第25話 運と理不尽
5月の第3土曜日。
その日は朝から空気が湿っており、昼頃には予報されていた通りの台風による大雨洪水警報が発令され、僕たちは外出することができなくなってしまった。
そんな日に限って唯香と仲良しの和奏ちゃんが水城院家にお泊まりに来ていたからさあ大変だ。最も、大変なのは幸いにも遊びに付き合わされていた僕1人なわけだが…。
昼間から唯香に呼び出しをくらい、室内でできる遊びのオンパレードに付き合わされていた僕は少々お疲れ気味だった。もう、何時間ぶっ続けで遊んでいるのだろう。
たまにはハメを外すのも良いとは思うが、こちらは週に2度の休日の1つを潰された形と言っても過言ではない。唯香と和奏ちゃんという我が校きっての美少女2人と休日に遊んでおいて何を贅沢なと、男子生徒にまたしても嫉妬の視線を向けられかねない。
今日のことは伏せておかなければ…。
特にあのツイスターゲームと呼ばれる何が面白いのかわからない不健全で危険極まりない謎のゲームが良くなかった。あれはダメだ。存在が許されない!
※あくまでも幸守少年個人の見解です。
2人がカラフルマットの上に乗り、その中限定で第三者に指定された色のある場所へ体の一部を置いて行くというシンプルなゲームなのだが、唯香も和奏ちゃんも僕のバランスを崩そうとして、ぐいぐいこちら側のテリトリーに手やら足やら突っ込んで来るのだ。
いや、そういうゲームだろうと言われたらそこまでかもしれないが、どうして2人とも丈の短いスカートで足なんか伸ばして来るんだろうね? 見えそうで見えなかったから良かったものを、僕が照明君ならゲームにかこつけてそのスカートを捲り上げていたところだったよ。おそらく、絶対に…。
迫られれば迫られる程、僕の逃げ道は塞がれて2人の身体に自分から触れるわけにはいかない僕は瞬殺され、最弱ゲーマーとして唯香と和奏ちゃんの2人に認識されてしまった。
今度、照明君と同じゲームをしてみたらいいんじゃないだろうか。そう提案したら、2人には身の危険を感じるから嫌だと言われてしまった。一応僕だって健全な男の子なんだけどね?
そんなこんなで屋内でできる遊びをノンストップで続けた僕たち。体力の限界にでもチャレンジしているのかと思う程、何故か僕だけが一方的に疲れる闇のゲームが続く。
お次は和奏ちゃんの提案でダウトという名のトランプゲームが始まった。ようやく一息吐くことができそうで安心した。やっぱり、和奏ちゃんは僕の癒し枠だったのだろう。
1戦目は僕の負けだ。構わないさ。
「お兄さん! 先ずは1枚目ですよ!」
「男らしく脱ぎなさい幸兄!」
「……………え?………」
罰ゲーム。ダウトを当てられた者は身に着けているものを1つ脱ぐ。ダウトを宣言して外した者も身に着けているものを1つ脱ぐ。
僕は言われた通り、1つ靴下を脱いだ。
「え?」
何を素直に言うことを聞いているのだろう?
「男らしくないわね〜!」
「靴下からですかお兄さん!」
「あ、あのさ? 唯香? 和奏ちゃん? これはちょっと、スリルとショックがあり過ぎる気がしないかな?…その先に待ち受けているのはサスペンスかもしれないんだよ? 君たち、僕にダウトを当て続けられたら、僕に下着姿とか見られちゃうんだよ? それは完全にアウトだよね!?」
「え? 何? 幸兄がそれを言うの?」
あっ、ダメだ。唯香さんはまだ着替えの最中に僕と鉢合わせてしまったことを根に持っているご様子だ。何なら浴場でタオル1枚の唯香すら僕は既に拝んでいた。
何か文句あるの? という、その無言の笑顔に逆らえず、僕は黙り込むしかなかった。
いや、いいさ。勝てばいいんだ。次の1枚を脱いだら下着姿になっちゃうから、ここで終わりにしようか。そう言って、この戦争を終わらせればそれが平和への架け橋だ。僕は平和主義なんだ。
そのためにも、僕はここで負けられない!
