第26話 保健体育
「通報しないでぇえ〜!!?」
義兄の水城院 幸守はそう言って義妹である私の部屋を爆速で飛び出して行った。
「ちょっ!?…通報まではっ…足速い……」
脱兎のごとくだった。
そもそも、和奏と一緒に幸兄の手を強引に引っ張ってこの部屋に連れて来て、半ば強引に遊戯に参加させたのは私たち2人であり、ツイスターゲームなどの男女でやれば、それはまあ少しくらいは何か起こるに決まっているゲームをわざわざ選んだのも私たち2人であるからして、一方的に嫌がる幸兄に相手をさせたのは私たちなのかもしれない。
冷静に考えれば、ツイスターゲームはともかく、脱衣ダウトはやり過ぎだった。何もそこまでしなくても良かったのではないだろうかと今更になってルール設定の過激さに後悔する。女の子から男の子に提案する罰ゲームとしては常軌を逸しているのでは!??
※はい。
幸兄に、変態って思われてないわよね!?
私は脱ぎ捨てた洋服を手早く着直し、可愛らしい純白のパンツが丸見えになっている和奏の捲れたスカートを無言で直してから、散らかったトランプを見詰める。
「和奏…とりあえず、片付けましょ?」
「…お兄さんにパンツ見られちゃいました。子供っぽいと思われていないでしょうか?」
見られたことは気にしていないのだろうか?
良くも悪くも中性的で人畜無害そうな義兄は目の前で女の子が服を脱いでも、パンツをモロ見せしていても、破壊衝動で女の子を強引に手籠めにしようとするような男ではない。
私も和奏も、それを理解しているから気が緩んでしまったのかもしれない。
だとしても、逃げ出すって何よ!?
通報なんてしないわよ!!
端から見ても、誘っていたのはどう考えてもこっちだったじゃない! そんなつもりは全く微塵も、これっぽっちも無いけれど!!
そうよ。私たちはただちょっと魔が差しただけというか、幸兄がどの程度まで理性を抑制できる人なのか試してみただけ!
和奏を夜に家まで送らせることもあることだし、万が一が起こらないかを、今日この機会を利用して確かめたかっただけなのよ!
他意は無いわ!
やましい気持ちなんて金輪際無いわ!!
「ああぁ〜!?!??…何してるの私!?…どっちが変態よ!??」
「そ、そうですね。冷静に考えたら、私たちは何をしちゃってるんでしょうか? 今の私って、お兄さんにどう見られていますか!?」
答えるまでもなく、変態だろう。
言われなくてもわかっている和奏が涙目になるので、私は頑張って親友をフォローする。
「だ、大丈夫よ! 幸兄も巻き込もうって言い出したのは私だし、和奏は私の提案に乗っただけだから……変態は私1人だわ………」
両手をカーペットについて落ち込む。
「そ、そんなことは無いです! 2人で計画した犯罪なので、私とユイは運命共同体だと思います! ユイだけ変態にはさせないです!」
逆に慰められてしまった。それよりも…。
計画した犯罪!??
相手がどう受け取ったかによっては、確かに計画した犯罪に片脚を突っ込んでいたかもしれない。けれど、ごめんなさいと謝って、通報しないでと逃げ去った幸兄はおそらく自分が被害者だと思っていないのだろう。
「…ううぅ〜何故なのでしょうか? お兄さんの前だと凄く安心して…ガードが甘くなっちゃいます。お兄さんは年上の男の子だというのに…私、はしたなかったです……」
ガードが甘くなった経験など無い。とは言い切れない私もつられて顔を赤くする。確かに和奏の言う通りだ。あの男は、女の子のガードを緩めるホルモンでも分泌しているのだろうか。そうでなければ、何故こんなにもペースを掻き乱されているのか理解できない。
いつの間にか、幸兄のことばかり考えてしまっている自分が理解できない。
「ああぁ〜!? もう、何なのよぉ〜!…」
「とりあえず、少し時間を置いてから…2人でお兄さんに謝りに行きませんか?…」
「……そうね…今回は全面的に私が悪かったと思うわ………」
「ズルしたことも謝らないとですね…」
「逆に利用されたけどね。幸兄が賢い人だってことを忘れていたわ。今度は、幸兄が賢いことを頭に入れて立ち回るわよ!」
「はい! でも、もうズルは無しです! バチが当たっちゃいますから!…」
「…そ、そうね……素直に反省するわ…」
次に、不慮の事故で私が幸兄に下着姿を見られたとしても、私は1度だけ幸兄の変態行為を笑って許しましょう。それを自らの罰とし償いとしましょう。だって、幸兄のことだもの。どうせまた何かやらかして来るわよ!
