90ホマロは一つ冒険をやり遂げたらしい
この映像をどこに送れば一番効果的か、考えたら楽しくなってきた。続きを見る。
「そんなのどうとでもなるでしょう!」
「なりません!」
王女を諌める役目の教育係っぽい人の声が馬車内に響き渡る。慣れているのか、フラニーはまともに顔を見ずそっぽを向く。
「うるさいわよ。大人なんだから静かにできないの」
王女のせいなのに生意気に言い返す言葉に、キレるかと思われたが意外なもので相手は真顔で懇々となぜ今回は不味いのかといったことを説明した。
だが、説明を聞く年齢ではないせいか無視して聞き流している。勢いだけでここに来たといった感じが凄くする。若いのは無謀と紙一重だ。
自分なら口を物理的に塞ぎ、二度と生意気な口が聞けないように思い知らせる。宮仕えは大変なのだな。同情はしていない。
「ですから、不味いのです」
説明しても、少女はあくびをして無視する。
「寝るから着いたら起こしてよね」
「王女っ、今回はわがままで終わりませんよっ」
憧れないし痺れない、見事な悪い見本だ。普通にホマロの教育に悪い。純粋なところはあるが甘い苦みも知っている子からしたら、デロデロに甘やかされている王女の振る舞いは考えられないほど、人を舐めている態度だろう。
それはペコラにも当てはまる。甘やかされているものを、恵まれすぎているものをみる視点と大差ないだろう。
「追い払ってやりましたよっ」
「お疲れ様。見てた」
帰っていく馬車に戻ってきたホマロは、アルクレイをギュッと胸に抱え込む。機嫌が悪そうで、王女についてため息混じりに泣き出してきて驚きましたと言われる。
「泣いてたね。嘘泣き」
「グスグスってあんなにはっきり擬音出ませんよ、泣いたら」
泣くのだったらもっと、迫真の演技を心がけてほしいよね。などとペコラが言うとクスクス笑う少女。
肩の力が抜けたのかソファにさらに深く座り、アルクレイが食べているものを見て目を輝かせる。
「私の新作のチョコレートを食べてくださったのですね。どうでしたか?よければ味の感想をいただきたいのですが」
ペコラたちのチョコレートを元にして、以前チョコレートを食べさせたときの味に近付けようしていると、可愛い顔をさらに可愛くして親しげに話しかけてくる。こういう子が周りに愛されるのだろう。
嫉妬心も妬みもない。純粋によかったな、という親心に近い。ボロボロになっていたところを最初に見たせいで、今にも足をもつれさせて転びそうな姿。
その時に見たもののイメージが強く、今は栄養も行き届き平均的な体型になったが、それでもまだ折れるんじゃないかと思ってしまう。もう大丈夫なのも心から理解している。
「美味しい」
「ああ。お世辞なしに美味しいぞ」
ペコラとアルクレイが頷き合う。カカオに砂糖を入れて、配分も研究しているのだろう。モグモグしていると、もっと食べて食べてとチョコレートを押し出してくる。
「チョコレートだけをひたすら食べるのは流石に無理」
「おれは食べられる。食べないのなら食べる。全部食べるからこっちにくれ」
「はいっ。どうぞ」
ペコラの後輩の聖女は嬉しそうに持ってきたものを鞄から次々出していく。部屋がチョコの香りでいっぱいになる。普通の人ならチョコ酔いするかもしれないが、ペコラたちは甘いものに免疫がありまくるので平気だ。
周りからの呼称、チョコレートの聖女も鼻が慣れたのか麻痺したのか。シレッと平気な顔をしている。強いなと感心した。日に日に、小まめにやっていると風の噂で聞いている。
ホマロは満足したのか、とてもホクホクとした顔で時間になったらあっさり帰って行った。アルクレイと話して何かアイデアが浮かんだみたいで、早く試したいことがあるのだという。
聖女というより、研究者や職人のような子になっている。これもそれもチョコレートを教えたから、そこに全て繋がっていた。教えてよかったなぁ、とふにゃりとした思い出が浮かぶ。
少し前にアルクレイと、ちょっとでも試したいと漏れ聞こえてきて、相談相手のアルクレイもたくさん後押ししている。お互い気が合うのだろう。
パフェにいずれは合体するから、パフェ好きなウサギは他人事じゃないと思っているな。趣味が合うし、とことん突き詰めていくところがあって二人の共通点として仲良くなれたのだろう。
「それでは失礼いたします。あの王女が来たらまたいつでも追い払うので、このホマロを時間関係なく呼んでくださいね」
「子供に労働させるつもりはないけど」
「労働ではありません。ペコラ様に付く悪い虫を叩く、生ける噴射剤です」
この世界には殺虫剤がないから、アルクレイが教えたのだろう言葉をあっという間に使っている。
「そのときはおれと一緒に叩きに行こう」
「はい!」
「そこに意気投合しなくていいって」
パフェとチョコレートならほのぼのしてるけど、王女を追い払い隊が結成されるのはなんなのだ。
「絶対絶対呼んでくださいね〜」
フリフリと手を振るホマロ。周りは聖騎士たちがざかざか居るので、送り迎えはどんな時間でも安全だろう。聖女としては増幅系なので直接的な力はないが、聖騎士たちに関しては戦いのプロ。
彼らはこちらを丁寧に対応し、ニコニコと楽しげだ。ホマロから無駄に誇張された、よいことをしてもらった的な話をたくさん話しているのだろう。
こちらを見る目がそういう類を受けた人の瞳をしてきたから、わかりやすい。この人がアノ!みたいな。何度か来ているから騎士たちの中でも慣れが出てきている。
「ペコラ様、今日もありがとうございました」
「お昼は見ていましたが災難でしたね」
「失礼いたします」
「また聖女様を連れてきますのでよろしくお願いいたします」
他の聖騎士たちも挨拶をしたりして、こちらへ声をかけて遠ざかっていく。ペコラはほぼ対応しないが、話してくる分には気にしないというのも周知されているから、話すだけ話してケロッと踵を返したりする。
このやり方が一番自分に合っているので今となってはコミニュケーション方法として気に入っている。一方的に話しかけられ、こちらは何も反応しなくて済む。
聖騎士たちが話し終えるとホマロたちは去っていく。あの王女が待ち構えてなければいいけど。王女も王女で大問題過ぎてどうしたものかとソファに深く腰掛けた。
取り敢えず帝国のトップに報告がてらどう料理していこうかと顎に手をやり、アルクレイのパフェを催促する声に追加する手先。




