86プールを作ってみたら思いがけないサプライズ
プールに唐突に入りたくなった。しかし、ここは異世界。おまけに女が肌を簡単に晒すことはあまり推奨されない。では、個人的に密室でたくさん浴びればいいと思うかもしれないが、一人で浴びてもそれはお風呂と感覚が変わらないわけで。
つまり、多人数でやらないとプールをやった感が起こらない。遠目でキャッキャされてそれを見るだけでも満足するはずだ、自分的には。しかし、この世界はもう一度言うが女の水着に対して寛容ではない。ケチくさい。
「ナイトプールにするかな」
夜か、薄暗ければお風呂みたいな感覚で入ってくれるのだろうか。温かければなお良し。ちょっと誰かに相談したい。
「アルクレイ。プールに入りたくなったんだけど、一人で入るより多人数で入りたい」
「なかなか難しいことを言う」
「城下町の人たちでもいいかなって」
「下町だろうと難しい問題だ」
アルクレイは、持っていたパンを食べ終えてから腕を組む。
「だから、ナイトプールを」
「夜に?」
「それか、薄暗くすれば」
ジャムを塗るとまた食べ始めた。
「それでもプールというのをまず教えないと、やっぱり難しいだろ」
「異世界に海水浴がないのはなんでだろ」
「肌をさらすことが逃避されてるからだろうな」
「それしかないか。現代だって昔は足を出すのがって言われてた」
聖女が無理なら他にゴリ押ししていけそうな人たちを思い浮かべる。大人が嫌がるのなら子供しかいない。過去の出来事が浮かぶ。知っての通り子供と関わると大抵トラブルを招く。嫉妬らへんではあるとは思うんだけど、上手くいった試しがほぼない。相性が悪いと割り切っている。
「孤児院の子たちなら、貴族よりかはライバル心とか虚栄心とかないままで遊ぶかな」
「やれるのか?関われるのか?お前が……無理するな」
生まれた国で散々同年代や前後の年上や年下に、精神的にこつき回された悪夢は今も胸に巣食っている。そのせいで子供や同い年の相手への無意識であるが、苦手意識があった。だから、関わらないようにしていたのだ。
聖騎士たちを挟み、プールを二つ用意すれば同じ範囲内で相席しなくて済む。学園に通っていた時も誰とも一言も話さなかったから、友人はできてない。話す理由もなかったのだ。
作る気は最初から無かったし、短期留学で得た友情に期待はしてなかったから。思い出しながらアルクレイの警告に頷く。
「でも、プール入りたい」
「おれが入ってやる」
「本当?」
それなら昼間でもいいなと楽しくなった。アルクレイは人型になろうじゃないかと尻尾をピクピクさせる。そういえば彼は人型になれると、初めて会った時に言っていた気がした。
「じゃあ、家の中に作る」
「こっちは人型の調節をしたりする」
彼の宣言で人型はどんなのだろうか、と少しワクワク思いながらプールの準備を行う。どんな姿なのだろうかと想像したが食いしん坊の姿しか浮かばない。プールの準備ができたので彼を呼ぶ。
「できたよアルクレイ」
「今行く」
かくして、足音を立てて現れたのは人型のアルクレイ本人、のはずなのだがちょっと待ってほしい。
「光ってる」
「まだ姿が確定してない。決めてないからな」
例えるのならば光る人型の何かだ。うさぎなんかよりも人外感が強い。
「決めてないんだ」
「決まってなくても困らないからな。よし、じゃあ泳ぐからな」
「うん」
ペコラもすでに水着なのでプールに入る。温水なので、冷えることはない快適な水温だ。二人して泳ぎ出す。
泳ぎ方は知っているから自然と体も覚えていた。アルクレイの方を見ると怪異っぽさに笑った。光る何かが泳いでいる。
顔が認識できないので、ここに第三者がいたら幽霊騒ぎになるだろう。しかし、ペコラの願いのために人型になってくれたので、無碍にするわけには行かない。
