第36話 スキンシップ
「メイド…本当に行かなくていいの?…」
「唯香様こそ、お残りになるご様子ですが、本当に行かなくて良いのですか〜? 心配なさらずとも、源治郎様のお世話はナユタが完璧に熟して見せます…これまで、そうだったように〜、これからも……」
唯香からナユタに話しかけるなんて珍しいこともあるものだ。それも、言い争いによる会話ではない。2人の間で何かあったのだろうか? 仲は…相変わらず悪そうだ…。見えない火花が飛び散っている気がする。
「後悔しても知らないわよ……」
唯香がナユタを睨みつける。
本当は2人にも仲良くしてもらいたいのだけれど、どういうわけか、どうしても反りが合わないようでいつもこんな感じだ。
「正妻の余裕ですので〜!」
「……ちょっと何を言ってるかわからないのだけれど…幸兄! 私も参加してあげるわ!…もちろん、和奏が参加するならだけれど…」
「えっ!?」
どういう風の吹き回しなのだろう?
「ユイが一緒なら楽しいです! 幸兄さん、まだ席が空いていましたら私とユイも御一緒しても構いませんでしょうか?」
「…企画立案は僕ではないから何席空いているかは知らないけれど、席が空いてなかったら、テルが席を譲ってくれるから大丈夫!」
「嫌だよ譲らねえよ!?」
どさくさに紛れてリタイアさせようと思ったけれどダメだったか。
「これで、今年の夏も全員揃ったね〜!」
「赤点回避に貢献した幸守の成果だな…」
新園さんは端から全員でのキャンプを計画していただろうし、照明君の席が無いということは無いだろう。将隆君はグッジョブと僕に労いの言葉をかけてくれる。
「にしてもまさかメイドちゃんが唯香ちゃんと和奏ちゃんを説得してくれるとはな〜」
それは僕もかなり予想外だった。
僕が唯香に視線を送ると、彼女は僕の視線に気付き数秒目を合わせてくれるが、直ぐに逸らしていつもの唯香節を披露する。
「勘違いしないでよね! 別に幸兄が行くからとかじゃなくて、私も同じ理由…夏休みを満喫できているってお祖父様に、そう思ってもらいたいから……」
「そっか…」
「口には出さないけれど、私のことをこの街へ無理矢理連れて来てしまったんじゃないかって思っていそうだから…そんなこと無いわよってお祖父様にアピールしとくのよ!…それだけなんだからね?……」
「うん。きっと源治郎さんは安心するだろうし、自分のことのように喜んでくれると思うよ。だから…ありがとう…唯香…」
僕と唯香は顔を見合わせて微笑み合う。
「そうと決まれば! 軍資金調達のために源治郎おじ様ににたかりに行くぞ〜!」
「おおぉ〜!!」
新園さんと照明君の遠慮の無い水城院財閥の資産目当てに僕とナユタと唯香の3人がブチギレそうになるが、何とか堪える。融資してもらわなければアルバイトもしていない高校生たちが泊まりがけのキャンプなんて、資金的にかなり厳しいからね。
「幸守様から頼まれるのが筋かと〜」
「だよね。わかってるよナユタ…」
去年も断腸の思いでそうしたんだ。
そりゃ、借りた分はいずれ全額お返しするつもりだけれども。僕が夏休みに友人と泊まりがけのキャンプに行くと聞いた去年は、そんなに必要無いという程の額を渡されてしまったからね。今回はちゃんと先にいくら必要か計画を立ててからお願いしに行こう。
「ナユタの貯金を使いますか幸守様〜?」
「使わないよ。それは、ナユタが一生懸命に働いて稼いだお金なんだから、大事に取っておきなさい……」
「結婚資金に取っておきますね〜!!」
誰とのだろう? 何故か唯香が再びナユタを睨みつけている気がするけれど、きっと今回も気のせいだと思う。
「コホン! キャンプは構いませんが、どういうプランなんですか?…新園先輩とそこの金髪が計画したって、大丈夫なの? 不安要素しか無いのだけれど…」
唯香が僕に確認を取って来る。
さあね? とは言えないので、僕も唯香と和奏ちゃんを混じえて、新園さんたちのキャンプのプランを確認することにした。
そうは言っても、キャンプの内容自体は去年とさして変わりはしないだろう。事前に何をするか唯香たちにも伝えて、日程を調整し準備を進めて行く。何だかんだで、唯香も和奏ちゃんも楽しみにしているようだった。
今年の夏は、去年よりも一層騒がしくなりそうだ。
ナユタが来られないのは残念だけど、ナユタがここに居てくれるおかげで、僕が安心して外出することができるのは確かだ。頼り切ってしまっているのは悪いなとも思うけれど、今年も頼らせてもらおう。
