第24話 テストの予測
唯香と和奏ちゃんは勤勉だ。彼女たち程勉強の教え甲斐がある子も居ないだろう。それに比べてこのアホコンビは勉強をかなり嘗めている。一夜漬けで乗り切る気しかないその根性を叩き直してやりたい。
とある日の数学の授業。抜き打ち小テストで0点を叩き出してはしゃいでいる照明君と新園さんのアホコンビ。
中間テストでもし赤点など取ろうものなら期末テストで赤点を回避しようとも夏休みを返上して補習してもらうと担任の先生に脅されている照明君と新園さん。
脅されているという表現は正しいのか?
とっても普通のことなのでは?
不本意なことに、その友人と先生に頼まれて赤点を阻止すべく、水城院 幸守君が閃いたテスト対策はというと、誠に遺憾ながらアホコンビの策であるところの山張りだった。
その一夜漬け山張りを4割弱的中させ、3割強の正解率という形で照明君と新園さんの両名は赤点回避に紙一重で成功する。
しかし、山張りと言っても教科は2人の苦手な数学である。これと似たような問題が出るからね。といった類の広く浅い山張りではなく、僕が脳みそをフル回転させて覚えさせた山張りは先生の思考を読んだ数学で同じ問題を当てるという大博打のピンポイント山張りだった。鼻血が出る程集中したよ。気分は正しく、よろしくお願いしますって感じだった。
「………つ、疲れた…無駄に………」
「ぎゃはははははは! しっかしすげぇな幸守きゅん! 見ろよこれ本当に同じ問題が出やがったもんなぁ~! これマジで前もって問題用紙をパクっていたから問題がわかったわけじゃねえんだな?」
何故、救ってやった友に疑われなければならないのか。まあ、4割的中させていれば疑いたくもなるかもしれないけれどね。
でも、今回は最高で5割的中させれる可能性があったんだよ。数学のテストを作った先生がテストの出し方を知っている先生で助かった。他の先生ならば不可能だった。
「あはははは! 流石は幸守君だねぇ~! 心読とは恐れ入ったよ~。でもこれ、本当にどうやって問題文まで当てたの幸守君?」
解説を求められたので説明する。
「………あの先生の作ったテストを僕らは去年も受けていたでしょ?…」
「そうなのか?」
「いや、知らない…」
まあ、誰が作ったテストかなんて普通興味も持たないか。勉強嫌いなら尚更だ。
「それでそれで!?」
それでも興味津々で急かして来る新園さん。
「…あの先生、中間テストの出し方に法則があったんだよ。中間テストは教科書に載っている問題からランダムに全く同じ問題を5割、期末テストは3割程出すんだ…1年の3学期にこの法則に気付いた…」
「マジかよ?…えっと……本当だ!?…」
「うへ〜、よく気付けるね〜…天才?…」
本当は良くないんだろうけど、うちの学校ってそこまで頭の良い学校ではないから、先生なりの救済措置を端から組み込んでいるのだろうと思うが、気付いていない振りをしなければ次回から問題全てをオリジナルにされてしまうかもしれない。
この救済措置を続けてほしいと思うならば他言無用にしておくんだよと、照明君と新園さんには強く釘を刺しておく。
「だとしても! どの問題がそのまま出るかはわからなかったわけですよねお兄さん!? 教科書に記載されている試験範囲内の全ての問題から、出て来る問題を的中させるなんて本当にお兄さんは凄いです!!」
「本当に不正してないわよね?…」
「してないってば…」
唯香に疑われるのは嫌だな。もう少しだけタネを明かしておこう。
「ある程度は絞れていたんだよ。ここは必ずテストに出るからな! って先生が授業中に言っていた場所の中から、特に重要な部分を抜粋すれば的中率は飛躍的に高くなる。あの先生は素直な性格だから、言ったことはそう曲げたりしないんだよ…」
完全に人読みなので褒められた対策ではないけれど、そう何度も使える手ではない。問題作成者の気分次第でこの攻略方法は容易く破綻するのだから。
