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第30話 鬼の目にも涙


ここはお屋敷内の大食堂。必死に逃げ回ってヘトヘトになっていた水城院 幸守はロングテーブルの下へと身体を潜り込ませた。一休みさせてもらおう。


「あっ! び、びっくりしました…。脅かさないでください幸兄さん…」


「…え?…和奏ちゃん? こんな所に隠れていたんだね…」


「はい。1箇所に留まるのは危険だと思い何度か移動しながら、逃げ延びています!…ところで、幸兄さんは着ている服が、先程お会いした時と違いませんか?」


「よく気付いたね。これは、ナユタ対策の身代わりの術なんだよ……正直、やりたくはなかったけどね…」


「身代わりの術!?」


今頃ナユタは僕の汗の臭いが染み付いた生贄の服を見つけ出し、悔しがりながらもクンカクンカしている頃だろう。本当、苦肉の策だったんだ。


ここは、テーブルクロスのおかげでパッと見では姿を確認できないだろう。だが、いつまでも同じ場所に隠れていると、ボルゾイ型追跡メイドの嗅覚で捉えられてしまうため、息を整えたらまた移動しようと思う。


「…まさか、和奏ちゃんが逃げ延びているなんて…なかなかやるね……」


「むぅ~! 私が1番に捕まってしまうと思っていたんですか幸兄さん?」


頬を膨らませて僕を可愛らしく睨み付ける和奏ちゃん。テーブルに頭をぶつけないよう四つん這いになったまま、ハイハイして僕に近付いて来る。高校生とは思えない愛くるしい姿だったという…。


和奏ちゃんのような、か弱い女の子にはこの手のゲームは向いていないと思っていたのだが、何だかんだで生き残るタイプのようだ。小まめに移動しているのも偉いし、意外と見た目より勇気があるのかもしれない。


僕のようにがむしゃらに逃げ延びたわけではないようだし、これは隠れ鬼だ。体力が無くとも少しずつ移動しながら隠れてやり過ごせば、最後まで生き残れもするだろう。素直に感心していた。なかなかやるものだ。


「幸兄さん! むぅ〜…」


「ごめんごめん…怒らないで和奏ちゃん…」


「頭を撫でてくれたら許します!」


「えっ?…でも、僕の手…散々走り回ったから結構汗ばんでて…汚いし?……」


「撫でてくれないと許しません…」


撫でないと許されないなら、撫でるしかないわけで、申し訳程度にハンカチで手を拭ってから僕は和奏ちゃんの頭を優しく撫でる。


「かくれんぼの天才だね…」

「えへへ〜…褒められました〜…」


本当に、可愛い妹というもののお手本のような女の子だなと思う。決して唯香が可愛い妹じゃないと言いたいわけではない。断じて否なので、勘違いしないでほしい。


「…よしよし……よしよしよしよし…」

「えへへ〜…幸兄さん……すやぁ〜…」


いや、寝ちゃったんですけれども!?


なでなでで緊張の糸が解けたのか、そのまま僕の膝に頭を乗せて寝てしまった。これでは動くに動けないのですが!?


まさに油断だった。今見付かったら逃げようが無いなというその瞬間に奴が来た。


ガバッ! と捲り上げられたテーブルクロスの先には、恨めしそうに僕らの兄妹なりきりプレイを睨み付けている鬼さんの姿が…。


「ゆ~きも~り~く~ん! み〜っけた〜!」


「………うん…流石にこれは……」


動けないから仕方無いよね?


僕と和奏ちゃんは同時に鬼の照明君によって確保されてしまったのであった。


その時、別の部屋では…。


「遂に見つけましたよ幸守様ぁ〜!!…これは、幸守様の着ていた汗と温もりが染み込んだ服!? 身代わりの術とはやりますね〜! ですが次は、脱ぎ脱ぎ…そうは行きませんよ幸守様ぁ〜! 装着!!…さあ、ナユタと幸守様のバトルはまだまだクンカクンカ…これからです! すぅ〜、はぁあぁ〜ん……」


身代わりの術は見事に成功していたという。


「ちょっと胸周りがキツいですね〜! ですがこんなものを餌にされては、着込むしか無いというものです。流石は幸守様…これでナユタを幸守様の匂いで包み込み、鼻を利かなくさせる作戦ですね……嗅覚を封じられようともこのナユタ! 必ずや幸守様を見つけ出して骨の髄まで喰らい尽くしてさしあげますよ〜!」


