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第153話 男と女には種族より深い溝がある

「ただいまー! みんなどこだぁーー!! 銀星亭行くぞ!! 軍資金は揃ったんだ! はよ! はよ!」



 夜十時。テップはギルドで普段にない真剣さで依頼に取り組み、無事飲み代をゲットし帰宅する。しかし、玄関を開け放ち、リビングを覗いても誰もいない。



「……ここにいないということは、まぁ、そういうこと……なんだろうな」



 この数ヶ月毎日テュールたちと寝食を共にし、ほぼ毎日こちらの家にも通っていたテップは他の面々がどこにいるのかが容易に想像がつく。そこで見つからないよう忍び足で、とある階段を降りていく。



「そろーり……、そろーり」



 ゆっくりと高く足を上げ、つま先からそっと降ろす。なぜ両手を浮かすのかはテップ自身にも分かっていない。そしてモヨモトの建てたこちらの家の地下にある訓練用ダンジョンの地下一階部に到着する。



「ちらり」



 そして、テップは階段の影から恐らく惨状が広がってるであろう舞台を覗き見る。



 ──ニタァ。



(まずいっ!!)



 その場に立っていたのは目の据わった四人の師匠だけであった。そして、テップと視線が交差する。慌ててテップは振り返り、階段を駆け上ろうとする。だが──。



「ホホ、通せんぼじゃ」



「ガハハハ、テップ。女の尻を追うのもいいが、ちょいと俺たちと遊んでからな?」



「フフフ、いくよー?」



「フハハハ、よーい、ドンだ」



「い……いやぁあああああ!!」



 絹を裂くようなテップの叫び声がクンジョンの中に響き渡り、それから小一時間テップは四人の師匠たちに散々いじめられることとなる。



「ホホ、さて今夜は美味い酒が飲めそうじゃ。銀星亭に行くかの」



「ガハハハ、だな。その前にツェペシュ水」



「フハハハ、我にも頼む。あと乾燥もな」



「はいはいー」



 ツェペシュは身体を動かし汗だくになった半裸のマッチョ二人をとんでもない水量の激流で洗い流す。ついでに床に寝転がっている遊楽団の皆も押し流す。そして、水が引いたところで火竜の灼熱の息吹を彷彿とさせる熱風を放った。



「うっし、さっぱりした! おい、テュール行くぞ!」



「フハハハ、男なんぞこれで十分だな。ほれアンフィス起きろ。酒を飲みに行くぞ」



「ホホ、しかしやりすぎたの。みなどこまで流されてしもうたんじゃろか? つーか孫娘たちは……」



「あ、ご心配なさらず。六人とも回収済みです」



 モヨモトの呟きにいつの間にか隣に立っていた執事がそう返す。そして壁際にもたれかかるようにして寝ているカグヤたち五人とウーミア。



「ホホ、すまんのぅベリト。んじゃ申し訳ついでにあやつらも回収してきてくれるかの?」



「畏まりました。しばしお待ちを」



 そして執事は音もなく消える。次に姿を見せるときはドサリという音がいくつか聞こえた時であった。



「うぷ。……吐きそう」



「ちょっと龍になるわ……。胃袋の水がきちぃ」



「ボクも狼になるね……」



「おぇえええええ……。胃がぁ、胃がぁ。つーか、お前らズルいぞ……。こんなときに竜化と神獣化って、テュールてめぇまで何デミドラになって、マナ全開で回復図ろうとしてんだよっ!! って喋ったら、おぇええええ」