「そう言った箇所をメモしてたのかね?」
新園さんの質問に首を横に振る。
「いや、覚えていただけ…」
「けっ! お前は充分天才だと思うぜ。謙虚過ぎるのもそれはそれでムカつくぜ!」
何故、救った金髪猿にムカつかれなければならないのか。理不尽過ぎる。
和奏ちゃんは瞳を輝かせ、唯香に至ってはまだ僕の不正を疑っていた。信用されていないな。ちょっと悲しくなるよ。後で僕が1年生の時に出された過去問を唯香に見せて法則を証明しておこうと思う。
「お兄さん天才です! カッコ良いです!」
「幸兄っていったい何者なの?…」
「僕は普通の高校生だよ…」
「歳誤魔化してないでしょうね?…」
そんな、小さくなっても頭脳は同じ名探偵でもあるまいし。ちゃんと見た目と中身が一致している高校生のつもりなんだけどね。
「そこは天才だと言い切っていいところだと思うけどね〜。今回の数学のテストも余裕で100点を取っているわけだし!」
100点を取っている生徒なら同学年に6人も居ただろう。点数の高い生徒が上から20人だけ、いつものように掲示板に張り出されていたけれど。この結果は、うちのテストが簡単だと言ってるようなものだと思うよ。
唯香と和奏ちゃんに褒められるのは嬉しいけれど、少しだけこそばゆいな。話題を変えたいところだ。
「2人はどうだったの?」
後輩美少女は互いに顔を見合わせて、ニッコリ微笑むとスクールバックに手を突っ込み自慢の解答用紙を取り出す。
「じゃーん!」
「この通りです!」
どんなもんじゃい! と言わんばかりに数学のテスト用紙を突き出された僕は、その点数を見て優しく微笑む。本当に、教えた甲斐があったというものだ。
「2人とも97点! 凄いよ!」
発展問題まで正解している。不正解だったのは点数配分の低い箇所1つだけ。どちらもケアリスミスだ。惜しかったね。
「テルとは大違いだね!」
「あんな山張り頼りのお猿さんと一緒にしないでほしいわね!」
「せっかくお兄さんが付きっきりで教えてくれたんですから、頑張るのは当然です!」
うんうん。偉い偉い。と、2人の頭を撫でてあげたいところだけれど、今日のところは人前なのでやめておこう。
「本当に、2人ともどこかのお猿さんと違って教え甲斐があったよ。36点で喜んでいるお猿さんには、2人の爪の垢でも煎じて飲ませてやりたいところだよ…」
「はぁ〜!!? 飲むが!?」
飲むんだ。実際にやってみたシリーズとして動物実験してみても良いかもしれない。
「ゆ、幸兄の頼みでもそれはちょっと…」
「爪さんの垢なんて無いです! 毎日綺麗に洗っています! 無いのでごめんなさい!」
労せずに、全力で嫌がられて照明君の好感度が大暴落していた。いや、端から大して無かった気もするけれどポイント0まで落ち込んだようで何よりだ。ざまあ見ろと言いたい。
「テメェのせいで引かれたじゃねえか!? ふざけんなこの野郎! 責任取って可愛い女の子紹介しやがれ!?」
「胸ぐらを掴まれましても…」
余計なこと言わなきゃ良かったのにね。
「爪の垢さんなら、私がお兄さんの爪の垢さんを煎じて飲んでみます!」
「えっ!?…和奏ちゃん? それは、ばっちいからやめておこうね。たった3点上げるためにするようなことじゃないよ?…その3点は、問題を全て解き終わった後の見直し時間が足りなかっただけだから、100点を取るにはそこそこ計算が早くないといけないってのもあるんだ。ただ、それだけだよ…」
「なるほどね。幸兄、計算早いものね…」
唯香が納得したように頷く。
「やっぱり、計算が早くなるように、お兄さんの爪の垢さんを煎じるべきなのでは!?」
「和奏ちゃん。逆にお腹を壊して0点になっちゃう可能性の方が高いからやめようね?」
「……わかりました。やめておきます…」
何故ガッカリしているのだろう?
そんなに100点を取りたかったのかな?
