第37話 キャンプ初日
水城院 幸守とクラスメートの3人は長いようで短い高校2年の夏休みを利用して、コテージのある山へキャンプに来ていた。
今年もこうして泊まりがけの外出ができるのは頑張り屋さんのナユタのおかげだ。お屋敷の留守は任せて下さいと申し出てくれたナユタに感謝しなければ、お土産も忘れないようにね…。
「しかしまぁ~。結局、唯香ちんも和奏ちんも参加したんだね〜。虫が多そうで嫌だって言ってたのに参加を決めたのは、お兄さんとしばらく会えなくなるのが虫と戯れる以上に嫌だったからかなぁ〜?」
我が義妹を煽る新園さん。
火傷したいのかな?
「は? 何ですか新園先輩? 私が何故、たかだか数日、幸兄と離れる程度のことを、嫌だなんて思うと思ったんですか? 頭に虫でも湧いているんじゃないですか?」
ややブチギレ気味の我が義妹。冷ややかな炎。
初手でトラブルとかやめてほしいなぁ〜!
「そうだよ新園さん! 唯香は和奏ちゃんが参加したそうにしていたのと、源治郎さんに心配をかけないために、已む無くこのキャンプに参加してくれたんだよ! 勘違いしないでよね新園さん!」
唯香の気持ちを代弁したぞ。義兄、ナイスフォローだと思うんだけど、如何かな?
「幸兄ぃ〜、私をバカにしてないわよね?」
「何で!? フォローしたのにっ!?…」
「喧嘩は良くないです! 私は、ユイと一緒に来られて凄く嬉しいです! ユイも虫に刺されないように虫除けスプレーでしっかりとお肌をケアしておきましょ〜!」
「ありがとう和奏!」
麦わら帽子を被った和奏ちゃんが、これぞフォローですと言わんばかりに僕を助けてくれた。危うく唯香にしばかれるところだった。和奏ちゃんの天使っぷりには舌を巻くよ。その調子でトラブルが起きたら全部解決してもらいたい。力ずくで黙らせなければならない問題は僕と将隆君で対処するので!
僕と相棒はアイコンタクトを交わし、互いに頷いてから、力ずくで黙らせることになりそうな対象に視線を送った。
「ん? 何だよ幸守、マサ、暑さでもうへばったとか言わねえだろうな〜? 今年は全員で春を手に入れに行くぜ! いいな!?」
「そうだね! ちょっと何言ってるかよくわからないけれど、そうだね!」
「……隠語か………」
まあ、ろくな意味では無いだろう。
大体想像もつくからね。
キャンプ地はそれなりに遠いため、電車とバスを乗り継いで、しばらく歩きようやくたどり着くことができる場所にある。ログをベースとして建てられたコテージは去年と何も変わっておらず、見ただけで思い出が…そこまで呼び起こされないな。終始照明君がくだらないことを言っていたから、抹消してもいいなと判断したからだろうか? 僕の頭脳ってこの記憶要らないなと思ったら割と消去しちゃうんだよね。
まあいい。今年は唯香と和奏ちゃんも居るのだから、キャンプにせっかく来たからには、ちゃんと楽しもう。
僕たちは3人ずつ2部屋に別れて一先ず重たい荷物を置いて来ることになった。
「ぐえぇ~! あぢぃ~! 冷房入れようぜ。マックスでガン決まりに冷やそうぜ大将!」
そう言ってリモコンを操作する照明君。夏の暑さでへばってるのか軟弱者め! がはははは、と言ってたわりには真っ先にエアコンに頼るとは軟弱な金髪である。その逆立ったヘアースタイルは飾りなのだろうか? 戦闘民族の誇りはどこへ落っことして来たのか。
まあ、照明君がエアコンをつけなければ僕がつけていたけどね! チキンレースに勝利した僕と将隆君は照明君より軟弱者では無いの称号を手に入れた。特に名誉ある証ではない。普通にほぼ無価値の称号だ。
コテージの部屋の窓から外を見る。
「もう日が沈むね。また、初日は来るだけで終わっちゃうかな?」
「毎度のことだ…移動中も楽しめた……」
そうだね。新幹線の中、皆でやるトランプってババ抜きくらいでどうしてあんなに盛り上がれるんだろうね? どちらにせよ、唯香&和奏ちゃんタッグによるイジメのようなババ抜きにはならなかったので良かった。彼女たちも流石にイカサマは懲りたのだろう。
「毎度って、ここに来るのはまだ2回目だけどな〜! まあ、来年も来ることになったら改めて毎度のことだと言おうぜ!」
「そうだね」
「だな…」
緑豊かな美しい自然の広がるこのキャンプ場にはテントを張る場所の他にも、いくつかのコテージが建てられている。
1年前は女子が新園さん1人だけだったため僕たちはテントを2つ立てて男女で別れて3日間を過ごしたのだが、今回は女の子が3人も居るため、こちらの借り宿を利用したというわけだ。
小さい頃は男の子に混じって遊んでいても女子だと思われていなかったタイプの新園さんだけならば今年もテントで良かったかもしれないけれど、唯香と和奏ちゃんにテントで寝てねと言うのは忍びないからね。
「因みに全コテージの共有スペースとして使える1番デカいとこには、大浴場もあるらしいぜ! 去年使えなかったやつ! 別料金取られっけど全員で行こうぜ!」
「そうだね。たくさん汗もかいたし…」
唯香と和奏ちゃんに体臭が臭いとか言われたら流石の僕も涙くらいは流すだろう。匂い消しは持って来てはいるけれども! 1日1回は身体を洗う。これは大事なことだ!
