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水明恋歌  作者: 時夜
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第3話 変態メイド


時は少し遡る。


テレビの星座占いにて、女難の相が出ていると啓示を頂き、屋敷でとある暴走メイドさんに追い回され、引ったくりにエンカウントして突然の緊急クエストを消化し、見知らぬ美少女を助けた少年、水城院 幸守はお屋敷の正門を通らずに裏口からこっそり屋敷へと侵入した。不法侵入ではない。何故ならば現状このお屋敷は我が家だからである。


表門は主にメイドのナユタが開け閉めの操作を行なっているため、バカ正直に正面から帰宅すれば彼女に僕の存在が一瞬でバレてしまう。そんなことになってしまっては、折角のクーリングタイムが水の泡だ。理性をポイッと捨てた屋敷のメイドさんに追い回されるのは想像に難くない。


裏門は監視カメラとセンサーにより、機械が勝手に屋敷に住まう者とそうでない者を見分けて扉を開けてくれるハイテクシステムになっている。行く行くは、正門にも導入してもらいたいシステムだ。


今は裏門だけが僕の安全ルートである。


勿論、これも屋敷を管理するメイドのナユタに気付かれる可能性が0とは言わないが、正面突破よりエンカウント率は下がるだろう。誰に会うこともなく、こっそりと自室に戻る事に成功した。


忍び足にはそこそこ自信がある。真っ当な生き方をするつもりなので大して有効活用出来そうにない技術だが、あって損はない。今とか凄く役立っていることだし。


「ナユタは…流石に今は仕事中かな。そろそろ夕飯の仕込みでもしているのかな」


脳天気な事を呟きながら、自室のドアを開けようとする僕はそこで異変に気付く。


ダルマさんが転んだ状態になり静止する。


………居る…。


泥棒? いいや違う。そんな不埒者はコンバットメイドのナユタが軽く排除するだろう。この甘ったるい感じには覚えがある。もっと言えば覚えしかない。泥棒よりもたちが悪いのではないかと思う程の天真爛漫な僕の天敵…。


そう、我が家のメイドさん。水城院 ナユタだ。


ちなみに彼女は…。


「幸守様ぁ〜!あっ、はぁ〜はぁ〜…激しいですぅ~! んっ、もっと滅茶苦茶にしてください! あぁ~ん!ぅあん! クンカクンカクンスカクンカ…もっと、もっと打ってぇ〜」


世間一般で言う、変態だ! ド変態である!!


お巡りさん! ここです! 変態はここです!


外見は文句のつけようが無い美少女だし、屋敷を管理するメイドさんとしての技量は誰にも引け劣らない程有能だし、何より水城院家当主である源治郎さんにそのハイスペックな性能を認められ、多少のおいたくらいなら、元気があってよろしいと許されている、色々と凄い女の子ではあるのだけれど…。


「ふぁ〜! 幸守様のニ・オ・イ…」


変態という致命的な欠陥を抱えている。


この世に完璧な人間など存在しない。ちょっとスペック増し増しに作り過ぎてしまった。仕方無いから性格だけそこそこ残念にしておこう。これで完璧を回避出来たね。


きっと神様は、こうして彼女をこの世に送り出したのだろうと思われる。本当になんて調整ミスをしてくれたんだ。クレームはどこに入れればよいのだろう?


ナユタは今お楽しみ中のようだし、今回は何も聞かなかったことにしたいな。うん。そうしたいのはやまやまなんだけどね。メイドさんに占拠されてるのが僕の自室では乗り込む以外に有り得ない。例えこれがナユタ必勝のハニートラップだったとしても、乗り込むしか選択肢が無いのである。


ナユタは外見、それはそれは可愛らしい女の子だ。中身はアレだが見た目は美少女だ。


抱きつかれると良い匂いもして、その胸部は世の男性を骨抜きにするボリュームがあり、それは僕とて例外ではない。僕程度の男の心臓であるならば、フライングプレスで心臓麻痺寸前に追い込む破壊力を備えている。


夜には、そんな女の子の匂いが染みついてしまったベッドで眠ることになるのだろう。もちろん全く嫌じゃないけれど、ダメなんだ。そう、ダメなんだよ。健全じゃない!


そんなの安眠できるわけがないからね。



僕は覚悟を決めて自室に突撃する。


男は度胸って昔の偉い人が言っていた!


「乗り込めぇ〜! な、ナユタ!?」


ベッドの上でメイド服を半脱ぎして枕を抱き締めながら、あられもない姿を晒し、悪怯れる様子も無くせっせとアレしている緑髪の美少女メイドさんの姿を発見して、僕はもう降参したい気持ちになった。


視線を合わせていていいものなのか?


