第170話 フリーズする確率は大体1/6000
『おぉーーっと!! ここでレーベ選手がついに被弾してしまいました!!』
「レーベ!! 大丈夫か!?」
テュールは横目で常に動向を見張っていた二人に異変があったことに気付く。レーベのほんの些細な隙きを見逃さずメイアの大槌がその小さな体を捉えた。凄まじい衝撃音とともに、重力で体重が何百倍になっているレーベが弾丸のように彼方へ吹き飛んでいく。
「……ぐっ。……だいじょうぶ」
レーベは、なんとか頭と足を反転させ、モヨモトたちが作る結界へと着地する。そこから重力によって、地面までポトリと落ちると、肩で息をしながらキッと前を睨む。しかし、それは同時にテュールにも隙きを作ってしまうこととなり──。
「何度も言わせるな。私たちを相手によそ見など愚の骨頂だぞ」
「くっ!?」
ウェンディネヴァが冷たくそう吐き捨てた。と、同時にテュールは勢いよくしゃがみこむ。先程まで頭のあった位置を大槌が通り過ぎる。
「あちゃー。これ避けるの? キミも大概だねー」
そして転がるように距離を取るテュールを追うことはなく、メイアは嬉しそうにカラカラと笑う。
『あぶなーーーい!! テュール選手よく避けました!! 今のを、と言っても私には見えなかったのですが……ちょっとスローで再生してみましょう。あぁ! やはり、大槌が振るわれていました!! 世界に誇るルイカンパニー魔導具社の超スローカメラ魔導具でもスローにしきれない速度の大槌が振るわれています!!』
『はぁ、うるさいねぇ。あんなのも見えないでよく実況が務まるさねぇ』
『すみませんっ!! ですが、SSSランクの方の動きを見切れる人が果たしてこの世界に何人いるかは甚だ疑問が残るとだけ返させてもらいます!!』
「ククク、放送席は緊張感がまるでないな。さて、奇しくも開戦と同じ位置だな。仕切り直しといこうか」
「うんうん。だけど、次で終わりだよ。本当に楽しかった、ありがとね。キミたちはいずれボクたちと同じ位置、もしかしたら入れ替わるのかも知れない。でもそれは……今じゃない」
並んで立つ二人は、今まで戦っていたにも関わらずダメージはすべて回復しており、息の一つも切れていない。対してテュールとレーベは満身創痍であり、折れかける膝を無理矢理に伸ばし、睨むのが精一杯である。
「では、宣言しよう。今から使うのは必殺技と言う類のものだ。喜べ、ここ数年大技を使うなどないことだ。ましてやこんな観衆の中でなどな。これはお前たちに対する敬意だ」
「ただ文字通り、必ず殺す技だからね? ボクたちより弱ければ必ず死ぬ。ボクたちより僅かでも何かが勝ってたら生き残れるかもね。それともどうする? 棄権するかい?」
『おぉーーっと、どうやらメイア選手とウェンディネヴァ選手は必殺わもごもごごー!!』
『うるさいよ。静かに見ときな』
放送席ではどうやらマルチェロの口を物理的にルチアが塞いだ模様。だがそんなやり取りにもテュールとレーベは一切気を割かれることもなく、目の前に立つ二人の一挙手一投足を見逃すまいと目を見開き、身構える。メイアの棄権するかと言う問いに対する答えは、沈黙。そんな覚悟を決めた二人を見て、メイアとウェンディネヴァは、やはり笑ってその口を開く。
「……穿け、氷天羅刹丸」
「フフ、カオスモード変形。全てを押しつぶすよ。ドデカリュッケン!!」
ウェンディネヴァはその白鱗の右腕に冷気を纏う氷槍を生みだすとゆっくりと振りかぶる。
そしてメイアは武器ではなく、もはや兵器と呼べるレベルにまで巨大化した槌を振り上げる。辺り一面がその影で暗くなる。そして──。
「ハッ!!」
「おりゃ!!」
二人は合図をしたわけでもないのに、まったくの同時に攻撃を仕掛ける。ウェンディネヴァの右手からは音速など軽々と越え、亜光速に達しようかという殺意の塊がテュールの胸へと放たれ、メイアからはその質量を考えるのもバカらしくなる巨大な殺意がレーベに伸し掛かろうとしていた。だが──。
「ほいっ、ほいっ、と」
『もがっ!! ななななっっ、なんと!! なんと、なんと!! 攻撃が止められました!! 乱入者ですっ!! あれは誰だ!? って!?』
テュールたちの目の前に立ったのはロト。右手で放たれた氷槍を掴み、左手は真上へと伸ばされ巨大な槌を軽々と支える。
『な、何が起こったのでしょう!? ロト様です!! エスペラント王国国王ロト様、え!? いや、てか氷天羅刹丸と呼ばれた氷槍を掴んでいます!! そして、軽々とメイア選手の槌を受け止めています!! いや、普通に考えたら受け止めても杭のごとく地面まで刺さり、地面ごと破壊されそうなものですが、まったくもって平然と立っています!! ど、どういう、え、あ、すみません!! 実況の思考能力の範疇を超えたので一旦フリーズしますっ!! ルチア様任せました!! ぷちゅん──』
『はぁ……。んで、ロト説明はあるんだろうね?』
マルチェロを冷たく一瞥し、ため息をつくとルチアはロトに問いかける。会場に立つ四人の選手も矛先を納め、成り行きを見守る。この試合の審判を務めるリオン、そして結界を張っているモヨモト、ツェペシュ、ファフニールも無言でロトを睨む。即ち納得のいく答えを聞かせろということだ。
会場は異様なざわつきをみせていたが、ロトがリオンのもとまで歩き、マイクを借りるとピタリとざわつきが止む。
『エスペラント王国国王のロトだ。まずは詫びを一点。この大会は中止だ。次いで悲報が一点。リエース共和国が何者かから襲撃を受けた。つーわけで、この場で五大国の王はこの件に対し協議に入る。すぐに指示を出すから勝手な行動は起こさずこの場で待機しててくれ。以上だ』
そして、ロトはマイクを切るとリオンの元へと歩いていく。
「ほい、リオンせんせーお返ししますよっと」
ロトはそう言ってマイクを返す。そして、くるりとふり返り、その視界にテュールとレーベを収めると──。
「さて、お疲れのところ悪いが、指示第一号は遊楽団。君たちだ」
そう言うのであった。
更新一度飛ばしてすみませんでした!
おかげさまで熱中症は無事治りました!
これからもどうぞ「とある英雄たちの最終兵器」をよろしくお願いいたしますm(_ _)m