「よっしゃあ〜! 混浴ワンチャン!!」
「そんなわけないって…」
馬鹿笑いする照明君と、苦笑いする僕。
将隆君はコテージに備え付けられていたガイドブックを手に取って、宿泊客が利用できる大浴場の情報を閲覧していた。
「1番コテージは男女別だが、少し小さい2番コテージは混浴らしい。そう書いてある」
「マジかっ!? 決まりだなおい!!?」
そうだね。1番コテージに向かおうか。僕は唯香と和奏ちゃんに、ワンチャン女の子の裸を見れると期待して混浴に飛び込んだ変態として見られたくはない。絶対に嫌だ。100害あって一利しかない。そして、その一利も既に…とは言わないでおこう……。
「2番コテージの方が空いているらしい」
将隆君や? どうしてその照明君が100割飛び付く情報を伝えたのかな? もしかして将隆君もワンチャン狙っているのかな??
「…流石だなマサ! 2番コテージの方が空いていると言えば、必然2番コテージの大浴場を利用するしかなくなる!!…この情報を女子たちが入手する前に…早速、誘いに行くぞ野郎どもぉおお〜!!」
照明君が暴走気味に部屋を出て行った。
「マサ??…」
「いや、どうせ浸かるなら混んでいない方がいいと思っただけだ…女性陣には1番コテージを教えて、俺たちは空いているという2番コテージを利用すればいい…」
ポンっと相槌を打つ。
「混浴なのだろう? そもそも、実質男湯と言っているようなものだ。男湯と書かずに混浴と書いているのは、男性用が2つもあれば理不尽で、男女差別に繋がるからとか…そんな理由なんじゃないか?…」
更にポンっと相槌を打つ。
「名推理だね!」
「まあ、それっぽい理由を付けただけだ…」
将隆君の言う通り、言われてみればそれはそうだろう。男女で分かれている大浴場があるのに、わざわざ混浴を利用したい女性のお客さんなんて居るはずも無い。世の中そんなに変態に甘くはないだろう。
「それよりもいいのか?…早くしないと大切な義妹が混浴に連れて行かれるぞ…」
「大丈夫じゃない? そもそもの話、情報マニアの新園さんがこの情報を仕入れていないと思う?」
「仕入れているから、後輩2人にパンフレットを見せず、テルと口裏を合わせて面白そうな方に誘導する女だがな……」
僕よりも新園さんのことを理解している将隆君に僕は更に更に相槌を打たされた。
「………急ごうマサ! 唯香と和奏ちゃんが危ない!!…問題起こすのは不味いって!」
今日まだ初日も初日だから!!
「白沢はわからんが、幸守の義妹がそう簡単に誘導されるとは思わないがっ……」
僕は将隆君の手首を掴む。
「行くよマサ!!」
「おっ…おお……」
やはり名推理! 将隆君は役に立つ!
友達を選ぶなら、僕は彼のような人をオススメするね! 常識もあるし、マイペースなのに頭の回転も早い。嫌がる女の子にスケベな真似もするような男でもない。彼こそが理想の友人と言っていいだろう。
マイベストフレンドだ!
僕たちが借りているコテージの共有スペースには、自室に荷物を置いて来たと思われる唯香と和奏ちゃん、それに、照明君の話を黙って聞いて頷いている新園さんの姿があった。本当に混浴に導くつもりじゃないよね?
