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日本昔ばなしBL

男前な鬼の頭領 × 美少年桃太郎

七夕ネタです。


 

 二月の節分が過ぎ、初夏に差し掛かったころ。

 鬼の頭領と桃太郎は、遠距離恋愛をしていた。

 桃太郎が住むのは、京の都に流れる川を上った先にある山奥の村。鬼が住むのはその川が行き着く先の海をさらに船で二里ほどいった鬼ヶ島。おまけに二人とも忙しくて、なかなか会えない。

 それでも、ああ見えて筆まめな鬼は、折に触れて文をくれる。恐ろしい見た目に似合わない流麗な文章とさりげなく添えられた季節の花、それからふんわりと焚きしめられた香のかおりに桃太郎はうっとりしてしまう。

 こんな素敵な恋人が日本に二人といるだろうか?(いや、いない)

 けれど同時に会いたい気持ちが募って、最近はますますつらい。

 

 天の川

 隔ててなおも 撫子の

 香にぞ君を 近く覚ゆる

 

 ――七夕に会いに行くぞ

 

 鬼より

 

 撫子に添えられた文を読んで、桃太郎は自室の軒先でひとり夜空を見上げた。

(今ごろ何をしているのだろう。あの方に会いたい)

 そっと自分の体を抱きしめた。

 この頃、鬼を想うと桃太郎の胸には、あらぬ欲望が湧いてしまう。あの力強い腕に抱きしめられたい。あの夜よりも深い瞳に見つめられたい。

(もっとそばにいたい。けれど、それは叶わぬこと)   

 二人の間には山より高く海より深い種族という名の隔たりがある。桃太郎はつい天の川とその隔たりを重ねてしまう。  

(おかしなものだ。あの方と恋人になって私は幸せなはずなのに、なぜかいつも悪いふうにばかり考えてしまう……)

 ひとつため息をついて、撫子を丁寧に紙に押し挟んだ。もらった花はみんなこうやって押し花にしている。

 それから文を懐にしまうと、布団に横になった。紙に焚きしめられた香がかおり、鬼のことを想った。

 恋人になって知ったことは、鬼はとても格好いい大人だということだ。大きくて強くて力持ちで、いつも桃太郎を思いやってくれるし、都の公達にも負けないくらい和歌も上手で雅やか。きっと、自分でなくても素敵な恋人ができたはずなのだ。そう、彼に釣り合う同じ鬼の――。

(……どうして、私を選んでくれたのだろう)

 聞けばきっと教えてくれるはず。ちゃんと愛されている自信もある。それなのに、やっぱり桃太郎は不安な気持ちが拭えないまま、眠りに落ちた。

  

 

 七月に入ると、村の子どもたちが笹を飾りはじめた。

 桃太郎も今年は短冊を書こうと筆を持ったが、願いごとをひとつに絞れなくて困った。鬼にもっと会いたい、そばにいたい、あの腕に――と欲が深くなるばかりで、結局なにも書けないまま筆を置いた。

(どうしたものか)

 真面目に悩んでいると、鬼ヶ島から文が届いた。今日は花ではなく、笹に結びつけられている。

  

笹の葉に

 結ぶ願ひは ただひとつ

 星より先に 君に逢はなむ

 

 添え書きはなく、それがかえって鬼の会いたい切実さが感じられて胸がキュンとした。

 紙からふわりと香る鬼のかおりを抱きしめるように文を胸にいだき、桃太郎は目を閉じた。

 七夕まで、あと三日。

(嬉しい。もう少しで会える……)

 

「なに?また鬼からの恋文~?毎日来るじゃん」

 

 かつてお供をしてくれ、今も共に暮らしている犬が、鼻をふんふん鳴らして寄ってきた。毛が短くて耳が垂れた茶色い犬である。

 

「お香、くっせ!鼻が曲がっちゃうよ」

「そんなこと言わないの」 

 

 頭を撫でてやると、気持ち良さそうに目を細めている。桃太郎は、犬を撫でながらようやく短冊に筆を走らせた。

 

『あの方が会いに来てくれますように』

 

 少し考えて、もう一枚書いた。

 

『いつまでも、あの方のそばにいられますように』

 

 それから筆を置いて、空を見上げた。

 しばらくそうしていたが、書いた二枚と見比べてから、新しい短冊に筆を走らせた。

 

『この国で暮らすみんなが幸せでありますように』

 

 にっこり笑うと、最後の一枚だけを笹に結びつけて、あとの二枚は懐にしまった。

 

「桃太郎や、ご飯ですよぉ」

「はーい、いま行きます」

 

 返事をして、桃太郎は囲炉裏へと向かった。

 桃太郎の願いごとをのせた短冊が七月の風にサラサラと揺れていた。


 

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