【続編】きよぴこ救出
河原の闇が、ドロリと蠢いた。妖怪玉から漏れ出した「負の記憶」が人の形を成していく。
「……きよぴこ、久しぶりだね」
その声は、湿った土のような響きを帯びていた。
「僕は43年も、あの玉の中に閉じ込められてたよ……。この恨み、今こそ晴らさせてもらう!」
黒い影が、きよぴこの手首をガシリと掴んだ。
「うわっ! な、なんやこれ! 冷たっ……離せ、離せ言うとるやろ!」
きよぴこの叫びも虚しく、彼の身体は輪郭からゆっくりと透けていき、霧が晴れるように夜の河原から消え去った。
残されたちく、やおた、ケメ子の3人は、震える膝を押さえながら緊急会議を開いた。
「……これは、我々の手に負えない。行くぞ、千春のところへ」
やおたの先導で、彼らは弟・千春の元へ駆け込んだ。48歳になった千春は、静かに目を閉じて告げた。
「あいつは現在と過去を自在に行き来できる異能の持ち主です。おそらく、きよぴこさんを連れて『過去』へ飛びました。……実は僕、大正時代にあいつと会ったことがあるんです」
「大正ォ!? どんだけ昔まで飛ばされたんだよ!」
ちくの驚きを余所に、千春が印を結ぶ。
「僕の力で、皆さんを大正時代へ転送します。……いいですね、心の準備を!」
視界が猛烈な白光に包まれた。
次の瞬間、鼻を突くのは湿った土と、古い樹々の匂い。
「……ここ、どこだよ」ちくが目を開けると、そこは鬱蒼とした森の中だった。後ろを振り返ると、転移の衝撃に耐えきれなかったのか、ケメ子が地面に倒れ込んでいる。
「……ヒヒッ、人間を食べるのは久しぶりだな……」
背後から響く、おぞましい粘り気のある声。
振り返ると、そこには肌が緑色に変色し、目がいくつもある、吐き気のするような異形の「鬼」が立っていた。
「ひぃっ! ケメ子、起きろ! 逃げるぞ!」
ちくがケメ子の腕を引っ張って必死に逃げようとするが、鬼は異常な速さで距離を詰めてくる。絶体絶命かと思われたその時、空間が歪み、やおたと千春が遅れて姿を現した!
「兄さん、これを使ってください!」
千春が、一振りの漆黒の刀をやおたへ放り投げた。57歳のやおたは、宇宙迷彩服の裾を翻し、空中でそれを受け取ると、淀みない動作で鞘を払った。
「……全集中」
「おい、やおた! それはマズい! 別の会社に怒られるぞ!」ちくの必死の制止を無視して、やおたが深く腰を落とす。
「水の呼吸……!」
「著作権! 著作権を考えろ! 壱ノ型だけで止めとけって!」「……壱ノ型! 水面斬りィ!!」「あーあ! 言っちゃったよ! 57歳にしていろんなとこから怒られるー!」
やおたの放った鋭い一閃が、月の光を反射して青い波紋を描き、鬼の首を鮮やかに跳ね飛ばした。
消えゆく鬼の体を見つめながら、やおたは静かに刀を納めた。
「……サクサク(※この時代では『一刀両断』の意)だ」大正の森に、57歳の剣士の呼吸音が、不自然なほど静かに響き渡っていた。