モヤモヤするので、やるならなるべく早くやらかしてほしいところだわ!
借りを作りっぱなしは性分じゃないのよ!
さあ、さっさと片付けるわよ!
細心の注意を払ったはずなのに、義妹と再び気不味い雰囲気になってしまった。何なら和奏ちゃんまで、あんなことになるだなんて、明日からどんな顔をして会えば良いのか誰か教えてほしい。
精神を落ち着けるにはお風呂が1番。我が家の大浴場は脱衣所は別だが、浴室は混浴なので唯香と和奏ちゃんにエンカウントしないように確固たる意志で使用せず、いつものように自室に備え付けられた簡素なバスルームで湯船に浸かった。
その後は、メイドさんのナユタに作ってもらった夕食を頂くのだが、これも唯香たちとは時間をずらして食べに行き、鉢合わせないように細心の注意を払った。
せっかくの楽しいお泊りをこれ以上邪魔したくもないので、僕はこの家に存在しないつもりで動いている。抜き足差し足忍び足が逆に変質者のそれだったかもしれないが、もう少し時間を置いてから再会したい。
少なくとも本日中に唯香と和奏ちゃんに会うなんて、僕のお豆腐メンタルでは不可能だ。
明日はちゃんと謝らないとなぁ。
若干憂鬱だが仕方が無い。源治郎さんにまたしても心配をかけてしまう、その未来だけは何とか潰さなければならない。
部屋の明かりを常夜灯に切り替えてベッドに寝そべり、布団を被ってから、誰に聞かせるわけでもない独り言を呟く。
「…疲れた……おやすみ…」
「おやすみなさいませ~。幸守様ぁ~」
「………うん……え?…は??…」
僕の発した独り言に返事があった。
常夜灯の明かりとはいえ、部屋の中にある家具のシルエットくらいは認識可能だ。暗闇に慣れていない目が徐々に見えるようになり、僕はついに真横から緑髪のメイドさんが唇を近付けて来ているマジでキスする0.5秒前を体感していた。
反応反射音速高速もっと速く!!
「どわぁああっ!!?」
慌ててベッドから飛び上がり、部屋の明かりを点けると、そこにはパジャマ姿のナユタが居て、どうやら本体のメイドカチューシャは彼女から切り離されているようだった。
ということは、今はメイドのナユタさんではなくて、僕の家族としてのナユタということで良いんだよね?
「ナユタ!? 驚かさないでよ! いつから僕の布団に潜り込んでいたの?」
「幸守様が唯香様たちと楽しい3Pをしていた時に、ナユタは乱入して4Pとしけ込むか幸守様のお布団で1人寂しく慰めるかの2択を迫られ、自制心で打ち勝って幸守様のお布団で1人寂しく慰める鋼の理性を発揮していたのです!」
自制心で打ち勝ってそれ!?
