【続編 第18話】帝都決戦
【続編・第18話】帝都決戦
蒸気と煤煙が渦巻く東京駅のプラットホーム。
ついにその地に降り立った五人の前に、信じがたい光景が飛び込んできた。雑踏の中、うつろな目で無機質な絵が描かれた紙を配り歩く男——。
「……きよぴこぉぉぉ!!」
ちくの叫びが駅舎に木霊する。彼は迷わず、親友の名を呼びながら石畳を蹴った。
だが、その守護者の如く立ち塞がったのは、不敵な笑みを浮かべる黄色い影。
「……邪魔だよ、おじさん」
サクサクが右手をかざした瞬間、大気を震わせる衝撃波が放たれた。
「ぐはっ……!?」
ちくの体は木の葉のように舞い、背後の壁へと叩きつけられる。
「あんたぁぁ! 目を覚ましなさいッ!!」
続いて地を割るような足音と共に突進したのは、ロシアの猛熊・フンバルトだ。その視線の先には、はるの傍らで虚脱状態にある夫、オナラガ・スゲーデルの姿があった。
愛のツッコミが炸裂するかと思われたが、教祖・はるが冷酷に指を振る。
「リクエスト……『拒絶』だ」
見えない壁に弾かれ、フンバルトの巨体すらも後方へと吹き飛ばされた。
「きよぴこさん、これを受け取ってくださいッ!」
戦場を冷静に見極めていた千春が、背負っていた一振りの刀を豪快に投げつける。
空中を舞う白刃。きよぴこは本能的にその柄を掴み取り、着地と同時に低く身を構えた。
「……珍珍の呼吸、壱の型——!!」
放たれたのは、股間から立ち昇る陽炎のような禍々しくも神々しい剣気。
サクサクとはる、そしてオナラガは直感的な危うさを察知し、刹那の判断でバックステップを切る。一瞬前まで彼らがいた床には、深々と斬撃の痕が刻まれていた。
一般市民は悲鳴を上げ、クモの子を散らすように逃げ去り、駅舎は異能者たちの死闘場へと変貌した。
「皆さん、落ち着いてください! 連携を!!」
千春の怒声が響く中、ケメ子がその豊満な腹部を震わせ、印を組んだ。
「お漏らしの呼吸……壱の型・大奔流ッ!!」
彼女の周囲から、文字通り「決壊」したかのような濁流が溢れ出した。それはサクサクたちの足を掬い、絵文字教の浄化を試みるかのように猛烈な勢いで敵陣を押し流していく。
「皆さん、僕の周りに集まってください! 術を発動させます!」
千春が中心となり、帰還の術式を編み始める。
だが、サクサクは水中にありながらも執念深くきよぴこを睨み据えた。
「きよぴこ……君は渡さない。僕の目を見て……僕だけを信じて……」
サクサクの瞳が怪しく螺旋を描き、強力な洗脳の波動がきよぴこの意識を侵食し始める。
「きよぴこさん、サクサクの目を見ないでください! 魂を食われます!!」
千春の警告が飛ぶ。
その時、満身創痍で立ち上がれないちくとケメ子を両脇に抱えたやおたが、涙を浮かべて叫んだ。
「ごめんなさいの呼吸、壱の型……もうやめようよぉ〜〜!!」
慈愛と謝罪の念が込められた負のエネルギーが爆発し、サクサクの集中を一瞬だけ削ぎ落とした。
その隙を見逃さず、フンバルトが荒波を掻き分け、愛する夫・オナラガの元へ辿り着く。
「……あんた、正気に戻りなッ!!」
パチィィィィィィィンッ!!!
駅舎全体に響き渡る渾身のビンタ。オナラガの頬は瞬時に紫色に腫れ上がり、その衝撃で洗脳の呪縛が霧散した。
「……フ、フンバルト……?」
「もう離さないよッ!」
フンバルトはオナラガの首根っこを掴んで獲物を仕留めた獅子のようにガッチリと掴み上げ、千春の陣へと猛然と走り込んだ。
「まだきよぴこ君に1回もリクエストしてないのです」
はるが手をかざしてくる
その時霧のような水滴が降ってくる
最初の森で会った青い剣士だった
「今のうちに早く!」
「準備完了です……元の世界に戻ります!!」
千春が印を結び、光の柱が六人を包み込む。
「待て! 行かせるかぁぁ!!」
サクサクとはるの絶叫が届くよりも早く、眩い閃光が東京駅を白く塗り潰した。
次の瞬間——。
プラットホームには静寂だけが残り、六人の姿は煙のように、跡形もなく消え去っていた。




