09家族である証明は不可能だ。死亡届により戸籍は抹消されており、証明方法はこの世から消えた。双子だといくら叫んでも他人の空似
帰国して一ヶ月が経過した。今頃、魔法が効いて国がびしょびしょになり、程よい具合になっているだろう。
聖女と認められている少女は、満足気にあの日の映像をリピート上映させていた。
「名シーンだよ、ここ、ここね」
「わかったわかった。一ヶ月間、聞かされたらセリフも全て、そらんじられるようになったんだ」
アルクレイが付き合ってられないと、野菜サラダを出してモシャモシャ食べている。映像に見飽きてしまうのも仕方ない。
でも、永遠の保存版なのだから。ペコラもそろそろ新作を入荷させたいと思っている。
『イヤ』
この一言により、聖女と偽っていた片割れがぴたりと止まったかと思えば、顔を赤くして名前を呼び〜のくせに!というありきたりな罵倒をした。
くせにってなんだろう。くせにって。少なくともあなたよりは立場は上だし、書類上でも血縁上でも赤の他人に他ならない。
実質的、彼らは初対面となる。ペコラが彼らの家族である証明は不可能だ。死亡届により戸籍は抹消されており、証明方法はこの世から消えた。双子だといくら叫んでも他人の空似。
おまけに、他国人であり雲の上の存在の聖女。その聖女に怒鳴り散らして、タダで済むわけがない。もちろん、その場で聖騎士が王族に抗議をして、こちらに帰ってから正式に抗議文を出した。
それに対するあちらの文面は双子なので、家族と合わせたかった。まあ、わかってはいたが白を切らなかったことに対する、失望。
あれだけのことをされて、家族愛に縋るってどうなのだろう。こちらの国はそんな事実はないと突っぱねている。
死亡届は手違いだとまた来たらしいが、受理されて戸籍も消された事実は消えない。実はもう己の死亡届証明書を入手している。
悲しくはない。逆だ。嬉しくて記念に取っている。あの人たちと物理的に完全に縁を切れたことに。
というか、仮に戸籍を復活させたところで、あの戸籍はめちゃくちゃなことになっているのに。どうするつもりだろう。既婚者、のちに離婚歴。
どうでもいいけど、婚約も破棄されている。聖女の戸籍としては類を見ないほどの醜態だと思う。年齢的にも親が勝手にやったというのも誰が見てもわかる。
あんなものを差し戻すのか。死亡歴がついたという、ろくでもなく、とてつもない汚れた経歴なんだけど。
こんな聖女の人生、自分が初めての可能性もあり、揉めていることが他の国に今はじわじわと漏れていることも把握している。
聖女を汚した国として悪名が流れ出しているらしい。本当のことだから否定しても無理な話。
そして、元婚約者のあいつ。双子を聖女と妄信して最後までコチラを敵視していたヤツ。どうなったか。映像があるので、また見よう。
「どのシーンから見る?」
「偽聖女と理解したところから」
わかってるじゃんとアルクレイを撫でて、耳もモフモフする。この耳、ふわふわで触りたくなる天使の羽の肌触りなのである。
「耳がこそばゆい」
「ウサギの見た目が悪い。撫でたくなる」
これが、ゾウとかキリンなら安易に撫ではしない。ふわふわと撫で付けて満足する。落ち着いたので映像をポチッと。
場所はと見てみるとここは彼の実家らしい。もっちり怒られている。お餅みたいに。いや、どっちりか、もっと分厚いものに押しつぶされそうな激怒が声に乗せられていた。
情報の拡散具合を思うと随分遅い反応、遅すぎる。
彼がペコラにやってきたことを思えば、周りも巻き込まれたくないと敢えて情報を与えずに放置したのだろう。怒鳴り声が家にこだまする。
「なにをやってる!?我が家は恥晒しだぞっ!」
「……知らなかったのです。知っていたら」
「知っていたらなんだというのだ?勝手に婚約を破棄などしおって!聖女とは難しくとも、聖女の身内ならばと運良く婚約をしてもらえたのに!さらに、お前が婚約していた方が本物だったというではないか!?」
「あ、あいつは!何も言わなかった!」
「……あいつ?まさか聖女様のことではないよな?」
「せ、聖女様を。違いましたが、姉妹を虐めていたと噂もかなりあり、本人からも虐められていると」
「被害者からの言葉ばかりだが、加害者からも当然、聞いたのだよな?当然!?」
「ぐぅ!?」
男の子は父親に胸ぐらを掴まれる。足が殆ど浮いている。彼の父親は息子を責めているけど、ペコラが周りから冷遇されていることくらい余裕で耳に仕入れて知っていた。
破棄した時も、やれやれという感じで仕方なく認めたのも知ってるのに。今更怒ってました、わかってましたアピールしてもなぁ?
こちらに話しかける時に、息子があなたを冷遇して申し訳なかったとでも言いたげな、実績作りに必死。
いいよいいよ、いまさらになって、息子一人に押し付ける人の言葉なんて初めから聞く気なんてないし。永遠に話し合いなんて行われないのにね。ご苦労なことである。
「く、るし!ち、ちち、うえっ」
息子がゴーゴーと息苦しくしているのに、自分の罪隠しに必死な父親。どれだけ言葉を言い訳に費やしても無駄であることに、いつ気付くか気になる。
でも、よほど仲良くないと親の性格の本質なんて気づかないから、無理な話なのかも。
「ふん」
「か、コホコホ!」
解放された子息は今度は掴まれてはかなわないと、父親から離れる。近くには母親と弟も同じ空間にいて光景をずっと見ていた。冷たい目をしている。
同じように、挨拶した時に無視したのを忘れたくないけど、あなたはお忘れのようですね?とツッコミどころが多々あるの、なんだろうか。
母親も弟も聖女へ冷たく察する性格と鵜呑みにして、顔も見たくないと言いたげな態度だったんだけど。どうして兄と息子に、まるでお前が悪いと視線を向けられるんだろう。
棚上げするには棚の位置が家より高くなりそうなので、棚に上げられそうにない。
親子の謎の喧嘩を見ながら、モリモリとパフェを食べる。
今日のパフェはリンゴパフェであるので、アルクレイがリンゴを勝手に取って、食べていた。
リンゴなら出して食べればいいのに、わざわざリンゴパフェからリンゴを抜き出すなんて。ただのパフェになってしまうではないか。
「謝れ。誠心誠意に。頭を上げるな」
「は、そんな!?あいつに!?」
あいつと言った途端父親の固くて分厚い拳がスイング。ゴガッと、テニスボールが壁に当たったような音がする。あの音は昔はあったけど、今は聞かなくなったなあ。
それにしても、この父親は未成年に全てひっ被せようとしている悪い大人に該当する。今までペコラに向けてきた視線の再現映像を見せたり、バカにしてきた顔を見たぞとゆっくり囁くように教えれば思い出すかも。