6人で話し合い、キャンプの段取りを決め終わって、友人たちを自宅へ帰した後に、僕は仕事に戻ったナユタを探した。
呼べば彼女は駆け寄って来そうな気もするが、それでは本末転倒だ。キャンプに行く日までの数日間。たまにはナユタの手伝いをしようと思った。この時間だと、ナユタは夕食の用意をしているだろう。
鼻歌を歌いながら厨房で料理しているナユタの姿を発見する。
「ふんふん〜ふふふ〜ん…はっ!? この匂いは幸守様ぁ〜!!」
気配を殺して後ろから近付いたのにバレた。
今日の夕飯はカレーライスのようだ。それなりに強烈な匂いがしているはずなのだが、それでも気付かれてしまうのか。というよりも気になるのは…。
「僕ってそんなに臭い?…」
自分の身体のニオイを嗅いでみる。
「幸守様はカレーの匂いの100倍強烈な匂いをしていますよ〜!」
リアクションに困る言い方だ。ナユタのことだから貶しているわけではないと思うけれどカレーの100倍強烈な匂いのする男とは、体臭が特別強烈とも聞こえるので、ちょっと微妙な気分になってしまう。
「…今日はそんなに汗もかいていないと思うんだけれど…後でよく身体を洗っとこ……」
「でしたらナユタがお背中をっ!……」
「あ、それは間に合ってる大丈夫!」
それよりもこちらの用件を伝えよう。
「…ナユタ…このお屋敷での仕事で、何か僕に手伝えることとかあるかな?…学生にとっては長い休みだし、たまにはナユタを手伝おうかななんて……」
「あります!!」
あるんだ。そりゃそうだよね。ナユタ1人で手が足りていると言っても過酷な労働であることに変わりは無いだろうからね。素直にあると言ってくれて助かる。
「毎日は手伝えないと思うけれど、時間がある時は手伝うから何でも言ってね」
「では! お風呂に入った時に幸守様をオカズに自慰しようと思っていたのですが、幸守様が見詰めていてくれるとナユタはきっととても捗ります〜!」
「うん。違うよ。そうじゃない。僕が手伝って捗らせたいのはお屋敷でのお仕事の方!! でも何となく言うとは思ったよ! それはダメ!」
「他に何を要求せよと言うのですか!?」
「いくらでもあると思うけどね!? 庭の雑草むしりとか、そういうのもあるんじゃないのでしょうか!?」
「そういった事はお抱えの業者に頼んで手伝ってもらっていますので問題ありません! ナユタが困っていることと言えば、幸守様が唯香様ばかり構うので嫉妬の炎でそのうち唯香様に何かしらの悪戯をしてしまわないか心配だということくらいですかね〜」
「それは本当に心配だね。ダメだからね?」
「カレーライスの中に山葵とタバスコと辛子を間違って投入しておきましょう。辛いもの好きの唯香様なら気付かずに平らげること間違い無しですね〜!」
「ダメだからね! 陰湿な悪戯は僕が許さないからね! それじゃあ、そのほら…えっと…食器出したりとか後片付けの皿洗いとかさ?」
それくらいなら僕にもできる。初歩中の初歩のお手伝いだ。
「幸守様ぁ〜! それはナユタのお仕事です! ナユタのお仕事を取らないでください!」
「そ、そんなつもりは……」
「幸守様? 急にどうしたのですか〜? 普段はナユタのことを都合の良い女として扱ってくださるというのに〜」
「そ…そんなつもりは………」
無い。とは言い切れない節がある。精神的ダメージを受けているのがその証拠と言えるだろう。本当に、頼りっぱなしで申し訳無いと思う。
「幸守様に都合の良い女として扱われて慰みものにされるのがナユタの至福の喜びですので一向に構いませんが! そして、そのまま絶対服従の調教を施されたナユタは淫乱メイドとして幸守様にご奉仕三昧の日々を送り、最後にはナユタの女体にメロメロになった幸守様に正妻として娶られる筋書きなのです!」
全部変態メイドさんの妄想だった。
「…そっか……だったら、手伝いがいらないって言うならさ…ナユタのために、僕にしてあげられることとか無いかな?…」
「エッチなこっ…」
「もちろんエッチじゃないことでね!!」
そんなこと、言わなくても普通はわかるであろう補足をしっかりと被せていく。危ないところだった。
「でしたら、やはりここは! ナユタにとって食事よりも大切であるとされる幸守様エネルギーの補充を1日1回、幸守様の方からしていただくというのが妙案かと存じます!」
「……食事の方が100倍大事だよね?」
そもそも、幸守様エネルギーって何?