「唯香! 和奏ちゃん! ちょっと待つんだ早まっちゃいけない!!」
そこへすかさず新園さんが僕の前に立ち塞がり1人でラブリーチャーミングな敵役が如く足止めを決行して来た。これまたズバリ、名探偵将隆君の読み通りである。
「おっと、待ちたまえよ幸守君!」
「新園さんそこを退くんだ!」
「嫌だと言ったら〜?」
「力ずくで理解らせることになる!」
新園さんがほくそ笑む。
「幸守君、大丈夫…2番コテージは貸し切りにしてあるのさ。源治郎お爺様にかかればこの程度の貸し切りわけないさね〜。にやっ」
指で輪っかを作るな!!
源治郎さんに足りない分の宿泊費を補填させただけに留まらず、大浴場の貸し切りなんてものにまでお金を使わせたのか!?
しかも、混浴ハプニング面白そう。なんて後輩少女たちの気持ちを微塵も考慮してないしょうもない理由で、源治郎さんの貴重なお金を使わせたというのか!?
後で必ず取り立てるからね!?
照明君が後輩少女に力説を続けている。
「そうなんだよ〜! だから、2番コテージの貸し切りの方に行こうぜ! 何たって俺たちの貸し切りだからなぁ〜!!」
「別に貸し切らなくても良かったのに、でもまあ…今更貸し切るだけ貸し切って入りに行かないのも…ねえ?……」
「そうですね。大浴場を私とユイと新園先輩の3人で使えるのでしたら、その方が気兼ね無くゆっくりできて良いと思います!」
嗚呼、ダメだこれ当たり前のように混浴だって説明を受けていないやつだよ!!
「ところで、幸兄は何を慌ててるの?」
良い質問ですね!!
「唯香! 実はっ…」
「ジャストアモーメントプリーズ!」
何度でも立ちはだかるラブリーチャーミングな敵役の新園さん。少々お待ちくださっている時間は無い。ちょっと、のほほんしていたら唯香と和奏ちゃんが照明君に捕食にされてしまうじゃないか!?
「病院送りになるのは果たしてどちらか…」
確かに唯香なら照明君を返り討ちにするかもしれないけれど、唯香が色々と見られちゃうことはほとんど確定じゃないか! そんなことはこの僕が唯香の義兄として絶対に阻止しっ…。
「まあまあ、大丈夫だよ幸守君…2人には水着を着てもらうから…ほら、これ見て!」
それはコテージに置いてあったパンフレットじゃないか!? え〜っと、なになに?
貸し出し水着。だと!?
「………そ、そうなの?…」
「当たり前さね。私も入るんだよ? 真っ裸で乱入しても一切気にしなさそうな幸守君とこのメイドちゃんとは違うのさ〜」
ナユタさん? 言い返してやれないんだけど?
そんなことないよと僕に言い返させてよ…。
「……………………………」
「源治郎お爺様の軍資金を溝に捨てて終わりにしようなんて、幸守君はそんなことはしないよね〜? それにほら、2人とも乗り気だし問題無しさね!」
「何慌ててんのよ?…少し顔赤くない? 暑さでやられちゃったんじゃないわよね? まだ初日なのよ」
「そうなのですか? 大丈夫ですか幸兄さん」
「…………………………」
「や〜い。幸守君のっ…」
「わかったよ!! それならいいよ!…2番コテージの大浴場に行こう。ただし、皆で行くからね新園さん! テルの暴走は僕とマサで制圧する。力を貸してくれるね!?」
「構わんが…幸守お前だまっ………」
「よし決まりぃ!! 一風呂行こうぜ〜!」
将隆君が協力してくれるなら、照明君を止めるなんてわけのないことだ。こう見えても将隆君は武闘派なのだ。はて、将隆君は何か言いかけなかったか? お猿さんの大きな声でかき消されてしまったけれど…。
彼女たちの水着姿は既に見ているのだから、それならば問題は無いじゃないか! 心配して損したよ。
「……幸守…お前が先に入れ……俺がしばらくテルを足止めしておく……」
「ん?…ああ、防衛ラインを確保するのは大事だからね! 流石はマサ!」
「…………まあ、いっか……」
何やらまだ言いたそうだけど、全員が移動を開始してしまったので僕たちもそれに続くことにした。借りたコテージを出て、貸し切りにしている大浴場のある第2コテージへ向かって歩き出す。
「幸兄は何を必死になっていたのよ?」
途中、並び歩く唯香と和奏ちゃんに声をかけられた。そのジト目がかなり僕に効く。
「な、何でもないよ…既に知っていたならいいんだ…大丈夫…欲情に負けて暴れ出す可能性のあるテルは僕とマサで何としても止めるから、2人とも安心して!」
「頼りにしています! 幸兄さん! 梶原先輩も、よろしくお願いします!」
丁寧に頼んで来る和奏ちゃんに向かい将隆君がコクリと頷く。