その数秒後に、幸守は味方の妨害により逃走不可な状況に追い込まれて、あっさりと尚川 照明に確保されているのであった。



悪友の照明君と新園さんの提案である水城院家のお屋敷を舞台にした隠れ鬼。前半戦はやむなく参加していた僕だけれど、回数を重ねる毎にその奥深さにのめり込み、後半は普通に楽しんで遊び尽くしてしまった。


即席で考えた身代わりの術がナユタ相手に綺麗に刺さったことがあまりにも気持ち良かったせいかもしれない。ナユタも少しくらいは息抜きになったのだろうか?


今日はきっちりと唯香が大浴場を利用する時間帯を聞いてから大浴場を利用したので、彼女とバッティングするなんてハプニングも起きずに、湯船にゆっくりと浸かり、サッパリした後は、腰に手を当てて、広い脱衣場にてバスタオル1枚姿のままビンのコーヒー牛乳をグビッと頂く。冷えたコーヒー牛乳がポカポカした身体に染み渡る。


「…っく~ぅ。 生き返る……贅沢だ…」


「安い贅沢ですね〜。幸守様ぁ~」


うるさい。別に良いじゃないか。孤児院に居た頃からこれが僕の楽しみだったんだ。


そんなことよりも聞きたいことがある。


「……何をしているのかなナユタさん?…」


「幸守様の脱いだら凄い鍛えられて引き締まった肉体を肴に一杯やろうかと〜!」


一杯やるな! ナユタは僕と1つしか歳が離れていないんだから一杯やるな! それより何より、男性用脱衣所にどうして居る!?


「ここは女性立ち入り禁止だよね?」


「そうかもしれませんが例外はあります! ちゃんとナユタは、お掃除中ですと外に貼り紙を出してから男性用脱衣所のお掃除に来たので何の問題もありません幸守様!」


確かに掃除のおばちゃんが男子トイレを掃除しに来ることとかはあるけれども、年頃の女の子がやっていい所業では無い!


「僕が大浴場を利用しているタイミングでおっ始めなくてもいいじゃないかな!?」


「これにより、源治郎様の乱入を防ぐ狙いがあるのです! ナユタの裸を見ても良い殿方は幸守様だけと世界が始まる前から定められておりますので!!」


「聞いちゃいねえ〜…」


いやダメでしょ。源治郎さんの行動を使用人が妨げたらダメでしょ!?


「道具とはこう使うのですと、ナユタは隠れ鬼で幸守様から学びました!」


余計なことばかり学習する子だ。身代わりの術作戦が裏目に出てしまったか。これ以上ナユタに悪知恵を付けるのは、巡り巡って己の首を絞めることになるだけか?


いや、そもそも自分の都合で雇用主をUターンさせるメイドってメイド失格だからね!?


こちらは万が一に備えてバスタオルを腰に巻いてはいるものの、防御力はあまりにも紙装甲だ。ちょっと動けば緩んでしまい、誰も望まぬポロリが成立してしまうことだろう。


対するお掃除に来たと嘘を吐くメイドさんは脱衣が目的で男性用脱衣所に来たわけではないため、当然メイド服を着用している。


幸いにもまだ脱ぎ散らかしてはいなかった。男性用脱衣所でナユタが脱ぎ散らかすと思っている僕も僕だが、彼女なら何の躊躇いも無く脱ぎ散らかすだろう。だってこの場に源治郎さんが来ない場づくりが済んでいるし!!


知っていたと言わざるを得ない次なる彼女の行動に対し、僕は全力でお着替えを開始するという択を取る。緑髪メイドさんの男性用脱衣所ストリップショーが始まってしまった。


「バサッ! 2秒で下着姿になれます!!」


ショーが2秒で終わってしまった。


「早過ぎっ!? どんなメイド服なのっ!?」


脱ぐことに特化させたメイド服とは!?


また勝手にメイド服を魔改造したな!?


緑髪巨乳メイドのナユタさんの下着姿を見せつけられて僕の心臓の鼓動が加速する。大体君はいつからこんなに実ってしまったんだ。まだまだ成長期って本当なのか!?