「また、勉強見てくれますかお兄さん?」
「え?…う、うん。そうだね。また皆で勉強会を開いたら、その時にね?…」
和奏ちゃんは1人でも大丈夫だろうと思うけれど、まあ、たまになら良いか…。
「…幸兄……その、私も………」
「もちろんだよ。むしろ、メインは唯香の勉強を見ることと言っても過言じゃないよ!」
「ほほ〜、私の方が、和奏より勉強ができなさそうだから心配だと言いたいのね!?」
「どうしてそうなるの!?」
源治郎さんのお役に立つために、次代の当主候補の唯香をサポートしたいというだけなんだけどね? あわあわしてしまう。
「バーカ…冗談よ! ふふふ…」
唯香が笑顔を見せてくれる。
「冗談か…それなら、良かったよ……」
僕らも随分打ち解けた気がする。本当に勉強会を頑張った甲斐があったよ。唯香と和奏ちゃんの笑顔と、美少女からの好感度が落ちて肩をポンポン叩かれ、新園さんに慰められている照明君の姿を見て、そう思えるよ。
中間テストを無事乗り切った鳥羽園学園の幸守君と愉快な仲間たち。その数日後には1年生の間で2人の美少女の人気が急激に上がっていたという。
数学以外の各教科でも唯香と和奏ちゃんは高い点数を取り、学園の掲示板に貼り出された総合点順位でも学年10番目以内に入ってしまっていた。2人とも普通に頭が良い。
僕が数学を教える必要があったか疑問だ。
情報通の新園さん調べによると、もともと今年度注目の美少女新入生だったらしいのだが、その容姿だけでなく、中間テストによって頭まで良い事が証明されてしまいさあ大変だ。
ほんの数週間しか経っていないというのに彼女たちに告白しては、見事に撃沈する男子生徒がちらほら現れ始めていた。
それを阻止するために、俺様が彼女居ない暦年齢なのに自分だけ美少女の彼女を作ろうなんて男は許さんと張り切り、尚川 照明という名の金髪猿が絶えず彼女らを護衛する事になった。強面の彼は適役かもしれない。もちろん、これは照明君の独断による行動だけれども僕としてはそこそこ助かっている…。
とある放課後の帰り道。
僕と唯香と和奏ちゃん。そして、オマケの友人は本日も変わらぬ面子で仲良く下校の最中だった。男子生徒の視線はあからさまに唯香と和奏ちゃんに集中している。
僕の右隣を歩く義妹が周りからの視線を気にしながら溜め息混じりに話し出す。
「別に、嬉しくないわけじゃないけれど…何とも思っていない人に恋愛感情を向けられても困るのよね……」
唯香の後に、僕の左隣を歩いていた彼女の友人が続けた。
「そうなんです! お兄さん。何とかならないでしょうか? ユイはともかく、どうして私まで…うぅ〜……」
「それはこっちの台詞よ和奏…」
「あはは、2人ともモテモテだね〜」
「それは嫌味か幸守!? 両手に花で呑気に歩いてっとこ悪いがよ〜! テメェにもしっかりと嫉妬の視線が突き刺さってっから夜道には充分気を付けることだなぁ〜!!」
照明君の忠告通り、確かに僕にも男子生徒からの嫉妬の視線が突き刺さっている。何故、僕まで男子生徒から敵意を感じる視線を向けられるのかと思えば、なるほどそういうことだったのか。でも、唯香は血は繋がらないとはいえ妹だし、和奏ちゃんだって僕にとってはただの義妹の友達だ。
和奏ちゃんには、何とかしてほしいと言われたが、2人の魅力を考えるとこうなるのは必然だったと言えるだろう。遂に魅力を隠すのも限界に来ただけのことだ。
今もそうしているように、告白されたらしっかりとお断りするを繰り返すしか無いと思うんだよね。そのうち誰が告白しても思いを受け入れてもらえないことで、2人が誰とも交際する気が無いと学校中に知れ渡れば、誰も2人に告白しようとは思わなくなるだろうからね。
2人にはもう、そう伝えてある。
僕と照明君が、唯香と和奏ちゃんの彼氏の振りをするという手もあったけれど、和奏ちゃんは凄く乗り気だったが唯香は全力で拒否していた。組み合わせ的に僕が和奏ちゃんの彼氏の振りをし、照明君が唯香の彼氏の振りをすることになるのだが、唯香は振りだけでも嫌だと全力の拒絶反応を見せていた。
少し可哀想ではあるけれど、確かに照明君が唯香に釣り合うとは思わない。まあ、それは容姿的に釣り合っていない僕にも言えることなんですけどね…。
そんなこんなで今は、2人の美少女に強引に迫って来る輩は僕と照明君の2人で対処しているというわけだ。
「貴様らだけが幸せになることは許さない。ガーディアン照明と呼んでくれ!」
「助かるよガーディアン…」
「ありがとうガーディアン…」
僕に続いて唯香も申し訳程度に感謝の言葉を送っていた。実際、照明君はその強面で素行の悪い男子生徒からの告白を2度跳ね除けている。確かに役に立つ男を証明していた。
「唯香ちゃんに初めて感謝された!!?」
「お、快挙だ。良かったね〜テルちん!」
そう。照明君も、脳無い猿ではあるものの、たまには役に立つ男なのである。
「時が解決してくれるとは思うんだけど、2人とも中学生の時はどうしていたの? 唯香も和奏ちゃんも中学生の時からモテモテだったんじゃないの?」
「私は男子禁制の女子中学校に通っていましたので、男の子からの告白なんて高校生になって初めてされました!…ユイは、どうでしたか?……」
「私は共学だったけれど、そうね…言われてみれば確かに何人かに告白されたりもしたけれど、今程視線を集めちゃいなかったわよ。和奏と居るから目立つのかしら?…」
タイプの違う2人の美少女が仲良くしていると絵になるのだろう。
「ちなみに、幸兄は女の子に告白された時どう対応していたのよ。幸兄だって、それなりにはモテるんじゃないかしら?…ついでに、今…好きな人とか……居るの?…」
ぶはっ! と突然吹き出す照明君と新園さんに鋭い視線を送る唯香。上級生相手だろうがその威圧する視線は健在のようだ。時に、何故2人は突然むせたのかな?
