ打たなきゃならない程の危険なんてそんなには無いだろう。でも、もしもそのような事件に遭遇してしまったとしたら…。


僕は唯香を助けるために、生命を投げ出すような行動が簡単にできてしまう気がする。これは、命の優先度の問題だ…。


それだけのことだからね。



森林のハイキングコースをしばらく進むと3本の分かれ道に差し掛かった。


道の真ん中には木製の看板が立てられており、それぞれ、『上級者コース、蛮勇だやめておけ』『中級者コース、スリル、ショック、サスペンス』『初心者コース、お子さん連れにオススメ』と記されている。


正確にはコースの記載の横に油性マジックで悪戯書きがされているのだが、上級者コースに挑んだ人たちは地獄を見たらしい。


1年前には確か、この分かれ道は2つのはずだった。『上級者コース』とやらが増えたみたいだけれど、やめておけなんて言葉に煽られて自ら過酷な道に挑む程のチャレンジャーなど僕らの中には…1人居たなぁ…。


「ようし! 上級者コースだな! 1年前はお前らに釣られて初心者コースに行ったんだ! 今度は俺様に付き合えや幸守!」


「いやいやいや、危ないことは無しだよ。同じコースで良いんじゃない? 僕は樹海で最後を遂げるつもりはないよ…」


無意味な死は御免被る。


1年前は真ん中のルートが『上級者コース』だったはずだ。つまり1年前の『上級者コース』が今の『中級者コース』なのだろう。


『中級者コース』もそれなりに危なそうだ。


「行くのは構わんが、精々中級者コースにしておけ…中級者コースが大丈夫なら、来年上級者コースに挑めばいいんじゃないか?」


「来年は『超級者コース〜神の試練〜』が増えてるかもしれねえだろうが!!」


僕と将隆君は確かにと黙り込む。


だが、将隆君の言う通りだ。そもそも、熊への生贄が隊列を乱してどうするつもりなのか? 上級者コースなんて書いてあるけれど、入口から既に明らかな獣道だ。お猿さんにはうってつけかもしれないが残り5人は人間で編成されたパーティーなのである。


「それぞれ好きなコースに行けば良いんじゃないかね? そうさね〜。2度目のユミリンさんは中級者コースに挑戦してみようかね!」


まあ、無難な提案だろう。僕もそうだねと頷いて同意しておく。


「私は初心者コースにします!」

「私も和奏と同じコースにしておくわ」


和奏ちゃんと唯香は初心者コースか。当然と言えば当然だろう。僕も中級者コースに少しだけ興味はあるけれど、スリルにもショックにもサスペンスにも巻き込まれたくはない。それに、自分が楽しむことよりも唯香の安全が第一だろう。万が一の時の照明君を生贄に捧げられない以上は、その役目は僕だ。


「僕も初心者コースにしようかな…」

「だにぃ!? この軟弱者め!!」


軟弱者で結構だ。間接的に唯香がムスッとして、和奏ちゃんが軽く落ち込んでしまう。そう言うことをズバズバ言うから一向に好感度が上がらないのだと思うが、別に上がらなくてもいいのでフォローなど当然しない。


「新園1人では危ないだろう…幸守が初心者コースに行くなら俺は中級者コースについて行くことにしよう…」


「おっ! マサちん私のエスコートしてくれるのかね? ありがとうね〜」


気遣いできる男である将隆君へ向けられる後輩少女からの視線は、金髪のお猿へ向けられるものとは真逆である。こうやって静かにポイントを稼ぐのが男として玄人なのだろう。


「俺様が1人になるじゃねえか!?」


「大丈夫だよ。だってほら、テルにはこの程度の森林は庭みたいなものでしょ?」


「まあな!!」


お猿の自覚があるのかもしれない。


チャレンジ精神を忘れない照明君は1人上級者コースへ進む事になり、将隆君と新園さんは中級者コースを選択し、僕を含める残りの3名は初心者コースを行くこととなった。


落書きのされた看板によると、いずれどのコースも合流するらしいので何の問題も無いだろう。照明君が合流ポイントまで辿り着いていないのに、誰か1人足りないことを忘れて先に進むのだけは気を付けよう。本当に悲しい事件になってしまうかもしれないからね。


「幸兄さん、本当に本当に上級者コースに行かなくて良かったんですか?」


「幸兄、別に私たちに気を遣わなくてもいいのよ? 初心者コースは見た感じ道も慣らされて整備されているみたいだし…」


「僕が居たらお邪魔かな?」


「いえ! とても心強いです!! ね?」

「ま、まあ…居ないよりは…ね?…」


居ないよりはマシという評価は少しだけ悲しいけれど、現状唯香からの評価は、まあそんなものだろうと思っていた。直近色々とやらかしている割には意外と高い方だ。


「お邪魔でないならよかった。唯香は和奏ちゃんと2人切りでのデートがご希望なのかと思ったよ…」


「ご希望したら1人で特上級コースにでも挑んでくれるのかしら? それはそれでやらせてみたいから、和奏との2人切りのデートを希望しようかしら〜?」


特上級コースってどこ? 木の枝の上を忍者のように跳び移って行くコースだろうか? それこそ照明君の出番だと思うけどね。


「またの機会があったらね…」

「来年が楽しみね幸兄!」


僕を忍者にさせたいのだろうか?


こうして僕たちは1度別れて、それぞれコースの合流ポイントを目指すことになった。


仲良さげにお喋りをしながら森林浴を楽しむ後輩少女2人。そんな彼女たちの少し後ろを歩き、2人の邪魔にならないように視界いっぱいに広がる緑を見て楽しむ。2度目でも思った以上に楽しめるものだね。




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