【続編】57歳の告白と牛乳の悲劇
【続編・第3話】57歳の告白と、牛乳の悲劇
鬱蒼と茂る大正の森。四人は足を止めることなく歩き続けるが、初老の3人にとって、この不整地の長距離行軍はあまりに過酷だった。
「……少し、休みましょうか。出発前に家の冷蔵庫から持ってきたお茶と牛乳、飲みますか?」
千春の提案に、乾いた喉を鳴らしたケメ子が答える。
「……ふぅ。じゃあ、私は牛乳をいただくわ」
束の間の休息。しかし、平穏は一瞬で切り裂かれた。千春が焦った様子で周囲の闇を鋭く見回す。
「……来ます。また鬼が近づいてきました。ちくさん、お願いできますか!」
「……分かった! 任せろ!」
ちくが前へ出る。ゆっくりと、だが確実に殺気を放ちながら異形の鬼が距離を詰めてくる。
ちくは重心を深く落とし、静かに刀の柄に手をかけた。
抜刀——。その瞬間、彼の意志とは裏腹に、言霊が勝手に唇を割った!
「……勃起不全の呼吸!!」
なんと具体的すぎる病名だろうか。静寂の森に、57歳の切実な告白が木霊する。
その直後、背後から「ブフッ!!」という、激しく液体が吹き出す音が轟いた。
「壱の型——死んだ魚の目!!!」
(※注:生気がなく、外部の刺激に一切反応しない絶望の眼差し)
ザシュッ!!
閃光一閃。その虚無に満ちた刃は、鬼の頸を鮮やかに両断した。
一撃で仕留めはしたものの、ちくの心には言葉にできないモヤモヤとした霧が立ち込める。
意気消沈し、うなだれたまま仲間の元へ戻るちく。
そこには、笑い死に寸前のケメ子と、彼女が吹き出した牛乳で顔面をびしょ濡れにした、無表情のやおたが立っていた。
「……あははは! お、お腹痛い……!」
「…………。(無言)」
この刀は、持ち主の恥ずべき秘密を強制的にカミングアウトさせる呪物なのか。
千春は、濡れたやおたを見ないようにしながら、静かに呟いた。
「……兄さんの友人方ですから。どうか、こらえてください……」
拭いきれない羞恥心を道連れに、一行は大正の夜をさらに深く進んでいく。