僕から特殊なオーラでも垂れ流れていて、ナユタの目にはそれが見えていて、そのオーラを吸収してサーカス団顔負けの運動スペックを発揮しているということなのか? 僕はまだこの世の真理に触れていないということなのか?
にわかには信じ難いが…。
「幸守様! 病は気からと申します!」
「………夏風邪でも引いたの?」
「人を動かすエネルギーとは、やる気にさせる何かなのですよ〜! そして、ナユタをやる気にさせる何かとは幸守様とのありとあらゆる絡みに他なりません! 幸守様こそナユタの生き甲斐なのですから〜!!」
「ストーカーっぽいこと言い出した…」
「純愛です! 純度10000%です!!」
だから愛が重いと言われるんだよ?
言ってるのは僕だけだけどさ。
「やる気にさせる…やる気にさせると言われても……僕は以前に1度ナユタに自分の気持ちを伝えたよね?…ナユタと、一緒になることはできないって…言ったよね?」
「言われましたね〜。それが何か〜?」
随分と平気な顔をして言い放たれた。
「…いや…それが何かって!?…それが全てだと思うんだけども?…ようするに僕にはナユタをやる気にさせる権利が無いというか…その権利を、僕は自ら手放してしまったというか?…」
我ながら馬鹿な男だと思う…。
「幸守様が手放しても、ナユタが手放したわけでは御座いませんので〜! ナユタが幸守様を手放さない限り、ちゃんと今でもナユタをやる気にさせるエネルギーは幸守様の中に蓄えられているのです!」
そうだとしても…。
いいや、そうだとするならばだ。
「……それじゃあ僕は本当に、ナユタを都合の良い人として使っているみたいじゃないか。それは…嫌だな……」
「何かいけないのですか?」
「そりゃ…不誠実だし………」
ナユタが高校に通い、僕が使用人としてこのお屋敷を支える世界だってあったはずだ。僕はそれを、自ら言い出せなかった。彼女のように自分を犠牲にできなかった。
ナユタはメイドとして働きたいからそうしているのだと言うけれど、それも僕のためにそうしているだけなんじゃないのか?
僕はただ、ナユタを利用しているだけだ。
僕は彼女の頑張りに甘えている。
「では、フラれたのに幸守様をお慕いし続けているナユタも不誠実なのでしょうか?」
「…そ、それは………」
そんなことは無い。
「ナユタは、ナユタの心に従っているだけに過ぎませんよ。その行動が幸守様のためになったとしても、それはナユタがやりたいことをやった時に、たまたま幸守様の役に立っただけに過ぎません。ナユタも幸守様のことを都合の良い人として利用しています! 今はまだ、互いに都合の良い人です…でも……」
後ろめたさで僅かに俯いていた僕の顔を下から押し上げるようにグイッと顔を近付けて、大きな瞳の美少女が、唇が触れる手前まで来て言葉を続ける。
「未来はわかりませんよ〜…正妻に昇格するチャンスはあると見ています! ほら、心臓がドキドキしていますよね〜!」
そう言いながらナユタが僕の胸に手のひらを押し付けて来た。確かにドキドキしている。
「…そ、そりゃ…ナユタみたいな可愛い女の子にここまで接近されたら男なら誰だってこうなるって…僕だって例外じゃない…ただそれだけのことだと思う!……」
何を照れているのだろう?