自分も改めて水をかいて、背泳ぎやクロールをする。心地よい感覚に入ってよかったと頬を緩めた。こんなに楽しい時間が過ごせるなんて、双子の彼女がいたときは考えもできなかったことを思い出す。
プールだってパフェだって、片割れがいたら全て寄越せと取り上げられてしまっていた。
思い出すたびにポロポロと水の中で涙が出たが、不純物が反射的に出ただけだ。悲しいわけじゃない。
自分は今ここにいてもう奪われる立場ではない。そして、奪うような人格になることもなかったことは、幸福であるべき。
「どうだプールは」
赤い目について聞いてくることをしない優しい相棒に頷く。楽しいと。
「ひとしきり泳げたなら、運動後のパフェにしないか」
「そうだね、パイナップルパフェにする?南国気分になれるよ」
「パイナップルも好きだぞ」
パフェマニアにいつの間にかなっていた彼がフッと笑う。顔はわからないのに空気感でわかるまでになった。それが今は安心する。
二人でパフェを食べていると聖女たちの来訪があり、対応すると皆手提げの袋を持ってこちらを見ている。
「どうかしたの?」
「アルクレイ様に誘われましたの!大きなお風呂で遊べると」
皆が期待に目を輝かせている。アルクレイの方を見ると、光る何かからウサギに戻っていた。パイナップルをモッモッと食べてからこちらへ来る。
「呼んだの?いつの間に?」
上ずる声音に彼はふふんと胸毛を膨らませた。
「別にいいだろ?最初から誘うつもりだったんだから。それに、ここまで大きくして二人用だったのか?」
指摘されてプールを見ると二十人が余裕で遊べる大きさだと、今になって気づいた。昔見たスイミングスクールを思い浮かべたので家庭用とは規模が違う。
「業務用ってところかな。そうだね、ここまで作っておいて二人だけは広すぎる……かもね」
聖女たちを呼ぶことを最初に提案したから、あらかじめ声をかけてくれたのだと言う。
ダメ元で断られるのもめんどくさかったから止めたけれど、どうやらお風呂で遊ぶと言い方を変えるだけでクリアできたらしい。
「入って」
「失礼しますわ」
「おはようございます、今日はいい天気です」
「パフェが揺れていてよい景色だわ」
「お邪魔しますわね!」
ゾロゾロと団体が入ってくる。聖騎士は外で留守番をしているようで、ここにはいない。
「ごきげんよう、ペコラ聖女」
「私を覚えておりますか?少し遠出していまして、最近帰ってきましたのよ。お元気そうで何よりです」
「覚えてる。初めて会った時に寝られるようにって、香りのハンカチくれた人」
「覚えていてくださったのですね。ふふっ。これは新しく作りましたの」
新作らしいハンカチを取り出した女性に手がキュッとなったが、ソワソワと受け取る。こちらも何か渡さないとね。
「うん……じゃあ、私からもパイナップルを……」
「いい香りですわ。皆様といただきますわね」
相変わらずウサギは、先回りして気を利かせてくれる。玄関先に集まっていた聖女を入れると、プールの広さと温かさにきゃあきゃあと黄色い声が部屋に反響。
途中で話しかけられたりして、対応していると色んな人と出会っていたのだなと感じさせてくれる。嫌な人ばかりじゃないと。
「南国風のプールの家には屋台が付き物だ。どうだ、パフェ店の店長をしてみたくはないか」
さっきまでパフェを食べていたのに、まだウサギのお腹はいっぱいになっていないのか。流石は食べるのが好きなだけある。
「味見役したいだけでしょ、それ」
「違う。一人だけだと感想が偏るだろ。お前のためにならないってだけだ」
水着になった聖女たちの盛り上がりを見ながら、パフェやフランクフルトなどを用意して、ジューススタンドも開店させようとカジュアルゲームの画面を指先でタップした。