いいや、ダメだ。見てないで視線を逸らせ。かくなる上は逃げるが勝ち!



腰に巻いたバスタオルを庇いながら颯爽と逃げ出そうとした僕だが、下着姿になり身軽なナユタに瞬発力で敵うはずもなく、飛び付かれて押し倒されてしまう。


「おぶっ! も、もう隠れ鬼は試合終了だってさっき言ったよね?」


鼻を打った! 痛い。などと言っている場合ではないことは、お茶の間の皆様もそろそろご存知の事だろう。何を隠そう彼女は変態だ。


「諦めたらそこで試合終了ですよ幸守様!」


「諦めなければブザーが鳴っていても続けていいという言葉ではなくてだね! もう試合終了してるから、諦める諦めないとか関係無くてだね!?…」


「これは幸守様とナユタの延長戦です! ご安心ください幸守様! この延長戦に試合終了という概念は用意されておりません!」


「僕は諦めないぞ!? 必ず逃げ切ってやるんだからね!…あっ、僕のコーヒー牛乳…」


まだ半分残っていたコーヒー牛乳をナユタにグビグビと飲まれてしまう。先ずは、僕の心をへし折ろうとでもいうのだろうか?


喉が渇いていたのなら、別に僕から奪わなくても、そこに備え付けられている冷凍ケースから取り出せば良かったじゃないか。


「ぷはっ、幸守様との間接キス!…」


それが狙いか!?


そうでした変態でしたね。恋人同士なら甘酸っぱいイベントだったのかもしれないけれども、僕とナユタは恋人ではないし、水城院 幸守として生きると決めた日から、恋人は作らないと決めているんだ。


ナユタにだって何度もそう話したのに!!


「幸守様ぁ~! 今宵こそは、幸守様のそのビッグマグ○ムでナユタの大切なファーストを撃ち抜いて下さいませぇ〜!!」


下着越しだが、ナユタの大きくて柔らかい弾力のある、この世の全ての男を悩殺する凶器が僕の背中に当たっている。大浴場で汗を流して来たのに、凄い冷や汗で台無しだよ!


「うわぁあああ! ナユタちゃん!? お胸がボインで当たってるってばぁ~!」


「当ててるんですよ幸守様ぁ〜! ご安心ください! 余計なブラも今外しますから〜! そんなに焦らなくても、幸守様の性奴隷であるナユタは逃げも隠れもしないですよ〜!」


君を性奴隷にした覚えは無い!


「脱がないで! 僕は逃げて隠れたい!!」


「逃げて隠れてクローゼットの中へ、狭いスペースで2人切り。唯香様とは随分とお楽しみでしたね幸守様ぁ〜!」


耳元でそんなことを囁かれた。


「………あああ…あれは、えっとですね。そう、事故みたいなもので…」


話していないのに何故バレている?


クローゼットの中から僕の臭いと同時に唯香の匂いがあったことに気付いたのか。何故にこのメイドさんは狩猟犬並みの嗅覚をしているんだ!?


「別に構いませんよ幸守様ぁ〜! 密着不可避のキツキツスペースで、裸のナユタと夜が明けるまでともに致しましょうか〜? シチュエーションはナユタも大事だと思います!」


全力ダッシュの繰り返しで脚には乳酸が溜まっているため、夜が明けるまで立っているのは流石にキツいんすけれども…。


「大丈夫です! 幸守様のビッグマグ◯ムはナユタが幸守様専用メス豚メイドという誇りを持ってして、100回でも2000回でも立たせてみせますので!!」


「そんな誇り捨ててしまいなさい!」

「はい! こんな処女は捨ててしまいます!」


言ってない! そんなことは言ってない!


それは僕じゃない誰かのために、大事に取っておかないといけないやつじゃないかな!


何か現状の打開策は無いのか!?


「は、鼻打っちゃったよナユタ! お手数だけど救急箱取って来てくれないかなぁ~?」


「それはいけません。どこを打ち付けましたか幸守様!? 今直ぐにナユタの胸を押し付けて癒して差し上げましょう! ナユタの胸には癒し効果が備わっており、その母乳は栄養満点で幸守様が満足すること間違い無し!」


「…と、思ったけど大したことは無さそうだから大丈夫だったよ!…そもそも、母乳なんてまだ出ないよね!?………はっ…」


つい勢いでノリツッコミをしてしまった。


「出ますよ幸守様…もう直、出ます……幸守様が出るようにしてくださいますし、出るようになったら、遠慮せずに好きなだけ飲んで良いですからね。さあ…心行くまで子作りに勤しみましょう…幸守様ぁ〜……」


耳元で甘く囁くのはやめてほしい。


想像して立っちゃうからっ!!