「お慕いしている幸守様に可愛いと思ってもらえている! それだけでも、ナユタの胸の奥からやる気が溢れて止まらないんです! 幸守様がこうしてナユタのもとに来てくれただけでも、はぁ、はぁ、はぁ…身体から愛液が溢れて止まらないので、やっぱり少しだけ手伝っていただけますか幸守様ぁ〜!」
「エッチじゃないやつならね!?」
「それは難しい縛りですね〜! 縛り…はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…縛りぃ〜……」
美少女メイドさんの口の端からよだれが垂れそうになっている。さぞかしアブノーマルな妄想が捗っていることだろう。
「要するに、僕がここに存在していることが大事で、僕がナユタにしてあげられることは何も無いと言いたいんだね?」
「それはお互い様です! ナユタだって、幸守様のためにしたいことはいくらでもありますが、幸守様のためにしてあげられることには限りがありますからね〜…抱き着くなと言われても、部屋に入るなと貼り紙を貼られても、そんな人生の楽しみを捨てろと同義な禁止は叶えてあげられませんので!!」
「…貼り紙は剥がしておくよ。でも勝手に僕のベッドで如何わしいことをするのは遠慮してくれないかな?」
「幸守様から直接エネルギーを回収できれば自家発電は必要無いのですが…ナユタも已む無くなのですよぉ〜」
はいダウト。そこはもう少し女の子としての恥じらいを持ってもらいたいところだ。せっかくの美少女が台無しだよ。
「…つまり、頑張るために必要な僕とのスキンシップが足りていないと? だから、あんな鬼ごっこが度々開催されてしまうと、そう言いたいんだね?」
「端的に言えばそうなりますね!」
「…もう少し僕とのスキンシップを取る機会が増えれば、ナユタもそこまで暴走しなくなると?」
「そうであるのかもしれません。そうでないのかもしれませんね〜。どちらにせよ、ナユタを止めることは誰にもできません!!」
まあ、無理だろうね。制御不能な災害のようなものだと思ったことが何度もある。でも、どうせ止まらないのだから、なるべく関わらないように回避を続けるしか無いと思っていたから…裏目に出てしまったのか…。
僕は彼女を幸せにしてあげられない。
それは、変わることは無いと思うのに。
「ナユタが辛くなるだけだよ……」
「幸守様、決めつけるのは良くないです!」
「……結論は出したつもりなんだけど?」
「そんなの、今の消極的な幸守様が勝手にそう言ってるだけに過ぎませんので! メイドさんを調教して愛玩肉奴隷にしたい世界線もあるかもしれないじゃないですか!?」
それは絶対無いと思いたいところだ。
「幸守様との生活を重ねれば、幸守様がナユタの気持ちを受け入れたくなる未来が、いつか訪れるかもしれないじゃないですか…」
「……………ナユタ………」
「その未来を手繰り寄せるためにも、ナユタとたくさんスキンシップを取ってくださると嬉しい限りです!…そしていつかは……」
どこか儚げに、微笑みながら色っぽく目を細めるメイドさん。
「幸守様の奴隷メイドに!」
「彼女! とかじゃないのかよ!?」
「そこは通過点ですね〜!」
どこへ行こうと言うのかね!?
僕の思い描くベクトルと正反対だなぁ!!
「彼女を通過したら次は恋人だよね!?…そして行く行くは、交際期間を経て2人の愛を確かめ合ったら結婚して、ふ…夫婦とか…」
「幸守様はロマンチックですね〜」
「普通です! ナユタが変態過ぎるんだよ!」
「盛り上がって来ましたね〜!」
「ちょっと頭を冷やして来なさい!」
未来はわからない。
確かに、僕の思い描いた未来になるなんてことは無いのかもしれない。というよりは、思い通りにならないことの方が多いはずだ。ナユタの目指す未来もきっと、過酷なものになるのだろうと思う。
どうして僕を選んでしまったのだろう?
他の誰かじゃダメなのだろうか?
