フィルムに怯む
「iPhoneを買い換えたんだけどさ」
SEの後継機種である。
「やっぱりホームボタンが恋しいよ」
顔認証しなければ、ロック解除出来ない。
「開くたびにパスコードを打つのは面倒ね」
二人とも警戒心が強いので、顔認証を扱う側への不信感がある。
「経済学者で指摘してる人がいるんだけど、スマホが普及した時期と日本経済の
本格的な落ち込みとが一致してるんだよ」
スマホは海外産を使わされている。日本人がどれだけ頑張っても、日本人の元に集まる金は目減りする構造が生まれてしまっている。
年往は気付いていないが、紅が書いた論文を元に、タレント学者が自説のように吹聴しているのである。
「まあその信憑性は分からないけど、純国産のスマホは欲しいところよね」
紅が愛機をチラ見せする。
「なにそれ? 変わってるね!」
横折りたたみ式のスマホであった。
「なければ作ればいいの精神を発揮させてもらったわ」
リアル世界ではほぼ不可能であるが、この物語はフィクションである。
「自作PCは聞くけど、自作スマホなんてね!」
驚くのも無理はない。
「どうしてもキーボードが欲しかったの。格好としてはノート型PCね」
サイズは年往のSEに近い。縦70㎜、横150mmほどである。それが二枚重ねだ。
「へえ、通話の時は閉じたままでも出来るんだね!」
背面に小窓がある。受話・終話の物理ボタン付きだ。懐かしの電話帳ボタンもある。
「画面はタッチも出来るわ」
ガラケーとスマホの良さが共存している。
「僕もこれ欲しいよ! 商品化しないの?」
自作PCが商品化したら、自作でもなんでも無くなる。
「トシ、あなたね。SEを買ったばかりでしょう!」
物をぞんざいに扱う人は、紅に釣り合う存在にはなれない。
「それを言われると・・・」
ものを粗末に扱う人物が、大成するとは思えない。
「ほら、ガラスフィルムも買ったんでしょう?」
旭ガラスのフィルムを購入してあった年往。
「そうだそうだ。教室だと邪魔が入って失敗しちゃうからね」
職場で貼りだして電話が掛かってきたら、パニックになるだろう。
「えーと、シールでホコリを取って・・・」
次にガイド枠を取り付ける。
「枠に合わせて倒していくだけだから簡単よね」
ところが。
「あっ、フィルムにホコリが付いちゃった!」
何を血迷ったのか、画面ではなくフィルムをアルコールパッドで拭いてしまう年往。
「トシ!」
トシすでに遅し。
フィルムが気泡だらけになってしまった。
「僕はなんて取り返しのつかないことを!」
ホコリが付く前に、モタモタせず思い切ってやるほうがダメージは少ない。
アルテミスⅡが月の裏側に行ったが、月の住人たちと出逢うのも間もなくかも知れない。
(月までの距離くらいなら余裕で通話出来るのだけれど、教えていいものかしら?)




