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第151話 よーく考えよう。お金は大事だよ?

「はい、じゃあお疲れ様ー。三人とも合格だから受付のリセから騎獣証を貰ってねー。で、騎獣の体の一部に付けておくことー。あ、できれば分かりやすいところねー。それじゃまたね~」



 騎獣レースがドタバタの内に終わり、レースの結果などさして興味ないとばかりのミルキーは、三人にそう言い残すと去っていく。残された三人はと言えば──。



「……最後まで、適当な人だったな。あんなんでこの街の騎獣大丈夫か?」



「……ん、私もちょっと不安」



「……あぁ、流石の僕も現ギルドの体制について疑問を抱かざるを得ないな」



 晴れて合格したにも関わらずどこか浮かない表情でその後ろ姿を見つめるのであった。



「とりあえず騎獣証貰うか……」



 テュールがそう呟き、レーベとクルードが頷く。そしてレセの元へと騎獣証を取りに行く。



「あはははは、三人ともミルキーにペースを崩されたんですね? 騎獣試験の担当試験官がミルキーだとみんなあなた達みたいに疲れ切った顔で帰ってくるんですよ。はい、これ」



 その表情を見るや、愉快そうに笑う受付嬢のレセ。そして、笑いすぎて涙が出てしまったレセは、目尻を拭い、騎獣証を三枚差し出してくる。



「レセさん、ミルキーさんって、その大丈夫なんですか?」



 騎獣証を受け取りながらテュールは、いつもあんな様子であろうミルキーに対してやんわりと苦言を呈す。



「ふふ、ミルキーはあぁ見えてもこのギルド……ううん、このリバティで一番騎獣、魔獣に詳しいんですよ。彼女はどうやら試験が始まるまでの数分で合否を出しているみたいですね。だから試験の内容自体はふざけたものが多いんですよ。そんな彼女が合格を出した騎獣は不思議と問題を起こすことがまったくないので、ギルドも試験内容は一任しているんです」



「……さいですか。了解です。ありがとうございました」



 そこまで言われてしまえば何も言い返せないテュール。ひとまずは納得して礼を言った後、受付から去る。待合いスペースには既に観客席から戻ってきた遊楽団の面々がいる。



「では、僕はここで失礼する。ニルヴァルム行くぞ」



「ぐるふっ」



 体長がシベリアンハスキーほどになったニルヴァルムを連れて、クルードは去っていく。



「カグヤ様、セシリア様、リリス様、レフィー様失礼いたします。レーベ様も本日はありがとうございました」



 当然、王族への挨拶は忘れないのであった。



「テュールくんっ、レーベちゃん、おめでとうっ」



 そんなクルードとすれ違う形で近付いてくるカグヤたち。皆が口々にお祝いと労いの言葉を掛けてくる。



「……ん、ありがと。ツヨシもこれで街を一緒に歩ける。嬉しい」



「るふぁ♪」



「あぁ、みんなありがとう。で……、賭けは没収か?」



 ツヨシを撫でながら喜ぶレーベと、ポメベロスを腕に抱えながらニヤつくテュール。



「あぁ、それでしたら──」



「聞いてくれよぉお、テュール!! 俺の生活費を全てぶっこんだまさに命がけのレースだったわけだが、まさかのノーゲームになることを賭けていた子がいて、一人勝ちされちまったんだよ!! でも、その子はすっごいクールな美少女で、銀星亭に新しく入ったウェイトレスさんって言うんだ!! どう思う!?」



 ベリトが事情を説明しようとするとテップがすごい勢いでインターセプトしながらそんなことを言ってくる。これには流石のベリトも苦笑いだ。



「……あぁ、えぇと、残念だったな?」



 そしてテュールはテップの生活費全財産と美少女に会えた喜びを天秤に賭け、流石に落ち込んでいるだろうと声を掛けるが──。



「バッカ!! 俺はあの子に出会うために全財産を払ったと思えばちっとも惜しくないね。むしろお釣りが来る!! というわけで今夜は騎獣試験合格祝いを銀星亭でやるぞ!!」



 どうやらテップは全財産より美少女との出会いの方が勝ったらしい。これには遊楽団の面々、どころか周りで聞いていた冒険者の顔までもが引きつっている。



「はぁ、まぁいいけどさ。んで、お前金なくてどうすんだ?」



「え……?」



 今夜銀星亭で飲むことに関しては特に否定する理由もないため受け入れるテュール。しかし、全財産を賭けたテップに支払い能力があるのかは確認しておく。そして案の定、目を白黒させるテップ。キョロキョロと助けを求める視線を配るが──。



「ちなみに、俺も結構な額賭けたから自分の分くらいしか金がないな」



「あ、ボクもー。だからテップには貸せないねー」



 男性陣は呆気なく拒絶。



「あ、私テップ君に貸したお金返して貰えてないから、追加はダメだよ?」



「フフ、右に同じです」



「リリスなら貸してあげてもいいのだー! ……あっ、今五百ゴルドしかないのだ。うぅ……」



「……ん、リリス。はい、五千ゴルド。なくしちゃダメだよ?」



 カグヤとセシリアはどうやら既にテップに金を貸しているとのこと。そして、リリスは気前よく貸そうと思ったが、財布の中身は銀貨五枚であった。それを見て、レーベがリリスの財布に大銀貨を五枚入れる。



「……テップもいる?」



 そして、小さなライオンの少女はいつもと変わらない様子でテップに尋ねる。



「……ぐっ。ぐぬぬぬ、ぐぬぬぬっっ!!」



 その問いにテップは悩ましげなうめき声を上げた。どうやら自尊心の最終ラインで踏みとどまっているようだ。テップは年齢は同じはずだが、リリスとレーベから金を借りるというのはなんだか人として終わってしまう気がしたのだ。



「おい、テップ? ちなみに私はいつでも貸すぞ? 利子は他人以上友人未満の特別待遇だ。ま、他人には貸さんがな」



 ということはつまり、最も高い利率で貸し出すということであろう。そして執事も──。



「フフ、テップ? 私もいつでもお貸ししますよ? きちんと契約書もありますので、万が一にも言った言わないでトラブルになることもありませんし」



 そう言って、一枚の契約書を作り出す。だが、読む前にテップはそれを破り捨てた。



「レセさーーーん!! 僕に今から夜までで銀星亭の飲み代くらいが稼げる依頼をくださーーーい!!」



 そして、働いて稼ぐという建設的な選択をとったテップは、恐らくここ最近の中で最も賢い選択であったろう。事情を察したであろうレセは苦笑しながらも依頼をいくつか見繕ってくれているようだ。



 こうしてテップをギルドに残し、遊楽団の面々は三日ぶりの家へ一度戻ることとする。と、言ってもテュールはポメベロスを連れに帰ったので厳密には三日ぶりではないのだが。



「ただい、むぁっ!?」



 そして、そんなテュールが扉を開くと何故かその胸に一本の木刀が突き刺さる。



「ゲホッ、ゴホッ。え? え? なに? なんで?」



「ホホ、よぅ戻ったの。リエースはどうじゃった? ん? テュールどうしたんじゃ? おぉー、これはすまんのぅ。突きの練習をしていたらどうやら当たってしまったらしいの」



 むせこみながら困惑するテュールに、白々しい笑顔でそう言い放つモヨモトがそこに立っていたのであった。 

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