92フラニーのあだ名は赤ん坊王女
それならば好きなだけ妹扱いでも何でもしてくれれば。彼女たちはペコラがベタベタしてくるのが好きじゃないことを知っているので、子供扱いしてこない。
「ありがとうございます」
「嬉しいですわね」
「公認ですわ!これも作ってみたので差し上げます」
他の聖女たちに刺繍入りポシェットを渡されて受け取る。パフェとアルクレイのウサギ姿があり、見事な出来だ。
「ありがとう」
「姉が妹に何かあげるのは普通のことなのです」
「私たちは双子だからお互い、姉も妹もなかったものね」
「ライバルよ、あの子なんて。仲良くなんて無理」
不満のある姉妹関係、不満のない双子。
「私も血縁者はこりごり。擬似ならまだいいかな?」
「ですよね!私もそうです!」
完全に同意した聖女は父親たちに差別されて、可愛がっていた双子の片割れにバカにされていたが。自分が本当の聖女だと判定された途端、父親が可愛がっていた方を放置してこちらへ擦り寄ってきたから、生理的にも気持ち悪く。全力で嫌悪を見せながら振り切ってここへきたとのこと。
「うちは普通でしたね」
可愛がるんなら最後まで突き通せばいいのにと吐き捨てていて、黒い聖女事情に頷く。ペコラのところでは、両親は最後まで片割れに全てやらせようとしたが結局、愛は簡単になくなって仲間割れした。
「普通なのは普通じゃないわ」
愛なんて思い込みだけの味のしない何かだったけだ。
「そうよ。聖女は王より上なのに。すごい人もいるのね」
「双子が聖女でも子供は子供だって言うから、周りの人たちが逆に慌ててたわよ?ふふふ」
ダークからホワイトなほのぼのエピソードを交えつつ、和気藹々と姉妹ならではの会話は華々しく広がる。
皇帝が会いに来たから会ってもらえるかと、聖騎士たちが意思の有無を問いかけてきた。通された男は威厳ある王の形をしていて、ペコラを見ると深く頭を下げる。
「私が承認したので、こうしてこの国に来れてしまいました。申し訳ございません」
「あの子はもう追い出した?」
「今は手続き中です」
「ふーん」
勝手に農園に来たことは怒っているのが、だからといって行動にまで他者に責任を負わせようとは現在思っていない。
「すぐに祖国へ送り返します」
「そうした方がいい。あと、あなたから怒った方が効果があるから直接対面で叱った方がいいと思う。憧れてる人から怒られるってのは、いい薬になる」
「はっ。お心遣いありがとうございます。私から直接話をして、身の程を理解させます」
皇帝に不相応に憧れを抱きこの国に来たのに、その人に怒られて迷惑をかけたことを知ればいくらあんな子でも、多大にショックを受けて反省するかもしれない。
反省しないかもしれないが。王族として甘やかされてきたから、そもそも反省するという心を持ち合わせているのかも謎だ。
「迎えにくる人にもちゃんと説明しておいてね。聖女のところに連絡もなしに来るなんて異常。私が年下でも対応は王族以上であるべきだから、やらかして終わりは緩い」
本来なら自分で罰を下して終わりになるのだが、かけられた迷惑は遠く離れた場所から見ていたホマロ聖女とのトークバトル。被害者はペコラというよりはホマロの方が多いのだ。
「ホマロの方が怒ってたから……」
「そ、そうでしょうね……ホマロ様はペコラ様が大好きですから」
皇帝はホマロが怒っている、と述べた部分で顔を青ざめさせる。一人でも二人でも、怒っていたらそれは聖女が怒っていたことになるので、ペコラが怒ってなくてももう一人が怒っていたら同じだ。
皇帝を青ざめさせるほどの権力を持つ聖女達は普段から穏やかだ。自分たちの持つ発言力を知っているからとも言える。
しかし、怒らないわけではない。特に無作法を奏でた者には、不協和音に目をしんなりと三角にさせる。怒る時はしっかり怒る。
「ホマロ様とフラニー王女が喧嘩になったと」
「喧嘩っていうよりメソメソ泣いてホマロを苛立たせてたってところ。勝手にくるなとか、先触れもなく敷地に入るなって注意したらいきなりノータイムで泣き出して、話にならないから余計に苛立ってた」
あれは赤ん坊を相手にするようなものだ。言葉が通じないし泣くのは赤ん坊なのだから。遠くて近い存在がそんなものなので、王女は実質赤ん坊ということになる。
「さながら赤ん坊王女って名前かな」
「言い得て妙だな。なかなかいいあだ名をつけたもんだ」
アルクレイがふわふわ浮きながら、ふわりと頭に着地して褒めていく。彼は褒めて伸ばす褒育が多い。基本コチラに対しそれ以外は言わないけど。イエスマンとは違うが心地よい褒め伸ばし方だ。
「それはいいですわ!今日からフラニー様は赤ん坊王女とお呼びしましょう」
「いいですね。これで泣くこともむずかしくなることでしょう」
「赤ん坊が五歳ほどになればよいのですがね」
「嫌でも実年齢に成らざるを得ないでしょう」
「あの時で赤ん坊なのだから成長してほしいものだわ」
聖女達があだ名にノリノリで乗ってきた。気に入ったらしく広まっていく話。帝国の王は諦めた顔で半笑いを浮かべていた。止めようがないからだ。




