第27話 2人目の義妹
部屋の外に出ると和奏ちゃんが待機していた。こころなしか緊張しているように見えるが、実は僕の方がよっぽど緊張している。何故今の僕は、浮気している感じになってしまっているのだろう? 全く微塵もそんなことは無いというのに。
「ごめんね。それで、何かな和奏ちゃん?」
「…お兄さん…えっと…………」
部屋にナユタを連れ込んでベッドに横にして、額にキスまでして寝かしつけた直後に別の女の子と密会。やってることは正しくダメな男のそれだなぁ。
どうしてだ。どうしてナユタも、唯香も、和奏ちゃんも、こんなにも平常心を保てない程の美少女なんだ。新園さんも優れた容姿をしているけれど、そこまで意識したりしなかったじゃないか。後輩美少女による上目遣いの魔力で僕の心拍数が上がってしまう。
銀の髪から、唯香が使っているものと同じシャンプーの良い匂いが漂って来る。そのパジャマ姿も、男に見せていいものなのか怪しいところだ。照明君なら既にもう3回は和奏ちゃんを襲っていただろうね。
一難去ってまた一難か。
大好き! なんて、言われていない相手故に、和奏ちゃんとは落ち着いて話ができそうだ。とはいえ、数時間前に捲れたスカートの中の純白パンツを見てしまった相手ではある。
互いに気不味いのは、仕方無いか…。
「お兄さん! 今日1日、無理に付き合わせてしまってごめんなさいでした!…」
「………えっと?…」
「それから、ユイと2人でズルをしたこともごめんなさい! 元はと言えば、私がユイに…お兄さんとも一緒に遊びたいと頼んだからいけなかったんだと思います!…だから、本当にごめんなさい! ユイの事を、嫌いにならないであげてください!……できれば、私のことも………だ、ダメ…ですか?…」
泣きそうな顔になる和奏ちゃん。
「…ん〜? んん??……」
「んん?…」
2人で小首を傾げる。
「別に僕は和奏ちゃんにも、唯香にも、謝られるようなことはされてないけれど?…ええと…え? 僕って2人に何かされてたっけ??…」
「…い、1日中…無理矢理………」
「嫌々付き合ってなんかいないよ。和奏ちゃんと一緒に遊べて、僕も楽しかったよ!」
「…………………………」
まあ、ツイスターゲームはもう勘弁してもらいたいところではあるけれど。その他は、普通に健全に遊んでいただけな気がする。罰ゲームからのハプニングもあったけど、僕に謝るようなことがあったか? 僕が謝らなきゃならないことならあったけどね!!
いや、謝ろうよ。先に頭を下げられてしまったじゃないか。和奏ちゃんは大人だな。
「こっちこそ、ごめんね。勝手に途中退室しちゃって…それに、和奏ちゃんの下着も見ちゃったから…ごめん!!……」
「い、いいんです! あれは、お兄さんを罠にハメようとした私とユイの自業自得だったと思うので、存分に見てやってください! 何なら、恥ずかしいですが、もう1度くらい…見ますか?…」
若干涙目な和奏ちゃん。
そんなことを僕以外の男に言っちゃいけないよ。襲ってくださいと言ってるようなものだからね。
「いや、もう見ないよ!?…和奏ちゃんに嫌われるようなことはしたくないし…僕はこれからも和奏ちゃんと仲良くしたいなと、思っているよ?…」
「仲良くしてくれるんですか!?」
「そりゃ、和奏ちゃんが嫌じゃなければ…」
「仲良くします!!…私は、お兄さんともっと仲良くなりたいと思っています!」
親友の兄って、こんな感じなの?
他人以上友達未満。くらいの間柄だと思っていたのだけれど、これはもう友達レベルなのではないだろうか。僕って、もしかして和奏ちゃんの友達なのではなかろうか?
可愛い後輩だとは思っているけれど…。
友達なのか!?
確かめるべき、だよな…。
「和奏ちゃんは僕のことを…」
「はうっ!?……」
いきなり赤面されても困るんだけど?
これは、少なくとも赤の他人ではないな。
「…はい……白状します…私は、お兄さんのことが好きです……」
「………え!??……」
こ、ここ、これって愛の告白!?