ここは大人のビデオの撮影現場かな?


男としてR指定がバッチリ入っていそうなそんなシーンを見たくないわけではないのだけれど、真人間を目指す優等生の水城院 幸守君としてはまだ見てはいけないものだ!


視線を中途半端に逸らす僕に対し、自家発電で捗り、ほくほくしているナユタさんは乱入して来た僕の姿を見付けるなり、嬉しそうに瞳を輝かせる。本人が居るならば、本人を襲えばいいじゃないかと顔に書いてあったりする。早まった真似をしただろうか?


鴨が葱を背負って来たって?


誰が鴨なのかな? まあ、僕だな。


話せばわかる。先ずは話し合おう。戦争をするには、まだ早いと思うんだ。


「幸守様ぁ~! ナユタを責め立てに来てくれたんですね! お帰りなさいませ御主人様ぁあ~!」


「ち、違うよっ!? 僕は、自分の部屋に戻って来ただけだってば、というかナユタは僕の部屋で何をしているのかな?」


見りゃわかることを尋ねてしまった。


変態メイドは知らないんですか? と小首を傾げながら最初の一文字を口にする。


「オ…」


「待てっ! よし、待とう。やっぱり言わないでくれて構わない… むしろ、言わないでくれたら僕は凄く感謝すると思うんだ。うん! 僕に感謝されたければ今は少し黙ろうか!?」


微塵も説得にはなっていなかったが、要求を飲んでくれるナユタ。あくまでも水城院家の使用人なので、気まぐれに僕の言うことを聞いてくれたりもするのだ。


「そうですか~? では次こそ本番ですね~! もう準備は万端ですよ幸守様ぁ~!」


頬を赤く染め、ハァハァと色っぽい吐息を零しながら、ナユタは着崩したメイド服姿のまま女豹が如く僕に迫り来る。非常に不味い。このままでは事件になってしまう。


今の僕でも、自家発電で体力を僅かに消耗した彼女が相手ならば、力ずくでいなすことが可能だろうか? たぶん無理だ。ならば、道具を使って彼女を大人しくさせるのはどうだ?


何か使えるアイテムは無いか?


贅沢は言わない。何か無いか? そうだね。鎖付きブーメランとか、そんなものは無いのかな!?


君が守備表示になってくれることを望む! ナユタを傷つけたいわけじゃないんだ。欲を言うならば、鬼退治印のきび団子が理想だが、そこらに落ちていたりしないだろうか。


ほら、何か知らん間に色々と散らかっている!


「……………………………」


使えそうな物が無いか一通り確認した僕は、その全てを見なかったことにした。何も、無かった。


変態メイドのナユタさん曰わく準備とは、まあ…ご想像にお任せするんだけれども、オプションまで頼んだ覚えは微塵も無い。部屋の傍らにチラホラいかがわしい拷問グッズの数々が散乱しているのはきっと気の所為だ。


誤解される前に言っておく。


これらは僕の所有物ではないし、僕は拷問好きの変態ドS男でも無い。変態メイドさんを調教してやろうとも思わないし、そんな願望は持ち合わせてはいない。


どうか、信じてほしい。


「幸守様ぁ~どうして逃げるんですかぁ? 悪いことでもしたんですか~?」


「たぶん、今日は1つ良いことをして来たと思うよ! 徳は積んだと思うんだ! ナユタはいつもまるで自分が正義だとでも言わんばかりの口振りだね。よく現場を見てほしい。被害者になりそうなのは僕なんだけど、そこら辺は見解の相違かな?」


いや、よく現場を見て警察でも呼んだら、しょっぴかれるのは僕になりそうだ。冤罪もいいところだよ。


「御主人様に奉仕するのはメイドであるナユタの義務で~す! そして、ナユタを調教するのが御主人様であらせられる幸守様の大義名分というものなのですよ~! あっちの世界じゃ常識ですよ幸守様!」


どこの世界の常識かは知らないが…。


「非常識極まりない! なるほど、見解の相違だね!? じゃ!…そういうことで……」


「幸守様ぁ〜! 待ってくださ〜い!」


妖怪淫乱メイドの釣り出しが成功した。


そして、いつもの騒々しい鬼ごっこが問答無用で開始される。屋敷の廊下を全力疾走して逃げ出す僕。悪魔がささやく。フィールドを捻じ伏せろ。逃走経路はパターンDで行く。頭を空っぽにして、鬼から逃げ切ることだけ考えて一心不乱に走り抜けるんだ!


