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月の王子さま  作者: 三重野 創


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検索より全覧

「夏休みの宿題、進み具合はどうかしら?」

 北伊勢高校はホームワークが大量に出される。


「計画的にやってるつもりなんだけど、いつまでたっても片付かないよ」

 学年2位の年往をもってしてもこれである。北伊勢高校の教師たちは容赦ない。これがこなせなければ、夢は転がるばかりである。


「大山先生は2通りの選択肢を与えてくれたはずよ」

 指定された問題集を解くタイプと、与えられたテキストを読み込んで論文を作成するタイプである。


「僕は問題集の方にしたよ」

 歯抜けを埋めるために、都度調べをする必要が出て来る。


「わたしは論文作成のほうにしたわ」

 紅のほうは大学でよくあるスタイルである。


「紅さんは参考資料に全部目を通すもんね」

 チマチマ調べてすぐ記憶から消えるぐらいなら、紅の方式が目指すべきところである。


「国語や英語で語意を書かせるワークがあるじゃない? 辞書の同じページを何度も再訪していた時に思ったのよ。これ、通して読んだほうが手っ取り早いわってね」

 1000ページの大容量でも、一日に2見開きも読めば一年足らずで読み終える。


「高校生には時間が限られてるけど、楽しくなる勉強は間違いなくそっちだね」

 読む途中で様々な発見がある。一語の説明文が、自分の進路を左右することさえある。


「大山先生もそれを望んでると思うのよね。この世の研究テーマなんて寿限無寿限無くらいに多様なんだから」

 我々が一生を通して見聞きできるのは、世界の1%にも遠く及ばない。


「数学や理科もそうなのかな」

「もちろんよ!」

 理数こそ紅の専門畑である。


「大辞典のほうが内容は濃いけど、出先で手軽に読もうと思ったら,小辞典のほうが向いてるわ」

 コンサイスなどの辞書を学校へ持っていくと、中辞典に替えなさいと指導されるが、通し読みするとなるとハンディな小辞典のほうが適している。


「うわ~、頭クラクラしそう」

 年往が紅の数学小辞典をパラパラさせる。

 

「理科のこういうのが無いのよねぇ」

 数理科学事典ならあるが、とても持ち歩けるサイズではない。


「でもさ」

 年往が小辞典の文字群に目を留める。


「世間一般に流れる語彙がいかに偏ってるかってのを、再認識させられるね」

 人生がつまらなく感じるのは、言葉の使用範囲が限定されることに起因する、世界の矮小化のためである。


「真っ先にそれに気付かされるわ」

 悪い状況も表現次第で前方への推進力となる。


「ビジネスチャンスを探すなら、ビジネス書を読んでるだけじゃ駄目なんだよ」

 そこには、新奇性がもはや見当たらない。


「その観点で言えば、レアメタルならぬレアワードの宝庫だわ」

 これがホントの金言である。


「ま、そんなよこしまな考えだけじゃ、すぐ脱落するんだろうけど」

「頭から詰まらずに読み通すことなんて、絶対に出来ないわ。分からないところは飛ばすしか無いけど、二周目・三周目には分かるかもしれない」


(僕の人生は何周目なんだろう?)






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