ここからは本気だ。かかっておいでよ!
正義は必ず勝つんだよ!
「ユイ! 手札見せてください!」
「和奏も見せて…ふむふむ…」
このゲームには必勝法がある。
唯香と和奏ちゃんが仲良く手札の情報をシェアして僕と戦うのだとしたら、ガン不利なんて対面ではない。2人が持っていないトランプは必然僕が抱えていることになり、2人が抱えていて余っていないトランプの数のタイミングでダウトと言えば僕の詰みだ。
そして、こちらは唯香と和奏ちゃんのどちらにダウト宣言を刺せるかわからないという圧倒的不利にも関わらず、中盤まで来ると容赦無くダウトを100%の確率で言い当てられてしまう仕組みなのである。
これはもうゲームとして成立していない。
公開処刑という言葉を聞いたことがあるだろうか。知らないなら、今の僕をとくと見て楽しむといい。これがその公開処刑だ。
「い~ち!」
「に〜!」
「さ、さん……」
「3はどうですかユイ?」
「流石にまだ本当のようね!」
どうしよう辛い。負けないゲームというのはさぞかし楽しいんだろうなと思う。我が家にイジメはありません。ドメスティックバイオレンスなんて、そんなの、ぐすん。そんなのあるわけないじゃないか!!
「きゅう…」
「「ダウトぉー!!」」
僕はそっともう片方の靴下を脱いだ。
我が家にイジメは……。
最早何も言うまい。
ブーブー、と可愛らしくブーイングする後輩美少女2人。僕をひん剥いて何が楽しいと言うのだろうか。そもそも、女の子側が脱衣を罰ゲームに設定するなんて意味不明だった。
100%勝てるなら確かに脱衣を罰ゲームにしても何の問題も無いわけだ。
いや、待てよ。本当にこのゲームは彼女たちが100%勝てるものなのか??
最後の最後まで待たれては、確かに分はかなり悪いけれど、一泡吹かせるくらいは可能なんじゃないか。少なくとも、靴下1枚くらいは脱がせてやる。
僕がトランクス1枚になるその前にな!!
ゲームが再開される。僕はあくまでも負け確定の哀れな敗北者を演じる。
A、4、7、10、K、3、6……よし良いぞ。完璧だ。勝つ可能性を残す戦術を閃いてから1番最初のバトルでロイヤルストレートフラッシュ級のちゃんと1周を回せる手札が来た。僕はこの手を待っていたんだ。神はまだ僕を見捨てちゃいなかった。
いいや、天使の和奏ちゃんが敵サイドだ。僕が契約したのは悪魔の新園さんか? 嫌な気分だが仕方無い。
トランプはジョーカーを除いた52枚。3人で割ると1人17枚が配られて、余りは1枚ということになる。その1枚が何かは分からないが52枚のうちの1枚を当てに行くのは僕にも唯香たちにもできないだろう。
1周回せる手札なんて、そう都合良く何度も手に入らないだろう。ここで大きく勝負をかけるしかない。気付かれるな。ここを凌げば一矢報いることが可能だ。
将隆君インストール! ポーカーフェイス!
「僕からだね…いち……」
「に〜!」
「さ〜ん!」
通った! これでいい。僕の出したカードは1ではない。ダブった後ろの方のカードを出しておいたのだ。まさか初手からこんな大博打をするとは思うまい。まだだ。まだ笑うな。
「ユイ! 相談なのですが、このトランプとユイのそのトランプ交換しませんか!」
「え〜! 仕方無いわね〜!」
仕方無くないよ何でもありかよ!?!??
天使な和奏ちゃんは不正なんてするような子じゃないと思っていたのに、たまには小悪魔にもなってしまうらしい。それはそれで可愛いけれど、まあ、いいだろう。苦虫を噛み締めたような顔をしておこう。
「どうしたの幸兄〜? 愉快な顔して〜」
「……いや、何でもないです…じゅうに…」
むしろ好都合だ。終盤まで来たというのに僕がダウトの宣言を使わない理由ができた。唯香と和奏ちゃんがトランプをシェアしているのであれば、これはもう僕がダウトと言っても無駄なのは明白である。
墓穴を掘ったのは君たちの方だ!