角を右に回り、壁に背をつけて廊下をそっと覗いて見ると、どうやらメイドさんを振り切ることに成功したようだ。これで僕の勝ちだ!


軟弱そうに見えるかもしれないけれど、こう見えても僕は結構肉体を鍛えている。一身上の都合により、僕らは一般の高校生より遥かに運動能力が高かったりする。


運動能力が高いとは言ったが、特別運動神経が良いというわけではない。死に物狂いの努力を積み重ねれば、誰でもこの程度にはなりますという見本が僕なのである。ナユタみたいなホンマモンの天才とは違うのである。


いや、彼女はどちらかというと天災か?


ともあれ今日は僕の勝ちのようだ。


捕まらずに一安心だ。廊下を遠回りして自室に戻ろうと走り出した僕の顔に、何やら柔らかいものがぶち当たる。


「んむっ!?」

「あぁ~ん!! 大胆…」


ドサッと倒れ込み、気付けば僕はあくまでも端から見たら、メイド服を脱がした使用人を無理矢理押し倒した御主人様の図になっていた。冤罪もいいところだ!


違うんです。誤解なんです。言い訳をさせてください。不可抗力なんです。だってそこに特盛が!


「何故ここに!? 必殺仕事人のナユタさんは、裏取りゲームの天才なのかな!?」


「いいえ、よく見てください。ナユタは幸守様のメス犬です!ワン! わんわん!」


デカいものが溢れかけている。よく見たら理性が吹っ飛びかねない。この自称メス犬変態メイドさんに乗ってはダメだ。もう、押し倒して馬乗りになっちゃってるけどね!?


意図的に押し倒された変態メイドさんは僕の右手首をがっちり掴むと有無も言わせずそれを自らの胸に押し当てて来る。ぼむんって音がした。ような気がした!


デカい。柔らかい。心地の良い弾力。3拍子揃った見事なたわわが、僕の子孫を残さなければならないという生物の本能をマシンガンの如く責め立てて来る。


「うわわわっ!? ちょっと!? 何やってるかわからないんだけどなぁ〜!?」


テンパりながらナユタの上から退こうとするが、彼女はそれを許さない。足を絡めて寝技で固められる。運動神経抜群のハイスペック超人であるナユタにかかれば、この程度の柔術は朝飯前だ。


ギブアップのタップをしたいが、タップできる位置が胸に限定されていてタップすらさせてもらえない見事な寝技だ。完成度の高い詰め方だ。


「あぁ~! いきなりそんな強過ぎますぅ!」


「ご、ごめんよ! もっと優しくしてあげるから一旦このチェックメイト解こうか!?」


待ったは3回まで許してほしい!


逃走経路パターンABCも試させてくれ! もしかしたら正解のパターンがあったかもしれないから、それだけでも確認させてくれ~!


「もっと、もっとです! もっと乱暴にナユタの身体に幸守様を刻んでくださぁ〜い!!」


「ギブアーップ! ギブアップだよ!!」


ダメだコイツ。早く何とかしなくては。手始めに岬に住まう天才外科医でも紹介してあげようかな。そうだそうだ。それがいいと思うんだ。水城院家はお金持ちさんだし!?


「え? 胸を直接鷲掴みたいですか。わかりました幸守様ぁ~!!」


幻聴も酷いらしい。


「言ってないよね!? 百歩譲って気の迷いからそんなことを思っていたとしても、何とか言ってはいないと思うんだ!? うわぁ!? 脱ぐな脱ぐな!? おかしいよね!? 人ひとり拘束しながらメイド服脱ごうなんて、ナユタは本当に器用なんだね!?」


「あぁ~ん! 幸守様に誉められちゃった~! ご褒美を貰えますよね? 幸守様ぁ~! 大丈夫です。ナユタが1滴残さずに絞り出して見せますからぁ~!」


ご褒美なら僕ではなく源治郎さんに貰ってくれないかな? 僕はほら、金欠気味だしさ。僕より働き盛りな君の方がよっぽど稼いでいるでしょ!


「脱ぎ脱ぎ〜」


あ…もう、ダメだ。


チェックメイトでゲームが終わっているこの状況に逆転の目は無い。遂に僕も大人の階段を上る時が来てしまったんだ。時間の問題とは思っていたんだ。誓いを果たせずに申し訳ありません源治郎さん!!


人生終了のお知らせが通知されたと思った次の瞬間に、ナユタは人の気配を察知し、着崩したメイド服を瞬時に着直し、廊下で降参のポーズを取っている僕を捨て置いたまま、ビシッと直立不動で完璧メイドの皮を被る。


何故?