「理想のお兄ちゃんなんです! だから、お兄さんと一緒に遊ぶのはとても楽しいですし、もっともっと仲良くなりたいですし、お兄さんみたいなカッコいいお兄さんが居るユイのことが羨ましくて羨ましくて仕方が無くて、とても嫉妬しています!! むぅ〜…」
これは、たぶん違うな。勘違いだ。
「そ、そうなんだね〜…」
「そうなんです! なので、お兄さん!…」
ゴクリ。生唾を飲む程のことは無いと思うけれど、何となく瞳が真剣なのでゴクリ。
「私のお兄ちゃんになってください!!」
「……ん……………どうやって?……」
和奏ちゃんも源治郎さんに養女にでもしてもらうつもりなのだろうか?
「それはその、本当の妹にはなれないとは理解しています。それでも、私もユイみたいに接してもらえたら嬉しいなという意味で、お兄さんがユイを大切にしているという気持ちは凄く伝わって来るんです……それが…羨ましくて、だから…私も………」
「…えっと……和奏ちゃんみたいな可愛い妹なら大歓迎だけど…」
「本当ですか!??」
「最後まで聞こうね?」
興奮する和奏ちゃんを諌めて続ける。
「…大歓迎だけど、それでもやっぱり、僕の妹は唯香だけだから、全く同じ扱いはしてあげられないよ。唯香と和奏ちゃん…どちらを優先すると言われたら、僕は唯香を優先するから、絶対にね………」
「…ユイが羨ましいです…………」
「だから、その次でも良いのなら、和奏ちゃんを妹みたいに扱うように心がけることくらいはできr………」
「本当ですか!!?」
「最後まで聞こうね?」
興奮する和奏ちゃんを再び諌める。
「…和奏ちゃんの理想のお兄さんになれるわけではないと思うけれど、僕なりに和奏ちゃんを唯香みたいに扱う努力をすることはできるから、それで…いいかな?…」
「はい!!」
パァァァと満面の笑みを咲かせる。
こんな笑顔向けられたら、男なんてどいつもこいつもイチコロなのではなかろうか。良かったよ。愛の告白じゃなくて助かった。
しかし、唯香のように扱えと言われても、僕ってそもそも唯香をどんな感じに扱っているのだろうか? できる限り嫌われないように接しているだけで、兄として特別なことは何もしていないと思うけれど…。
何かしましたっけ??
少し勉強を見た程度だと思う。
パァァァ!!
何待ちの笑顔か見当がつかない。困った。
「よ、よしよし…」
とりあえず頭でも撫でてみる?
こんなこと、唯香には3日に1度しかするなと言われていることなわけだけど。
「わぁあ〜! えへへ〜。幸兄さん!」
がっしり腰に腕を回して僕に抱き着いて来る和奏ちゃん。僕は思わず、何もやましいことはしていないアピールで両手を上げる。これは一体全体何事だろうか???
「大好きです幸兄さん!!」
む、胸が! 控え目だけど確かに実りつつある和奏ちゃんの胸が、薄いパジャマ越しにグリグリと擦り付けられて気が狂ってしまいそうだ。僕の胸板にほっぺをスリスリするのもやめてくれ。唯香はそんなことしていない!
唯香は僕に大好きとも言っていない!
そんな言葉、言われるはずもない!
これは僕の知る妹とは別の生き物だ!!
和奏ちゃんの髪の毛の匂い。いけない。抱き締めてその髪に顔を埋めたくなる。
「わ、和奏ちゃん!?…唯香は僕にそこまでのことはしていないんじゃないかなぁ?」
「していないだけで、ユイも本当はこうやって幸兄さんに甘えたいと思っているはずなんです! 幸兄さん…ポカポカします〜…」
やめてやめて。僕の体温が未だかつて経験したことの無い体温を迎えてしまう!!
「幸兄さん…私、夢が叶って幸せです…」
「そ、そうなの?…それは良かったけど…」
あっ、不味い。これは非常に不味い。
「冷房入れましたか幸兄さん?」
いいや、この冷え冷えは人力なんだ。
僕は、何もやましいことはしていないのポーズをキープしたまま、上目遣いで僕を見上げて来た理想の義妹和奏ちゃんに、顎をクイクイ動かし、背後を見ろと合図する。
「……後ろですか?…あっ、ユイ!」
ニパァァアと天使のような笑みを見せて、僕から離れて唯香に抱き着く和奏ちゃん。そんな和奏ちゃんを無表情のまま抱き締めて、頭をよしよししてあげている。
ダメだ全く微笑ましく見えない。
唯香のどこまでも深い真っ黒な瞳が僕を捉えたまま放さずに、その表情筋は微動だにせず手だけがひたすらよしよしを続ける。
怖い。怖い怖い怖い怖い怖い!!