「先ず、誤解を招く言い方は止そうね!? というか、ナユタも一緒に遊びたかったのなら普通に混ざれば良かったのに…」
何ならそれで2対2の戦いなら対等だったと言えるだろう。どうしてナユタを召喚して対等な勝負に持ち込まなかったのだろう。今になって思えばその手が最善だったね。
とは言っても、水城院家のメイドとしての誇りと自覚に満ち溢れているナユタが、その責務を放棄して僕たちと遊ぶなんてことは、よっぽどの事がなければ選択しないだろう。
それこそ、僕が心から頼まない限りは…。
「大丈夫ですよ幸守様ぁ〜…ナユタも1人で遊んでいました! 1度濡らしてしまいましたが、ちゃんとシーツは取り替えて証拠隠滅しておきましたので、ナユタが励んでいたことは誰にも気付かれていません!」
「1番バラしちゃいけない相手に全力でバラしちゃった件について! という題名で小説を書こう!」
「興奮しましたか〜?」
「僕が書きたいのは健全なやつなんだ!」
冗談はさておき、本日ナユタが1人で励んでいたベッドで呑気に寝ろと言うのか。そんな場所で安眠できる程、僕がナユタのことを何とも思っていないとでも思っているのか!? 僕は君のことを唯香と同等レベルの美少女だと認識しているんだからね! 変態だけどね!
落ち着け。頭を冷やすんだ水城院 幸守。
そう、お前は水城院 幸守だ。
己の定めたルールに従い、ミッションを確実に熟せば良い。それだけで良いのだから。
「ナユタ! 悪いけれど、僕は今日…何故だかテンション爆アゲな唯香と和奏ちゃんのタッグに翻弄されて疲れているんだ。その上ナユタにまで迫られたらっ………」
「はい! 熱い一夜にしましょ〜!!」
まだ話の途中だったでしょ〜が!!
出て行け〜いぃ!!
「ナユタの温もりで幸守様の疲れた身体をリラクゼーションしてさしあげましょ〜。先ずはこのローションを身体中に塗りたくってから、はぁ、はぁ、はぁ……」
「ほ、本当に疲れているんだけど〜?」
水城院家の養子となった水城院 幸守君のことが大好きで大好きで仕方が無い、年中発情期の緑髪メイドさんは、週に2、3度、己の純潔を奪われようと夜這いに来る。
奪うのではなく、奪われようとする。そこがナユタを往なす時のポイントであり、彼女が自分自身に課しているルールでもある。
ぶっちゃけ、この縛りルールが無ければ、彼女よりも弱い僕は強行突破でぶち抜かれて、1日10回は純潔を奪われた挙句の果てに、今頃絞りに絞られてミイラ男にでもなっているだろうさ!
「幸守様ぁ〜! 何かお忘れでは? 保健体育のお勉強が、まだですよ〜!」
実技の方の保健体育を勉強する予定は今のところ全く無いからして…か、え、れ!!
「大丈夫です間に合っています!」
「いえいえ幸守様! 唯香様の兄として立派にお役目を果たされるためには、女経験というものは必要不可欠なのです! 幸兄って童貞だったの? 超ウケる〜!! と言われて、幸守様は精神を病まずに居られますか!?」
「居られるよ! 別にいいでしょ!? 確かに言われたら危機感を覚える錯覚に陥る可能性はあるけれど、別に高2で童貞なんて普通も普通だよ! 何も恥ずかしくなんかないよ!」
本当に、恥ずかしくなんかないよ!!
若い衝動に身を任せる方が危ないからね。
幸守お兄さんとの約束だよ!
「キスの仕方も知らずに、唯香様に弄ばれるつもりなのですか〜幸守様ぁ〜!?」
「いや、僕を弄んでいるのはナユタの方だよね。別に唯香は、今日は少し和奏ちゃんのお泊りで気分が高揚していただけであって、僕を弄ぶって程では無いと思うよ?」
無いと思うというか無いと信じたい!
罰ゲームが脱衣だったのも、きっと変なスイッチが入ってテンションがおかしくなっていただけ。明日には元通りの唯香さんに戻るはずだ。
刹那!
ナユタが天真爛漫なその雰囲気を、今年が最後のインターハイとばかりに、不良になってしまった元バスケ部エースを諭すイケメン眼鏡君さながらにガラリと変える。
「…大人になれよ…幸守様……」
「良いシーンが台無しだよっ!?」
本家と意味が全然違う!