「考え過ぎなんですよ幸守様! もう少し能天気に行かないと、直ぐに疲れちゃいますよ」
「……ナユタのように?」
「心外です。いつもはナユタのことを変態、もしくは天真爛漫と表現してくださるではありませんか〜」
能天気はダメで、変態は良いの? 自覚があるということなのだろうか?
「そうだね……そっか…」
「幸守様も、もう少しわがままに生きたって問題は無いかと! 今年もキャンプに行くから援助してほしいと言われた源治郎様も大変お喜びになっていましたよ〜!」
それは、ちょっと複雑な気分だけど。
「源治郎様は幸守様に頼られることが嬉しいんですよ!」
それは、わかっているんだけどね。何でも頼んでいると癖になっちゃうから。どうしようもないことだけね。
「幸守様がナユタのお手伝いをしたいと言うのでしたら、お屋敷のお仕事を手伝っていただくより、ナユタを喜ばせてください! 頭を撫でたり! お尻を撫でたり! 胸を撫でたり!…」
「こらこら〜、ナユタさん? どんどん変態入って来てるからね?」
「ハグしてくれたり!!」
「…………………………」
満面の笑みで両手を広げるナユタ。
都合の良い関係。
そうはなりたくないけれど、そうはなりたくないと願う僕がナユタにずっとして来たのはそういうことで、こんなのは不誠実だと理解しているつもりなのに…。
僕は彼女に応じるように、その柔らかな身体を抱き締めてしまっていた。
「…ほえ???………」
「よしよし、ナユタは頑張ってる。今日も1日頑張った。ありがとう…ナユタ……いつも僕を助けてくれて、ありがとう…」
「……………………………」
優しくしたつもりなんだけど、いきなり抱き締めるのは不味かったかな。いやでも、いつもナユタはいきなり僕に飛び掛かって来るわけでして、これくらいこちらからしても許されるのではないだろうか?? ダメ?
いかん。ナユタの髪から良い匂いが漂って来て変な気分になりそうだ。カレー匂い程度ではナユタの良い匂いを打ち消すには足りないらしい。もう限界だ。
僕は彼女をそっと放す。
「……………ナユタ?……」
「……………………………」
頬を赤くして放心している彼女。
「な、なんて顔してるの!?…」
「………………はっ!?…ん〜…」
「キスはしません! それは、か…家族としてのスキンシップの域を出ちゃっていると思うのでキスはしないことになっています!」
「夫婦とは家族です幸守様〜。ナユタを家族と思ってくださるなら、キスくらい普通にしますので大丈夫ですよ〜!」
「確かに?? いや、説得しようとしないでくれる!?…しちゃいそうになるから!」
「ん〜!!」
「いくら唇尖らせてもしないからね!?」
ナユタが頬を赤くしたまま拗ねるように唇を引っ込めてくれた。そして、可愛らしく頬を膨らませる。
「惜しいです! もう少しで落とせたのに!」
「惜しくないです!…」
「……………………………」
いつもよりも大人しくなっているナユタ。
「こ、これくらい!? なら……スキンシップしてくれても構わない…けど、時と場所と回数には気を付けてくれれば……ね?…」
「よろしいのですか幸守様!? 1日86400回だけですか〜!?」
「毎秒抱きしめちゃってるから!…でも、僕からも抱きしめちゃったから…うん……今更ダメとは言えないし…お手柔らかにしてくれるなら1日2……3回まで許します……」
それ以上はたぶん僕の理性が保たない。
「ぎゅうぅうう〜! 愛してます幸守様ぁああ〜! 好き好き好き好き好きぃ〜!!」
「ぎゃあぁああ〜! 今ゴキッていった!?」
早速力加減がなってない。痛い痛い痛い!
どうやら僕の肋も保たないようだ。
「幸守様は本当にシャイですぅ〜! 柴神師範に鍛えられた幸守様が、この程度のハグで背骨が砕かれるはずないですよ〜!」
「ごめんなさい! 鍛錬サボってすみませんでしたぁ〜!! だから許してぇええ〜!」
ゴキッ!
「…あっ………」
ちょっと、早まった真似をしてしまったのかもしれない。
そう思った水城院 幸守であった。