「幸兄さんと仲直りできました! 妹にもしてもらえました! えへへ〜。ユイも早く仲直りして、また3人で一緒に遊びましょう!」
「ええそうね。でもその前に、家族会議が先かしらね?…純真無垢な女の子をたぶらかす悪い兄には、たっぷりとお灸を据えてあげないといけないわよね?」
「ところでユイは、どうしてそんなに冷たくなっているんですか?」
「シベリア前線のせいよ…」
「冷たくて気持ち良いです!」
ヤバい。氷漬けにされた後に砕かれてこの世からおさらばしてしまう。何の役にも立てずにこの世を立ち去る無礼をお許しください源治郎さん。また、会う日まで…。
死を覚悟して僕は義妹の裁きを待つ。
「……幸兄…」
「は、はい!…」
和奏ちゃんを離した唯香が僕に近付いて来て脳天かかと落としの届く間合いで立ち止まると、彼女はそのまま額を僕の胸板に押し付けて来たりして、ハートブレイクヘッドバッドにより僕の心臓がその活動を停止。
などという物語終了のお知らせは回避できたようではあるが、唯香式シベリア前線は未だに北上中だ。誰か教えてくれ、僕は何故まだ生きているんだ??
和奏ちゃんが不思議な踊りをしている。
唯香のマジックポイントを減らしてイ◯ナズンを失敗させようと奮闘してくれているのだろうか。本当に和奏ちゃんは良い子だな。
いや、違う。これは、まさか。そんなオカルトありえるのか。正気か。唯香の頭をなでなでして、肩を優しくギュッから、頭をポンポンして、仲直り完了です。
本当にその指示でいいのか?
それ僕、殺されないか?
わかったやるよ。やればいいんだろ?
僕は和奏ちゃんの指示に従って唯香の頭をなでなでして、彼女を包み込むように優しく肩を抱き締めて引き寄せ、もう1度頭をポンポンとしてから優しく微笑んで見せた。
「仲直りしよう唯香…」
はい。死んだ。僕は何をしているんだ?
「……………はぁ……」
ため息吐かれましたけど僕死にましたけど?
唯香の暗い瞳に光が灯った。
「何してんのよ? それでどうして私が機嫌を直して、幸兄と仲直りすると思ったのか説明してほしいわね…」
ごめん説明は無理だ。僕もどうしてこのアドバイスなのかよく理解していない。和奏ちゃんにもすがりたい気分だっただけなんだ。
「…今回だけ…なんだからね………」
最も危険な牌が通ったぞ!?
和奏ちゃん凄い!?!??
流石は僕の妹だ!!
※違います。
「今回は、私が全面的に悪いから、これで手打ちにしましょ? 良いわよね?…」
目が怖い。僕は全力で頷いた。
唯香の何が悪かったのかは知らないけれど許してくれるというのならば、ここはその恩情に乗るしかない。
「…それと………」
まだ何かあるのだろうか?
「和奏に本気にならないでよ? バカ守…」
小さく耳打ちされたその言葉の意味が僕にはよくわからなかったのだけれど、本気の妹にするなという忠告なのだろう。あくまでも妹のように扱うことは許すが、手を出すようなことは絶対にするなと。
わかっているよ。それは絶対に大丈夫!
和奏ちゃんは僕を兄の代わりとしか見ていないのだから大丈夫ったら大丈夫だ!
ね! 和奏ちゃん!?
「幸兄さん! おやすみなさい! 今度、一緒にお風呂に入ったり、一緒にお昼寝したりしましょう! 約束ですよ!」
和奏ちゃん!!?
「…鼻の下伸ばすなこの変態!!」
「ぐえっ!…り、理不尽だ……」
仲直りに成功したはずの義妹による鳩尾パンチを叩き込まれて、軽く涙目になりながらダウンする。どうしてこうも、僕の義妹はバイオレンスなのだろう。もう少しだけ、和奏ちゃんを見習ってくれてもいいんだよ?
こうして僕の、奇妙な休日の1日がようやく終わりを告げたのであった。
ああ、まだか。
まだナユタとの添い寝イベントが待っている。
長い悶々とした夜が始まりそうだなぁ…。