「よいしょっと〜!」

「ぎゃあぁ〜! 僕お嫁に行けなくなる〜!」


馬鹿力過ぎてナユタに余裕でひっくり返され、体勢をうつ伏せから仰向けにされた。おそらくだけれど、日々の激務で鍛えられているのか、ナユタは体格の良い照明君よりも明らかにパワーがある。だと言うのに脱いだらちゃんと女の子なのは反則だろう。ちらっ?


ぎゃああぁ〜!!? 色っぽい緑髪巨乳美少女メイドの下着姿が僕の上で待機している!


「嬉しいです幸守様ぁ〜! しっかりとナユタのことをいやらしい目で見てくださって、視姦されるだけでもナユタは、はぁ、はぁ…胸の鼓動が高鳴って止みません〜!!」


ナユタは好きな人を襲いたいんじゃない。襲われたい女の子なのである。だからこそ、僕が鋼の理性で堪えてさえいれば、踏み込んではいけない一線は越えずに済む。予定だ。


いつだってナユタはギリギリのところで僕に手加減してくれていたんだ。今日は、少し唯香と近付き過ぎたせいでナユタさんもほんの少し過激になっているだけなんだ。


ナユタの気持ちは知っている。


本気だってことも知っている。


けれども僕は、僕に君を手に入れる資格なんて無いと思うから、手は出せない…。


手は出さないと決めている。


無防備のまま思い切り目を瞑る。


その気になれば、ナユタは僕からいくらだって何だって奪えるだろう。奪えるはずなのに踏み越えては来ない境界線が存在する。その最後のラインを僕に踏み越えさせようとして来るんだ。奪えと、何も考えずに獣のように身体を奪えと誘惑して来る。


そんなことできないって言ったのに。


何度も、何度も、言っているのに…。


「ナユタは幸守様のことが大好きです。幸守様と両思いになりたいんです。今はまだ、一方通行のこの気持ちが、いつか幸守様に届くように、ナユタは生涯…幸守様のことを誘惑し続けますから……」


「………………ナユタ………」


何度も好きの気持ちを伝えられて来た。


「大好きですよ。本当は今すぐにでもキスしたいんですよ。その先だって、たくさんしたいんですよ。だから、早く目を覚ましてください幸守様…。幸守様こそが幸守様なんだって気付いてくれないと…。ナユタは…」


「……え?…な、ナユタ??……」


瞳から零れた大粒の雫が僕の頬に乗り、静かに頬を伝い流れて行く。




「…ナユタは…最強のメイドさんなので…」


少女は心に決めていた。


弱々しく声を殺して泣く姿など、決して誰にも見せまいと…。


強くあり、理想を演じる。無理矢理に笑顔を作り、悲しみの感情を誤魔化し、演じているいつも通りの、ちょっとエッチな最強無敵のパーフェクトメイドの顔に戻ろうとする。


甘えという最後の雫が零れ落ち…。


「ナユタがお手伝いします! 幸守様が目を覚ましてくれるまで…幸守様の忠実なる淫乱エロメイドとして…。幸守様のことが大好きな1人の女として、ずっとずっと…幸守様のことを支え続けて見せます……」


「………今?…気のせい? 泣いて……」


「泣いてません! ナユタを幸せでギャン泣きさせたいのでしたら、有無を言わさずに襲っちゃうしかありませんよ幸守様ぁ〜!」


「そ、それはちょっと…でも……」


スッと伸ばされた温かくて大きな手が、頭の上にポンと乗せられて、幸守様がナユタにご褒美をくれる。孤児院ではもっと、頻繁にそうしてくれていた久方振りのご褒美だ。


「…えっと、よしよし……」

「……………………………」


「ごめんね? いつも、ナユタは凄く頑張っていて、とても偉いよ。でも、あまり頑張り過ぎないでね。エッチなことは本当に勘弁してください…でも、泣きたくなったら…胸を貸すくらいはできるから……溜め込む前にちゃんと僕に言うんだよ?……」