「僕? 僕はちゃんと断るよ。それはもう、水城院家に来た時に決めた事だからね…」
まるで、もう既に何度か告白された経験があるみたいな言い方に唯香と和奏ちゃんが反応して顔を見合わせていた。
「つまり、お兄さんは誰かに告白された事があるんですか?」
我が家のメイドさんには、ほぼ毎日のように重めの愛の告白を受けている。というイレギュラーはノーカウントでいいだろうか?
「さぁ〜…どうなんだろうね? 我が家はお金持ちさんなので、財産目当てで言い寄って来た子は何人か居たかもね。僕を口説き落としても、何も貢いだりしないのにね〜」
「お前、ケチだしな…」
「失礼な。倹約家と言ってほしいよ…」
照明君の言う通りだ。必要があると判断した場合はお金を使うことは当然あるけれど、喉が渇いたのならば、自動販売機でジュースなど買わずに、そこの蛇口を捻れば良いじゃないかが僕の考えである。
彼女なんてものを作ったら、お金を払うのは必然男の方になるだろう。僕のポケットマネーなんて高が知れているわけで、水城院家と関係の無いところで源治郎さんから借り受けている軍資金に手を出す気などこれっぽっちも無いのである。
源治郎さんのお孫さんである唯香や、その唯香と仲良くしてくれている和奏ちゃんのためならば、溜め込んでいるお小遣いを吐き出すこともやぶさかではないけれど、それでも可能な限り節約は心がけて行きたい。
「……………好きな人は居るの?……」
唯香に小声で同じ質問をされる。
それ、聞いてどうするのかな?
「異性としてって意味なら居ないよ。でも、家族としてなら…同じ施設で育った子は皆家族だと思っているし、今は唯香が僕の妹になってくれているから…強いて言うなら、僕は唯香のことが好きだよ!…」
「なっ!?!??………っ! ぁ……ん…」
僕今ちゃんと家族としてって言ったよね?
孤児院からずっと一緒に居るナユタのことも僕は家族として大切に思っている。もちろん源治郎さんのこともだ。
そこまで動揺する程のことではないと思うんだけれど、不意打ちだったのかな?
「お兄さん! ユイだけ溺愛しているとそのうちシスコンと呼ばれてしまいますよ!」
「え?…そうなの? 溺愛しているっていうのは違うと思うけど。というか、溺愛してないし?…もちろん、僕は和奏ちゃんのことも好きだよ。頑張りやさんだからね」
「本当ですか!? 嬉しいです!」
「おうおう、何だかイケそうだからってナチュラルにたらしてんじゃねえぞ幸守!」
そんなつもりは無いんだけれど。
異性として好きな人は居ないって言ったことをこのお猿さんはもう忘れちゃったらしい。
「和奏ちゃんを溺愛しても、和奏ちゃんは幸守君をお兄さんと呼んでいるから、結局シスコンの烙印は押されそうだけどね〜…」
新園さんの発言に確かにと思ってしまった。
「幸守先輩とお呼びした方が良いですか?」
「え?…う〜ん。どう思う唯香?」
「し、知らないわよ! 和奏の好きなように呼んだらいいんじゃないかしら! それより、気安く話しかけないでよ! 変な誤解を生んだらどうするつもりなのよ!??…」
変な誤解とは?
「ユイも、たまには素直に嬉しいですとお兄さんに伝えた方が良いと思いますよ?…」
「別に幸兄に好かれたって私はこれっぽっちも嬉しくなんかっ!!…………………」
少し落ち込みながら唯香の顔色を窺う。
気を遣ってくれたのか、その先に連想される言葉までは飛んで来なかった。
「…ユイは本当に可愛いですね!」
「………もう!…知らない!…」
少なくとも、唯香に嫌われているわけではなさそうなので一安心である。
「いやはや、面白くなって来ましたな〜」
「どこがだよ! 俺様は面白くねえぞ!!」
このまま平和な時を過ごしたいものだ。