「はぁ、はぁ、はぁ…ナユタとともに大人の階段を駆け上がりましょ〜幸守様ぁ〜!」
「もう素が漏れちゃってるよ!??」
「はっ!?…本当ですね。幸守様本体の匂いを嗅いだだけで、ナユタの中から愛が漏れ出てしまっています。食べ頃ですねぇ〜!」
「きゃ〜!? 僕の前でパジャマをズラしてパンツの中を確認しないで!? 自分で自分のことを食べ頃とか言わないで!!」
例えそうだとしても言わないで!
「幸守様はこのエッチな身体のどこに不満があると言うのですか!? こんなにはしたないのに何がご不満なのでしょうか!?」
「強いて言うならはしたないところかな!」
自覚があるのを誇っているのも何か嫌です!
はしたないのはステータスでは無いのです!
別に不満なんて無いけれど、というかナユタは『究極の変態』という一点に目を瞑れば、僕には勿体無いくらい素敵な女の子だと思うけれども、でも…すまない!!
「ナユタはこんなにも幸守様に犯されることを夢見る乙女だというのに、しくしく…」
「犯されることを夢見ないで? 乙女としてピュアの欠片も無い繋ぎ方だったよ?」
「……ん〜、ナユタはこんなにも幸守様に淫乱メス豚扱いされることを望む乙女だというのに、しくしく…」
「乙女をインストールして考えた結果のテイク2がそれなら、もう今日のところは帰ってもらえるかな? 今夜は自室でじっくりと、その乙女にあるまじきクレイジーな台本を書き直そうね!?」
「もっとですか? 欲しがりますねぇ〜!」
「違う。アクセルを踏み込んで欲しいんじゃないんだナユタ。アクセルブレーキを活用しつつ、サイドブレーキで完全に止まれるような女の子になってほしいんだ!」
「そうすることにより、幸守様が夜這いに来てくれるようになるというのでしたら致し方ありませんね。ただし、先にこの契約書に捺印を押してもらいますよ幸守様ぁ〜!…」
どこから取り出したその婚姻届。
勝手に僕の名前を書くな!!
「はぁ〜…幸守様ぁ〜…どうしてこう、幸守様はナユタの身体を熱くさせるのでしょう? 何かおかしなホルモンでも分泌してナユタの欲情を煽っているのではありませんか!?」
「そ、そうだとしたらごめんだけど…その正体はただの街人Yの僕に、そんな固有能力は存在していないと思う……というか…ナユタこそ、どうして僕にそこまで……」
僕は、君には相応しくないのに…。
「そんなの決まっていますよぉ〜! 幸守様のことが大好きで大好きで仕方が無いから、貰われたいんじゃないですかぁ〜!」
「…………………………」
「ナユタを好きにしていいのは、この世にただ1人、幸守様だけ、ですからねっ!!」
君の一途な想いは今の僕には眩し過ぎる。
「……………考えておくよ……」
「幸守様ぁ〜!?」
「考えておくだけだけどね!?…でも、わかったよ…ナユタの気持ちはわかった。今日は昔のように一緒に寝てあげるから…それで勘弁してください……」
「昔のように、繋がったままだなんて〜」
手です! 手のことだからね!!
僕は誰に弁明しているんだろうね?
「変なことしたら追い出すからね!?」
「仕方がありませんねぇ〜。幸守様がナユタを抱き枕代わりにして寝てくださるというのでしたら、今日のところは妥協します!」
「……いや、添い寝くらいでね?………」
そんなでっかい胸に触れながら眠れる程、僕はお子様ではない。目が冴えて、朝まで立つものが立ったまま、朝になって力尽きてようやく眠るなんて冗談じゃない。
明日は唯香と和奏ちゃんに謝り、仲直りをしなければならないんだ。そうだ。ナユタにも相談してみるか。話題を逸らしてうやむやにする作戦で煙に巻こう。
「ナユタ! 実は、唯香と和奏ちゃんと気不味い雰囲気になっちゃってさ…何か良い仲直りの手段があったりしないかな〜? なんて…」
「えぇ〜、もう、またですかぁ〜?」
「……また?…僕ナユタにそんな相談、前にもしたことあったっけ?……」
ナユタの顔色が一瞬変化するが、直ぐにいつものニコニコ顔に戻った。今のは何だったのだろう。彼女らしくないというか…。
しまった。そんな表情に思えたような…。
「添い寝で手を打ちます! その代わり、おやすみのベロチューを要求します!」
いつものナユタだ。先程のはいったい?
