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第152話 とある壁の中の不思議空間

「なにするんだよ……」



 ようやく呼吸が整ったテュールは、いけしゃあしゃあと事故で済まそうとするモヨモトを睨む。



「ホ。なんにせよたるんどるじゃないかの? 三日間どうせ修行をサボっとったんじゃろ?」



 しかし、モヨモトは悪びれる様子もなく、むしろ意地の悪い声でそうつつく。だが、この言葉にテュールはニヤリと笑った。



「……ふん、聞いて驚け! 俺はリエースでマナの使い方を会得した!」



「マナ? おぉ、ルチアのとこの娘か。確かにマナを会得すれば攻守ともに飛躍的にレベルアップするの。では、試してみるかの」



「ガハハハ、なんだモヨモト、テュール。面白そうな話してるじゃねぇか。俺も混ぜろ」



「フハハハ、我も混ぜろ。理由? 暇だからだ!!」



「ボクも久しぶりに遊ぼうかなー」



 テュールがドヤ顔でマナを会得した旨を伝えると、続々と師匠陣が集まりいつものパターンに突入しようとする。



「いや、暇って、みんなラグ──ぬぁっ!?」



 しかし、テュールがラグナロクの件で暇などないのでは、と問おうとし、その言葉を口に出そうとした瞬間、四人の師匠陣に物理的に黙らされる。



「ホホ、テュール。おんし、お茶目じゃの? ちと場所を移そうかの」



 モヨモトは有無を言わさず、この場にいないテップを除く全員を引き連れ、とある壁の前まで移動する。一見ただの壁に見えたソレはモヨモトが手をかざすと吸い込まれるように腕が沈んでいく。そして、とうとうモヨモトは壁の中へ呑み込まれていった。



 そんな場面を見て、唖然とする遊楽団の面々。戸惑うように手を伸ばしたテュールを後ろからリオンが蹴飛ばす。



「わぷっ!」



 そして、蹴り飛ばされた先でテュールが目を開けるとそこは不思議な空間が広がっていた。その部屋には四辺に壁があり天井と床も正しく存在する。そこに置かれている椅子と机も変哲のないものだ。なのに広さや時間、方向感覚に違和感を感じてしまう。



 程なくして全員がその部屋に集まったところで入り口が消えた。そこでようやくモヨモトが口を開く。



「ホホ、んで、おんしら。どこまで聞いた?」



 ゾクリ。



 訓練の時にさえ見せない冷たい表情と声でモヨモトに問いかけられたテュールたちは全身が粟立つのを感じる。そして嘘をつく必要性もないことのため、テュールがリエースでルチアやローザ、エリーザとラグナロクについて話したことを報告する。



「ホホ、あんの姉妹エルフは、ルチアに似て大胆じゃの……。まぁそこまで聞いてしまったのなら情報を共有しといた方が良いじゃろ。あぁ、まずワシらが生きてこの街に潜伏していることや、おんしらがわしらの弟子であることは当に割れとる」



「ガハハハ、つまりお前らはさらわれる可能性があって、その場合拷問にかけられるか、生贄にされるか、器にされるか、まぁ碌なルートはないだろうな。だが安心しろ。保険として護衛がついている」



 さらわれると言い始めたリオンの言葉に一同は顔を青くする。しかし、護衛がついていると言われ、テュールは好奇心の色を覗かせた。



「護衛? 誰なんだ? 師匠たちの誰かか?」



「ホホ、なんじゃ気づいてなかったのか? 禁眼じゃよ。きゃつがその眼でおんしらを常に見張っとるんじゃ。と、言っても正確な姿かたちではなく、その者の魔力を見ていると言ったところじゃの。じゃから異常の察知や、万が一さらわれても追跡することが可能じゃ。生きていればの」



 リエースでローザたちから聞いたアルカディアで最も強いとされる魔導師である禁眼。その禁眼が護衛についており、その護衛内容にも納得できたテュールはホッと一息つく。しかし、モヨモトの最後に付け加えた物騒な一言でまた顔を引き攣らせることとなる。

 

 

「ガハハハ、モヨモトそんなにビビらせんな。お前ら安心しろ。天使が出てこない限り、お前らが不覚を取るこたぁまずねぇよ。だが天使、つまりレベル三以上が出てきたらやべぇな」



「そうじゃの。レベル一はゾンビもどき。レベル二は獣型、サイズもまちまちじゃ。でレベル三は翅なしと言われる翅のない天使じゃ。そしてレベル四は翅の生えた天使じゃの」



「フフ、翅なしと言えど、天使と呼ばれるレベル三はかなり強いよー? 今のボクらが本気を出さないといけないレベルかなー」



(と、とんでもねぇじゃねぇか!! それレベル四って……)



 テュールは師匠陣が本気を出す相手よりステージが更に上の敵がいることに目眩を覚える。それを察したファフニールが──。



「フハハハハ、当然レベル四はレベル三とは桁が違うぞ。そしてレベル四は位階付きと呼ばれる十三の天使からなる。我らが戦った第四位サタナエルは……」



 そこまで言って、チラリとモヨモトの方を見る。



「ホホ、とんだクソッタレじゃったの。まぁ、ワシらはつまりラグナロクを排除し、天使を二度とこの地に降臨させないために今も動いておる。本当はワシらだけでなんとかしたかったのじゃが、サタナエルとの戦いでの古傷や寄る年波には勝てんでの。いつかは弟子であるおんしらを当てにせんといかんと思ってたんじゃ……。すまんの」



 モヨモトはサタナエルをただクソッタレとだけ評した。そして遊楽団の面々に力を貸して欲しいと頭を下げる。



「……モヨモト。俺たちはリエースで話を聞いた時からその覚悟はできてるよ。自分の国のため、仲間の国のため、そして世話になった師匠たちのために俺らはやるよ」



 テュールはまっすぐにモヨモトへ視線を返し、そう宣言した。その後ろには遊楽団の面々が同じ表情で頷いている。



「ホホ、ほんに感謝する。みな、ありがとう。さて、リエースでも話があったように天使が召喚されてしまう可能性も考慮すると遊んどる時間はなさそうじゃ。早速今から修行じゃて。……で、テップのやつが見当たらんようじゃが?」



「……あぁ、あいつなら賭けに負けて全財産をすっからかんにして、そこで出会った女のとこで今夜酒を飲むからその金を稼いでいる」



 意気揚々と修行に赴こうと遊楽団を見渡したモヨモトが、恐らくテップが碌でもない理由でこの場にいないことを察していながらも問う。それに答えるテュールは、やはりげんなりした顔でそう返すのであった。



「はぁ、まぁ英雄、色を好むと言うしの。案外あやつが一番の大物になるかも知れんの。それにワシらも坊主じゃないからの。酒くらい飲みたいわ。というわけで美味い酒を飲むためにも夜までかるーく、運動しようかの?」



 そしてここにいないテップに軽い皮肉を口走ったモヨモトは、遊楽団と他の師匠陣に目配せをし、最後にパチリとウィンクするのであった。



ひぇぇ、更新遅くなって申し訳ありませんm(_ _;)m

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