タレが一番大事
「この時期の秋刀魚は格別だわ」
魚食系女子・紅。
「高価なお肉を食べるより、安くても新鮮な魚がいいね」
ここで煮るだけでぱくついてる人はいるけど。
「秋刀魚に関しては焼くときに塩をまぶしてカボスを搾れば上等ね」
紅はあれをやりたいこれを食べたいなどの願望は多いが、自分でテキパキやるので我が儘を散々言う人間とは大きく異なる。
「醤油も忘れないでよ?」
混ぜないこと、掛け過ぎないこと、はみ出さないこと、三時抜くこと、わさび入れてもいいよ、タレが一番大事。
「七輪にも困ったものね」
珪藻土で出来ているのだが、扱いが難しい。購入した時点でひび割れしていることもザラだ。おまけに水に弱い。
「うん。慎重に使わないとね。丸い網もおもしろいけど、まあ普通売ってないしさ」
DIY好きの年往。
「陶器で作ればいいんじゃないかと思うけど」
七輪を購入した人は驚いたかも知れないが、あの特徴的な黒いラインは、プラ製でピン留めしてあるだけだったりする。
「そうだよね。カラーリングも陶器なら何でもござれだよ」
「角形のほうが便利そうだけど、風流があるのは断然丸形なのよね」
三角型は使い勝手が悪くて失格だ。
「いいの? 紅さん」
この七輪会には、松茸が饗された。
「気にしないで。今年はニョキニョキ生えてたから」
椎茸農家は背が高いという俗説があるが、キノコを食べてスーパートシオになる。
「ありがとう!」
年往は紅顔の美少年である。
「料理は素材が命っていうけど、タレの選択を誤ってはいけないわ」
どちらかと言うと辛党の紅。ただ、酒飲みになることはなさそうだ。
「この食材にはこの調味料が合うっていう組み合わせが、もうある程度確立されてると思うよ」
「カレーまんを甘くしないで欲しいわ」
甘辛チキンもお気に召さない紅。
「味噌カツもしょっぱいのが食べたいよ」
ここに紅が居なかったらどんなに切ないだろう。それ以上にそんなことを想像してしまったことに、年往はせつなく感じた。