涙目な僕の上に人影が落ちる。


気付くと、僕とナユタにとっての恩師が、無様に完全敗北を喫した僕を見下ろしていた。


「何をしておるのだ幸守?」


「…げ、源治郎さぁ~ん」


いえ、例え以前に様付けで呼ぶなと言われたとしても、今だけは源治郎様と呼ばせて下さい。ありがとうございます源治郎様! 源治郎様は神様です! お客様と源治郎様は疑いの余地も無い神様です!


子孫を残そうと奮闘する変態メイドのナユタさんの暴走は、このお屋敷の主である水城院 源治郎さんの登場で阻まれた。


ナユタは源治郎さんの前では、流石に自重しなければならないと思える程度の頭を持ち合わせている女の子なのだ。このお屋敷で唯一、ナユタの暴走を止めることのできる最後の砦と言えよう。僕の貞操は、源治郎さんに守られていると言っても過言ではない。


全く、どんな家庭の事情なのだろう…。



「幸守よ。そんな所で、何を転げ回っておるのだ?」


身長191cmの高さから見下ろされた僕は源治郎さんの質問に苦笑いで答える。


「あ、はは…ナユタのいつもの過激なスキンシップでありまして……た、助かりました…」


雇い主である源治郎さんがナユタに視線を移すと彼女は彼女の正義を振りかざす。


「ナユタは幸守様に水城院家の跡取りとしてメイドさんを弄ぶ力を身に付けて貰いたいのです~! これもナユタのお仕事です! 私利私欲ではございません!!」


ダウトォ!! 心の中で突っ込んでみたもののナユタは嘘では無いですと言わんばかりの意味不明な説得と共に、その破壊力満点な巨乳を堂々と張って見せた。でっかい。


さっきもどさくさで言ったかもしれないがデカい、柔らかい、心地の良い弾力の三拍子が欠点無く備わった破壊力抜群の、その御自慢の巨乳をである。


「ほどほどにしなさい…」


「は~い!」


わかってま〜す! と付け足そうものなら構わずダウトを宣言したところだが、抑止力の源治郎様により決壊した防波堤が再構築されたため、これで後数日はナユタも理性を保っていられることだろう。余命が数日延びたよ。


源治郎さんはいつも笑顔で元気なナユタを気に入っているため、彼女の行動を必要以上に否定しない。ナユタもナユタで、源治郎さんには迷惑をかけまいと最低限の…本当に最低限の常識は備わっているのである。


本当か? つい、疑いたくもなるが、今日も今日とてギリギリセーフだったのは確かだ。


いや、僕は交際もしていない女の子の布1枚隔てた胸を鷲掴みにしてたけどね?


何なら、ナユタがセーフでも、僕の方がアウトだったかもしれない。責任を取らなければならないレベルの事をしてしまっただろうか? 不可抗力なので弁護士を呼んでほしい。僕に裁判料金を払える財力など無いけれどね。



お屋敷の主である源治郎さんに命じられ、ナユタは夕食の仕込みをするために、きびきびと働き出す。先程まで涙目だった僕と違って彼女は元気いっぱいだ。


続きは夜に! とでも語っていそうなウインクを1発かまして、鼻歌を歌いながらナユタが僕から遠ざかって行った。


束の間の休息である。


「幸守、唯香を連れて儂の部屋へ来てくれるか? 今は自室に居るはずだ」


水城院 唯香とは、本日このお屋敷にやって来る源治郎さんの孫娘さんの事である。今朝は起きて早々、うっとり顔のナユタに追い回されていたせいですっかり忘れていた。


源治郎さんの孫娘さん。


僕の通っている私立校、鳥羽園学園の新入生としてこの春から同じ学びやに通う事になる女の子だ。名前は何度か聞いたけれど、彼女の姿を見たことは無かったからね。


学園に通う3年間は鳥羽園学園の近くに建てられているこのお屋敷に住むらしい。言わば同じ屋根の下で暮らす事になるのだから、きちんと挨拶をしておかなければならないだろう。粗相の無いようにしなくては。


「お孫さんはもうこのお屋敷に来ていたんですね。それなら、僕も彼女に挨拶をして来なくては…直ぐに、源治郎さんの部屋にお連れしますね!」


「頼んだぞ。幸守…」


僕のメシアである源治郎さんに軽く会釈してから孫娘さんを迎えに行く。


水城院 唯香お嬢様か。


いったいどんな子なのだろうか…。




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