94私の中の需要がなくて価値がない
死んではない。一応生きて入る方の。釣られかけていてもうダメかもしれないという一歩手前の。
「絵姿か……ブロマイドって」
そういえば向こうの世界でも、野球選手とかのブロマイドあったなぁと思い出す。こういった文化は永久不滅なのだろう。ペコラはそちらよりもシールを集めていたので、客層から離れるけども。
「マーカーって誰?」
「帝国劇団の舞台俳優ですわ。人気ナンバーワンの」
「舞台俳優……顔が整ってるから納得」
「それだけではありませんよ。演技もピッタリで。とても上手くてファンサービスだってしっかりやってくれます」
「俳優のスターって感じか」
「サインを今度貰いたいんですの」
「ここへ呼ぶのはどう?みんなでお金を出し合って」
「それいいわ!採用よ!」
「スケジュールを無理やり開けさせるわけにはいかないから、年単位で聞いておかなければ」
急に聖女たちの目が煌めき出した。顔がいい人はこの世界でも、関係なく目の保養扱いされるらしい。正しい鑑賞の仕方なのだろうが、ちょっとノリについていけない。
現実の人間に対してあの人面白いから観ようと思ったことはあるが、わざわざその人に会いに行ってまでは観たりはしないから。蚊帳の外というより、保護者目線になっていく。
外に出るより中に呼んだ方が騒ぎにはならないので、防犯面にも気遣いをしているのだな。語り合う女たちを眺めつつ、見当を付ける。
「マーカー様の他にも全員呼んでしまいましょうよ」
「劇団全員を?いいわね。そうすることで俳優たちは全力で挑めるかもしれませんわ」
聖女の住む区画に劇場を建てましょうとまで話は広がり、大掛かりな工事まで予定を立て出す。この場の所有者は皇帝と聖女たちのものなので怒られることはなさそうだ。
大掛かりな舞台に気を取られそうになる中で、聖女たちはあれこれと言い合う。熱意が違う。好きな俳優を演技させる場所を作るというのは推し活なのだと思い出す。規模がだいぶ違うけれど応援しているのだ、これは。
「なんの劇をしてもらうの?」
聖女が一人、口にしたのがその場の穏やかな盛り上がりのピークだった。何の劇にするかの話題に女たちが譲れないと口々に好きな演目を出し合う。ラブアンドピースはどうやら儚い夢のようだ。
「ペコラ様は何がよろしい?」
「え?私は興味ないし何でもいい」
募金みたいな感覚でお金は出してもいいけれど、俳優にも劇にも興味はない。
「美女と野獣とか?」
「び?なんですかそれは?」
美女と野獣。魔女の呪いで野獣の姿に変えられた王子。本が大好きな優しく美しいヒロイン。父親が野獣の庭の薔薇を盗んだ又は摘んだことで、身代わりとして城に囚われる。外見ではなく内面の美しさに気づき、愛が芽生えて呪いが解けるなどなど。
一通り教えると聖女たちの瞳が一億よりも輝いている。それは何なのですかとさらに聞きたがるので数日かけて問題がない絵本を書いてみた。
それを渡すと聖女たちは渇望していたようで次々読み耽り、目をとろんとさせる。王子とヒロインの物語に凄くハマっていった。
そんなに興奮することじゃないのにと思ったが、ふとこの物語は軽く百年以上読まれているのでそこまで魅力的な話なんだ、と思い至る。
ずっと小さな頃から身近にありすぎて凄さを感じ取れなかっただけなのだ。異世界からしたら、とんでもなく甘くて蕩けるようなお話なのだ。
舞台のことや男俳優そっちのけで読み耽る聖女たちのことは横に置いておき、一旦フラニーの方面にフォーカスすることにした。今ホットな話題はこちら。
「パフェは用意してくれたのか」
「あるよ」
あれからどうなったのか地味に気になる。続報を今か今かとアルクレイと、待ち構えておいたのだ。彼とソファに飛び乗るようにスタンバイすると、大画面が雨の前に広がる。
アルクレイにはパフェ、ペコラは片手にコーンポタージュ味のスナック。
「なんでコーンパフェにしなかった?」
こちらのコーンポタージュ味を湿度の高い瞳で見つめて言う相棒。無茶を言い出してこちらこそじっとりとした目を向ける。
「無理だから。コーンパフェ、とうもろこしパフェ、どっちにしても作れるわけがないから。どっちも向こうの世界に存在してなかったでしょ。パフェの中にコーンフレークがあるんだからそれでいいでしょ」
「コンポタ味じゃない」
「牛乳が入ってるんだから、実質それはもうコーンポタージュなんだよ」
このウサギは今更何を言い出すのだろうとついつい、舌戦をしてしまう。
「どれどれ……ワガママ王女は今」
映像を王女のチャンネルにすればそこには思っていた通りの顔が。
「うわああああんん!」
涙でベショベショにして大泣きしていた。
「うわ。私の中の需要がなくて価値がない」
「案外年上たちには泣き顔がいいとかって評判になるかもしれないぞ」
「可能性無限大にさせ過ぎ」
あれに可能性を感じてしまうのは流石にどうかと思う。人間性に問題ありなので、近寄られたくないし。
「あのお方に怒られたぁあああ!」
「そうですね」
お付きの男が沈んだ顔をしている。