さあ、次のカードで僕は1〜Kまでの全てのカードを1枚ずつ使ってしまったことになるわけだ。このゲームの最初から最後まで僕は苦い顔をしていた。ここだ。次の僕の数字でダウトを吐かせるために!
「和奏ちゃんその数字、ダっ…」
「ユイ、ありますか?」
「あるわよ〜。交換ね!」
「…あの…その…何でもないです……」
そして2周目の僕のA。彼女たちは手札をシェアしているため、僕がAを1枚しか持っていなかったという事実を知っているわけだ。あぶれた1枚を考慮に入れることもない。
既にAは場に3枚出ていて、彼女たちはリスクを冒す理由がないため、正しい数を律儀に場に出しているはずだから、手元に最後のAがあるのであれば、僕のこの2枚目のAが嘘であることを見透かせるのである。
頼むぞ。ここで唯香と和奏ちゃんがあぶれた1枚のAを引かなかったなんてパターンは勘弁してくれよ。それはもう僕にはどうしようもないパターンだからな。
「…いち………」
恐る恐る出してから、僕は苦笑いしたまま唯香と和奏ちゃんを見上げてみる。相変わらず楽しそうな表情で何よりだ。
「幸兄ぃ〜!」
「お兄さん!」
「…………………………」
「「ダウトぉ!!」」
どうやら唯香か和奏ちゃんのどちらかが最後のエースを持っていたようだね。もう、笑ってもいいだろうか?
「……ふっ……残念でした!…」
僕は裏っ返しになっていたトランプをオープンして2人にAのトランプを見せる。
「なっ!?…」
「わっ、どうしてです!?」
「………ま、まさか!?…」
勘の良い唯香が1番最初に僕が切った山底のトランプを裏返して表向きにする。そこにはAではない数字が刻まれており、どうやら唯香はこのカラクリに気付いたようだ。遅れて和奏ちゃんも僕の演技に騙されたことに気付く。
「2人とも必勝法だと思って油断しちゃったでしょ〜? 詰めが甘いよ。唯香…」
「ぐっ…な、何よ! そもそもこれって、どんな強運を前提にしたやり方かわかってんの!?」
わかっているさ。2度と入らない手札だろうね。
「でも、それでこそ幸兄だわ! 1度勝ったくらいで調子に乗らないでよね!? 次よ次!!…ほら、1枚脱いでさっさと次やるわよ和奏!」
「は、はいです! お兄さん次は同じ手は食わないですからね!?…んっしょ……」
これでようやく心理戦に持ち込める。ように見えて彼女たちはのらりくらりとゲームを進めれば99%以上勝てる仕組みとなっているのだけれども、何とかゲームにはなりそうだ。本当か?
和奏ちゃんが靴下を片方脱いで、唯香も同じように?…豪快に上を脱ぎ捨てた…。
上を脱ぎ捨てちゃったんですけどぉ〜!??
「ユイ!?」
「何よ!?…次は必ずっ…へ??…」
「……………………………」
今回、僕は悪くないと思う。
唯香が下着の上に1枚しか着ていない服を勝手に脱いで、僕の前に上半身下着姿を晒しているだけで、僕は何も悪くはないんだ。彼女が勝手にやったことだ。和奏ちゃんのように靴下から脱げば良かったのに。
ゲームで熱くなり、一瞬我を忘れていた唯香が自身の状況を確認する。同時に両手で下着を隠しながら顔を真っ赤に染め上げる。
「隠してくださいユイ! きゃっ!?」
和奏ちゃんも唯香をフォローするように、あわあわと手を振っていたが、動揺して奇妙な動きをしたせいで、足元のトランプを踏んでコントのようにずっこけてしまい、スカートが捲り上がって純白のパンツが丸見えになってしまった。転け方まで可愛らしい。
目の保養になってしまった。
「え、えっと…えっと?……」
「私たちの下着姿が見れて良かったわね! 幸兄のぉ〜、変態っ!!」
理不尽過ぎる。
「ご、ごめんなさい! 通報しないで…」
もう1度言わせてほしい。理不尽過ぎる。
この世界は、運と理不尽が支配している。