「………幸守様の女たらし……」


「えっ!? そ、そんなつもりは……」


大好きな御主人様に身体を預ける。


「ぎゃあぁあああ〜! 胸胸胸胸がっ!?」


「胸を貸してくださるのではないのですか? 今言ったことをもう忘れてしまうなんて…」


「それはそういう意味ではなくて!?…いやいやいや、いや?…そういう意味なのか?」


御主人様が動揺してドギマギしている。


次第に身体も心も温められて行く。


「ダメですよ。そんなこと、女の子にほいほい言ってたら、惚れられても仕方無いんですから、その気も無いのにそんなこと言うのはナユタだけにしておかないと…後で大火傷しても知りませんからね……」


「へっ?…どういうこと??……」


御主人様らしい応えが返って来た。


「教えてあげません。でも、もう少しだけ胸はお借りします。明日も頑張れるように、幸守様エネルギーを身体にチャージしなければならないので、ご協力をお願いします!」


「………何秒でチャージ終わる?…」


「1800秒…」

「長い! 僕の胸の無料時間は3分まで!」


「でしたら、なでなでも含めて180秒でおおめに見ましょう。その期間はしっかりとナユタの温もりと匂いで幸守様も下半身をチャージしていただければと!」


「余計なお世話だよ! 僕はその砲台をチャージしたくないんだけどなぁ〜!?」


「スンスン…幸守様は良い匂いがします…」


「単純にシャンプーとボディソープの匂いだと思います! てか、嗅がないで!?」


「幸守様もナユタのニオイを嗅いでみてください。嫌なニオイじゃないでしょうか?…」


「えっ……嫌だ…嗅ぎたくない…」


「ショックで渡米してしまいそうです…」


「え? そ、それも………困るけど…ナユタは源治郎さんの支えになっているし……それに僕だって、ナユタの元気な姿にいつも勇気付けられている…気もするし……でも……」


「でも?……」


「…良い匂いで興奮しちゃうから、絶対にナユタの匂いは嗅がない!…口呼吸でこの場を凌ぎ切ってやる!…すぅ〜、はぁ〜…すぅ〜、はぁ〜…すぅ……」


「はぁ〜…」

「んっ、あばばばばばば!?!??」


「幸守様がナユタの吐息を身体の中に取り込んでくれました〜!!…幸守様とナユタで互いの吐いた息を交換し合うのと、ナユタの匂いを嗅ぐのではどちらが良いですか? ちなみにナユタはどちらもを所望しま……」


「……………………………………」


「別に構いませんが、幸守様がそのまま息を留めて気絶したら、ナユタは合法的に人工呼吸をしますよ〜? 人工呼吸は世間的にはノーカウントですから〜!!」


「ぶはっ、ぜぇ…はぁ…はぁ…はぁ…ギブアップだよ! 降参! もう降参だよ!」


今日もまた降参されてしまった。


このまま、3分間身を委ねて幸守様エネルギーをチャージしたら、今日のところはこの辺で身を引こう…。


「…すぅ……ナユタは良い匂いだよ…」

「…………………………」


「肩からも、髪からも…良い匂いがして、気がおかしくなりそうだ。僕はおかしくなりたくない。ちゃんと源治郎さんの役に立つ水城院 幸守を果たしたいんだよ……」


「………………………」


不意に御主人様の頭に手が伸びる。


「よしよし!」

「…………ナユタ?……」


「幸守様はいつも頑張っていますよ。幸守様こそ、たまにはナユタの胸で甘えたって良いんですよ。ナユタの胸は365日幸守様のために空けてありますから…でも、この胸にぽっかりと穴が空いてしまう前には、幸守様の愛で隙間無く埋めてほしいところですね〜…」


「…………………………」


御主人様はその後は黙って頭を撫で続けてくれた。天然の女たらしな彼のことだから…きっと、唯香様や、和奏様にも同じようなことをしているのだろう。


「ナユタが1番幸守様を愛しています…」


「………………………」


「その匂いが、幸守様を1番愛している女の子の匂いですから、絶対に…忘れないでくださいね………幸守様……」


「世界一落ち着けない匂いだよ……」


その感想には、同意しちゃいますけどね。


こちらの台詞というものです。




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