85レモンよりイチゴの方が喜ばれるだろう
売れれば売れるほど聖女たちもお金が稼げるので、やり甲斐が浮かぶ。ボランティアだけではやってられないという、ペコラの考えは多分合っていた。
別に聖女たちはお金が欲しいのではなく、お金を稼ぐということをしたいのだ。例えばRPGゲームに必要なもの。戦う過程よりご褒美が重要なのは、有名なのではないだろうか。
「お待ちしておりました」
「楽しみにしていました」
「ください」
「美味しそうですね」
「わあ、聖女様の作ったものだあ」
人によりけり、買いに来た人たちと会話していたり売ることに集中していたり、色んな売り方をしている。聖女のお店ごとにコップに個人の聖女の印があるので、お店をコンプリートしたらコレクションにできる。
裏にサインや絵柄など。手が痛くなるのでそこはペコラがスタンプを作り、聖騎士たちやお城の非番の人たちが手伝ってくれた。手が痛くなるし、皆大喜びしていた。
偉いさんたちも楽しげに輪に加わっていたことに、相変わらずフットワークが軽い人たちだと思った。暇ではないとは思うけどイベントごとが好きなのか、聖女と交流できる機会を得ようと頑張っているのか。
「ペコラ様にはないのですか?」
話しかけられて向けば、不思議そうな顔をした客の人が聖騎士たち越しに見ていた。
「私はジュースを作るためにいるから、売る余裕はないんだよ」
国内の人ならばと直答をするようにしている。いつものように返すと目をしょぼんとさせる相手。
「そうですか……買いたかったです」
「パフェ店のメニューに加えるかもしれないから、飲めるかもしれない」
確定ではないけど、と付け加えると嬉しそうに「買いに行きますね!」とスキップして戻っていく。やっぱりこの国は、聖女をアイドルとか偶像として受け入れている。近い存在として、かなりそれに似ているな。
「私のレモネードを飲んでくださいまし!」
「あ、狡いわ!こっちのレモネードがオススメよ!」
宣伝し始めた聖女たちに周りは笑う。レモネードの味に差はない。お祭りの出店のような空気に悪くないなと椅子に座った。
「ペコラ様」
「え……なんでここに?」
皇帝が安い服を着て隣に立っていた。気配を見るとそこかしこにロイヤルガードがいる。隣には同じ服を着た騎士まで。
「やはり、場の空気を味わいたいのですよ」
「ミーハーだね」
「ふふ、ペコラ様も世話焼きな方でしょう」
頬を高揚感に震わせてレモネードを売る聖女たちを眺める一国の王。こんな人と間近で話す肩書きや立場になるなんて、昔なら思い描くこともしなかったのに。人生の転機というのはあっさりとひっくり返る。
「ペコラ様、在庫がなくなりそうなのですが」
アイテムボックスに毎日時間があれば作っていたものがたっぷりある。それを取り出して聖女たちのレモネードを補充していく。
「喉が渇いたらレモネードを飲めばいいのですから、飲み放題っていいわ」
「よく飲めるよ」
ペコラが呟くのも無理ない。試飲したりなにかあると飲むために聖女らの住居に置かれているから、皆後先考えず水よりカパカパ飲むので飽き始めている女性すら出始めている。
加減してはどうかと言っても、飲む人が絶えない。土地の気温は暑過ぎず寒過ぎない春みたいな体温で過ごせはするが、レモネードが美味しいせいで飲むことをやめられない人が一部いた。
来年には飲めなくなっていそうな勢いで、次にやる企画からレモネードは暫くなくなるかもしれない。明らかに過剰だ。砂糖に中毒性を見ているような、違うような宙ぶらりんな見解だ。
「レモネード美味しいわっ」
まあ、今は帝国の人たちが飲む光景を見て満足していればいいか。皇帝は隣にいる騎士とジュースを飲んでおり、こちらの視線に気づくとカップを少し上にあげて、美味しく飲んでいるという意思表示をした。
「ペコラ様、休憩しましょう」
働き詰めな女性たちに囲まれて日陰に身を移す。聖女たちの周りは密であるが、聖騎士たちは丁度いい距離を空けて立っている。
「稼げましたね」
「やはり給金が発生するとなると、腕に力が入ります」
女たちの頬が赤く色づく。これが終われば皆でお風呂に入る予約をしている。貸切なので気兼ねなく入れるようになっていた。
「労働後のお風呂は格別ですよ」
「今から楽しみね」
「水を飲みましょうね、皆様」
「もう飽きてるね……」
「そ、そんなことありませんことよっ」
そのときはレモンじゃなくて、冷やしたイチゴミルクを渡そう。多分、殆どの者たちはレモン味はお呼びじゃないかもしれないから。風呂上がりのイチゴミルクは最高だという、よい宣伝にもなるし。




