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日本昔ばなしBL

男前な鬼の頭領 × 美少年桃太郎

 

 

 七夕の前日の暮れ方、鬼ヶ島からいつものお使いがやってきた。神社の武舞に出てくる面盾みたいな四角い顔の小鬼だ。

 

「桃太郎さん……」

「おや、いらっしゃい」 

 

 いつも愛想のいい小鬼が、今日は暗い顔をしている。桃太郎を見るなり深々と頭を下げ、両手で文を差し出した。花も枝も結ばれていない。

 

「頭領より急ぎの文をお預かりしました」

 

 胸騒ぎがした。

 文を開くと、お香の代わりに磯の香りがした。

 

 

 桃太郎、明日は行けぬようになった。

 鬼ヶ島の南の浜で多数の船が難破し、怪我人が出た。頭領として放ってはおけぬ。また日を改めて行く。

 

 

 それだけの、走り書き。

 桃太郎は、しばらく黙って文を見つめた。使いの小鬼が、申し訳なさそうにうつむいた。

 

「……わかりました。ありがとう。桃太郎は了解しましたとお伝えてください」

 

 そう言って微笑んでみせると、小鬼はほっとしたように頭を下げ、帰っていった。

 縁側に出ると、空はもう茜色。明日は七夕だというのに、西の空には雲が広がっている。

(晴れるといいな、と思っていたのに)

 思っていたより、寂しかった。

 わかっている。仕方がない。鬼ヶ島の頭領として当然のことをしているのだ。会えなくても文が来る。文が来る間は、きっと大丈夫。

(――大丈夫、なのだろうか)

 桃太郎は懐を押さえた。

 天の川を隔てて年に一度しか会えない牽牛と織女のことをふと思った。それでもあの二人は七夕の夜にかならず会える。

(でも私たちはどうだろう。種族の隔たりや距離があまりにも遠い気がする)

 声に出したら泣いてしまいそうで、桃太郎はぎゅっと唇を結んだ。

 

 

 

 

 けーん!けーん!

 

 翌朝、桃太郎は大きな雉の鳴き声で目が覚めた。びっくりして飛び起きると、雉が枕元に立っている。

 

「朝ですよ、桃太郎」

 

 彼もまたお供だったが、今は所帯を持って近所の藪に住んでいる。朝は子供たちに餌をやるので忙しいから滅多に来ないのに、これは一体どうしたことだろう。

 

「おはようございます。朝ごはんの時間です」

「……うん、おはよう」 

 

 桃太郎はのろのろと布団から出た。

 昨夜、泣いたから目が少し腫れている。泣くつもりなんてなかったのに。

 囲炉裏端に座ると、猿が干し柿をかじりながら「よう」と手を挙げた。

 

「今日はみんな勢揃いですね」

 

 不思議に思いながら囲炉裏端に座って、おばあさんから汁椀を受け取った。桃太郎の好きなきのこ汁がたっぷりよそってある。はっとして顔をあげると、おばあさんが優しくうなずいた。

 

「召しあがれ」

「いただきます」 

 

 手をあわせて、はふはふ食べた。

 おじいさんも、にこにこしながら茶碗に盛った飯を渡してくれた。

 

「会いに行けばいいじゃないか」

「え?」

 

 桃太郎が食べる手を止めると、猿が干し柿を食べ終わった指をねぶりながら、こう言った。

 

「鬼ヶ島への渡し船に港で待ってもらってる。食ったらすぐに出ようぜ」

「えっ?えっ?」


 合いの手をいれるように、雉が縁側から首を伸ばした。

 

「今夜は星合いの夜ですよ。いい風が吹いています。きっとすぐに着くでしょう」

「でも……」桃太郎は箸を置いて、うつむいた。「怪我人の救助をしているでしょうし、それに……私はきっと島の鬼たちに嫌われていますから」

「そうかもしれないけどさ」犬がくぅんと鳴いた。「渡し船を引き受けたのはあの面盾ヅラの小鬼だぞ。お前があんまり落ち込んでるから辰の刻まで待ってるって。乗るなら来いって」 

 

 犬の言葉に桃太郎は泣きそうになった。

 猿はさっそく出かける準備をしているし、よく見ると犬はすでに風呂敷包みを背負っている。ぶんぶん尻尾を振って、桃太郎の腕を鼻で突ついた。

 

「顔を見て帰ってくるだけでもいいじゃんか~。行こうよ、鬼ヶ島!」

「先導しますよ」

 

 雉が、羽をふくらませてぶるぶるぶるっとドラミングすると、ずっと黙っていたおじいさんが背中を押した。

 

「行ってこい、桃太郎」

 

 そして、おばあさんが竹の皮に包まれたきびだんごを桃太郎の膝の上に置いた。

 

「鬼さんのぶんも入ってるからね。みんなでお食べ」

「……みんな、もしかして最初から」

 

 桃太郎は袖で目頭を拭うと、うん、とうなずいた。その目はすっかりいつもの桃太郎に戻っていた。

 

「そうだ!うじうじしていたって始まらない!行くとなったら、怪我によく効く丸薬や煎じ物を持っていきましょう!」

 

 膝を打って立ち上がるなり、干してあった丸薬やしまっていた煎じ物の袋を急いで行李に詰めた。お腰につけたのは、もちろんおばあさんのきびだんご。

 急いで旅支度をすませると、おじいさんおばあさんが外まで見送ってくれた。

 

「気をつけてな」と、おじいさん。

「鬼さんにもよろしくね」と、おばあさん。 

「はい、いってまいります!」 

  

 さて出発しようとしたとき、犬と猿がさりげなく隣に並んだ。雉は当たり前のように先導役として、少し先で待っていた。

 

「あなたたち……」

「もうきびだんごはいらないぜっ。だって俺たち友達だもんな!」

 

 犬がキリッとした表情で桃太郎の右に控えると、左の猿はちょっと照れ臭そうにそっぽを向いた。

 桃太郎はふふっと泣き笑いした。

 

「皆さん、のんびりしている暇はないですよ。辰の刻までに港へ着かなくてはなりません」

 

 雉のひと声に、桃太郎はうんと頷き鬼ヶ島の方角を指さした。 

 

「いざ、鬼ヶ島へ行かん!」

「「「おーーーー!!!!」」」

 

 そして桃太郎一行は、鬼退治ではなく鬼の頭領に会うために鬼ヶ島へと向かうのだった。

 


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