「…おでこでもいいですかね?」
「ベロチュー?」
「軽い接吻かなぁ〜!」
「幸守様は本当にシャイですねぇ〜! 女の子の1人や2人押し倒して、奴隷にして、何でも言うことを聞くように調教するくらい普通のことだと思いますけどねぇ〜!」
何処のエロマンガ世界の常識かは知らないけれど、ここは極めて健全な世界なんだ。ナユタに刻まれたその常軌を逸した考えは、いったい何処から出て来る発想なのだろうか?
「契約成立だね!」
「今日のところはですけどね〜!」
添い寝くらいなら構わないか。
構わなくはないけれど、それでも、孤児院ではよく一緒に寝ていたし、大丈夫だよね?
「この歳でまだ添い寝か…」
「えへへぇ〜」
本当に嬉しそうな笑顔をしている。
そりゃ、こんな可愛い子に大好きなんて言われたら悪い気はしないけどさ。でも…。
ダメなんだよ。
今の僕は、水城院 幸守だから。
役目を途中で投げ出したりはできないよ。
「横になってて、常夜灯にして来るから…」
「畏まりました〜、御主人様ぁ〜…」
いちいち僕の欲情を煽らないでほしい。
スイッチを切り替えて、部屋の照明を常夜灯に切り替えようとしたその時である。
コンコン、と部屋のドアがノックされて聞き覚えのある女の子の声が聞こえて来た。
「お兄さん。その、和奏です。えっとですね…眠れなくって…少しだけ、私とお話ししませんか?…ダメ…でしょうか?…」
まだ僕のメンタルは回復していないんだが?
というか、パジャマ姿のナユタが僕の部屋にしけ込んでいるこの状況で、和奏ちゃんを部屋に迎え入れるわけにはいかないんだが?
致し方無い。
「ちょっ…ちょっと待っててね!?」
そう言って僕はナユタの待つベッドの元まで駆けて行き、この後の展開に胸を高鳴らせている変態さんに向かい、ドアの向こうの和奏ちゃんには聞こえない声でお願いする。
「外で話して来るから先に寝てて…」
「えぇ〜、どうしまっ……」
寝そべるナユタの額にかかるサラサラした前髪を少しだけ手でよけて、僕は彼女におやすみのキスをする。昔を思い出す。孤児院に居た頃は、僕たちこんな距離感だったよね。あの頃もやらされていたのは僕だけど。
「…………………………」
「………ゆきもりさま…」
「良い子だから、先に寝てなさい…」
「…仕方無いですねぇ………」
ナユタが頬を赤く染めて、乙女のように小さく頷く。やればできるじゃないか。不覚にもドキッとさせられた。
ナユタは多忙だ。明日も激務に追われることだろう。例えそれが自ら望んだこととはいえ、ならばせめて、休息はちゃんと取らせてあげたい。たまに僕と一緒に寝たいと言うのであれば、叶えてあげるべきだったのかもしれない。もっと早く、こんな些細な願いなら叶えてあげるべきだった…。
僕はもう1度ナユタの額にキスをしてから優しく微笑む。
「おやすみ…ちょっと、行ってくるね…」
「目が冴えてしまいますよぉ〜…浮気してもいいですけど、ちゃんとナユタのところへ帰って来てくださいね。幸守様……」
随分と寛容なナユタさんだ。




