第169話 出ました!ししょーの小狡い戦い方
「よーいっしょっと」
メイアは気の抜けた声とともにレーベまでトトトと駆け寄ると、肩に担いだ大槌を一気に振り下ろした。
「……っ!?」
そしてどうやら振るわれたらしい大槌をすんでのところで避けるレーベ。空を切り、地面と接触した大槌からはとてつもない振動とともにクレーターが生みだされる。レーベはチラリとそのクレーターを見て、冷や汗を流す。それもそうだ──。
『み、み、み、見えなかったぁぁぁあ!! あの巨大な大槌が気付いたら地面を叩いていました!! さ、流石はSSSランク!! っていうか、あの攻撃当たってたら死んでますよ!? それにしてもレーベ選手はよく避けましたね!!』
『あぁ、まぁ死に直結する攻撃には体が反応するよう随分仕込んだからねぇ。カカ、ほらあのレーベの顔を見てみな。今の大槌は視認できていないさね。勝手に体が避けてくれただけさ。そんな風に育てたマッチョじじいに感謝するさね』
『……私にはどうにもレーベ選手の表情は変わっていないように映りますが、やはり師匠というだけあってその微妙な変化に気付けるようです!! しかし、視認できないレベルの攻撃となるといつか捉えられてしまうのではないでしょうか!? それともこれは素人考えなのでしょうか!?』
そんな実況を聞き、一人の獣人が腕を組み仁王立ちをしながらメイアに話しかける。
「ガハハハハ。おい、メイア? 生存本能イコール強さと話したな? そういう意味ではうちのレーベは世界最強かも知れねぇぞ。なんせあいつは目隠しした状態で本気の俺から一時間逃げ回ったからな。お前も捉えようと思ったならちと覚悟しろよ?」
「たははー。リオン様相当無茶な修行を仕込んだね……。まぁ、でもリオン様も全盛期ではないみたいだし? ボクは一時間でも二時間でも叩き続けるつもりだけどね」
リオンは審判という立場でありながら、試合中だというのにメイアに孫自慢を始めたのだ。だが、メイアはそれに付き合い、なお強気な言葉を返す。しかし──。
「ガハハハ!! バカ言え、お前が一時間叩き続ける前にうちの孫娘はお前をぶっ飛ばすさ。なぁ、レーベ」
リオンとメイアが呑気に会話をしているときも、レーベはひたすらに神経を研ぎ澄ましていた。そして目を僅かに見開くと、滑るように動き出す。
「……絶影」
「んー? レーベなんか言っ──グフッ」
まっすぐレーベを捉えていたはずのメイアはなぜかノーガードでレーベの攻撃を食らってしまう。
「カハッ。……なにが起きた?」
混乱冷めやらぬ頭でメイアは辺りを見渡す。レーベを捉える。駆け出した。レーベの右腕の筋肉が僅かに緊張し、重心がやや左に偏位した。そこまで認識したところでメイアは、レーベを見失う。
「ゴァッ……」
またしてもレーベの攻撃がメイアの左脇腹を捉える。左前腕部があれば腕をたたみガードもできたかも知れないが、ここに来て左腕をマナで再生しないという枷が重くのしかかる。そしてメイアは内臓にダメージを受けたのか、血の塊を吐き出しながらレーベを睨む。
「ッペ。……あぁ、分かった。視線誘導、死角移動……そして、確かモヨモト流の瞬隙、だっけ? フフ、小賢しいことをするね。獣人族らしくない戦い方だ。誰の影響かな?」
「……ししょー」
その問いに答えたレーベは、今なおウェンディネヴァとの熱戦を演じ続けているテュールを指さす。
「……なるほど、彼か。鍛えにくい神経や反射という部分を巧みに使った良い技術だね。フフ、だけどそれで勝った気になっちゃ困るよ?」
血の滴る口元を乱暴に右手で拭い、メイアは一つ息を吸うとレーベを射殺さんばかりに睨みつけ啖呵を切る。
「SSSランクを舐めるなよ小娘ッ!!」
メイアの白い体毛が一気に逆立ち、闘気が波打つ。そこからは大槌はおろか、メイアの姿すら映らない。絶え間なく続く衝突音と振動。そしてクレーターだけがメイアが存在しているということを認識させていた。レーベはその猛攻にも表情を変えず避けきっているのだろう。時折、メイアの苦悶の声が聞こえるが、会場にはメイアの姿同様にレーベの姿も映らない。
そして、その光景に驚きを覚えているのは何も一般の観戦者だけではない。特別室で観戦している王族たちも目を丸くしている。
「おいおい、ミケお前んとこの娘すげーな。あの槌兎とあんだけやりあえんのかよ」
「まぁお父様が戻り次第修行を開始するって言って、この歳まで待たされたからね。思いっきりかわいがったんだろうよ。あぁそれとロト。エスペラントを潰されたくなかったら、その名前を軽々しく呼ぶなよ?」
ミケと呼ばれた獣族の王女は、最後にキッとひと睨みし、軽口を叩く人族の王へ警告する。
「なんでだよー。かわいいじゃんか、ミ……。ヒッ。すんません、すんません! ……んであっちのイマイチパッとしない男の方もやるじゃんか。ヴァレリアお前んとこの親戚になったんだろ?」
「ん? あぁ、テュールか。うちの婿殿だな。だが、私に断りもいれず娘をキズモノにされたんだ。ウェンディには灸を据えてやれと言ってあるが、クク。案外ウェンディもそんな余裕がないほどには戦わされているな」
アルクティク皇国の皇后は、試合を観戦しながら目を細め、実に愉しげに笑う。
「……おぉ、こわ。竜族といい、獣人族といい、なんでこんなに戦うのが好きなのか……」
「えぇ、理解に苦しみますね。私も争いなど……」
「ん? あぁ、イアンいたのか? あっはっはっは! いや、なにお前影薄いからてっきりもう帰ったかとな」
エルフ族のマスオさんことイアンは、どこに行ってもこんな扱いであった。そしていつも通り、部屋の隅っこにうずくまると指で呪詛の言葉を書き連ねていく。それを見かねたエウロパ領の王妃はロトを窘める。
「コラー、ダメでしょ? ロト君。イアン君をいじめちゃ可哀想よ? はい、仲良く観ましょ?」
「はーい。つーか、この歳になって俺やイアンを君付けで呼ぶなんてのは、エヴァお前くらいなもんだぜ? 一応俺たちも王族なん──」
「「「お前が言うな」」」
そしてロトが逆にエヴァを窘めようとしたところで、三人の王族たちからの声が重なる。
「たはー。こりゃ一本取られた」
そしてロトはおどけるように額をピシャリと叩くと大きく仰け反る。そんな時である。
「きゅ、急報ですっ!!」
王族の観戦する部屋にノックもせずに駆け込んでくる一人の人物。王族たちは先程までの雰囲気を一瞬で霧散させ、その者の次の一言を静かに待つ。
そして、同時に会場ではテュールたちの戦いが佳境を迎えていた。
8/3追記
申し訳ありません。
作者が熱中症でダウンしたため本日の更新はお休みとなり、また火曜から再開いたします。
本当にすみません……