 意識を失くしていた四人を襲った激流は、胃袋に凄絶なダメージを与えていた。



「ガハハハ、よしっ起きたか。飲み行くぞー」



「え、この状態で? 水だけで吐きそうなのにお酒飲むの? 吐いちゃうよ?」



「ホホ、テュール。ワシは師匠の酒を断るような軟弱な弟子に育てた覚えはないの。鍛え直すかの?」



「フハハハハ!!」



「フフフ~」



「……酒、飲みにいきます」



「ガハハハ!! それでいい。アンフィス、ヴァナル、てめぇらもいつまでそんな姿でいるんだ? おん? それで行く気か? 戻れ」



「「…………」」



 人としてはかなりの巨躯であるリオン。だが、竜と神獣の二人からすれば容易に踏み潰せるサイズだ。しかし、二人は言葉を飲み込みシュルシュルと人へと戻る。



「ホホ、さてテップは……」



「ちょっと待ってくれ。おぇええええ!! ……はぁはぁ。うっし、水吐き切った! さ、いざ行かん銀星亭へ!!」



 スッキリした顔で前を向いていた。本当に大物である。



 そして、その頃になると壁にもたれかかっていた女性陣も目を覚ます。



「パパ、どこいくのー?」



 ウーミアは起きて早々にどこかへと行ってしまいそうなテュールを見て、不安そうな声を出す。



「あー、パパは今から美人ウェイトレスがいる酒場へ行くそうだ。ミアはママとお留守番だ。よしよし」



「……レ、レフィーさん? その、言い方が……いえ、なんでもないです」



 チクリとトゲのある言い方に反論しようとするが、周りからの視線に心が折れてしまい、シュンとなってしまうテュール。父親の威厳というスキルはどうやら習得にまだ時間が掛るようだ。



「ふふ、ウーちゃんっ。パパは放っておいて私達も美味しいもの食べよっか」



「「おいしいものっ(なのだ)!?」」



 カグヤの提案にウーミアともう一名の幼女がバッと振り向く。



「フフフー、いいですね。ではこちらは深夜の女子会ですね~。パジャマでパーティーしちゃいましょうか」



「……ん。女子会する」



「ふふ、じゃあ決定だねっ。というわけでお祖父様たちも今日はテュールくん家の方に泊まってね?」



「ホ? え、でも客室の数ぇ」



「泊まってね?」



「……ホホ、了解じゃ」



 カグヤの有無を言わさぬプレッシャーに頷かざるを得なくなったモヨモト。その後ろではリオンやファフニール、ツェペシュが苦笑いしているが、別に大したことではないと成り行きを見守っているだけであった。



 こうして、師匠陣四人と遊楽団男子五人は銀星亭へ向かうこととなる。そして九人の先頭に立つ男はこの男である。



「よーしっ、準備はいいか野郎ども! さぁ行くぞー!」



「ホホ、誰が野郎どもじゃ。調子乗りよってからに」



「あいてっ。だが痛くないっ!!」



 などとバカなやり取りをしながらテップが勢いよく玄関の扉を開ける。



「おや? なんだい、玄関が勝手に開いたと思ったらいきなりアホ面が飛び出してくるとか、この家はビックリ箱かなんかかい」



「うげっ、ルチア!」



「何がうげっさね。言葉に気をつけな。ふんっ」



「さるばとぉぅれっ!!」



 そして調子に乗りまくっているテップはその横っ面をルチアにはたかれて宙を舞うのであった。



「あら、お祖母様お帰りなさい。ちょうど良かったです。実は今から──」



 そのままテップは放置することに全員が暗黙の了解で決める。そして帰ってきたルチアにセシリアが駆け寄り、現状を説明する。



「ほぅ。そりゃいいね。んじゃ今晩は男ども禁制の楽しい夜さね。そうとなればあんたたちには用はないよ。ほれさっさと行った行った」



 ルチアにシッシと手で追い払われ、バタンと玄関の扉が閉められる。と、同時にガチャリと施錠する音まで聞こえた。



「ホホ、女というのはほんに……」



「おい、モヨモトやめとけ。どこで聞かれているかわからねぇ。この世界では迂闊なことを言うとすぐに……」



「フハハハ、BANだな」



「フフフ、怖いねー」



 こうして男九人と女七人の夜が始まる。



さてルート分岐しましたね。

男九人が酒場でウェイトレスの尻を追うルートと、

女七人がパジャマでキャピキャピ恋バナとかしちゃうルート。


うぉおおおパジャマパーティの方を書きてぇええええ!!!!

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