82聖女たちのレモネード屋始めました
何か作ろうとなり、シンプルで誰でも作れるものを考えた。聖女達の料理教室用に。パフェばかりも飽きるだろうから。いや、飽きはしないだろうけど、新鮮味は薄れるでしょと考えてからペコラはうーんと頭を捻った。
「決まったか?」
アルクレイが勝手知ったる様子でパフェを食べている。そこに乗っていたのはオレンジだ。彼用にオレンジパフェを作ってみたんだけど、フルーツソースにもこだわった。柑橘の香りが鼻を刺激する。フッとくしゃみをしかけて、ハッとした。
「柑橘系……レモン」
「それならあれはどうだ?」
アルクレイは手をポンポンする。
「あれ?」
彼は名案が浮かんだようでさらに羽をパタパタさせて、得意げな顔が可愛い。
「柑橘系で聖女でも手軽に作れるっていうと、レモネードだ」
レモネードの単語に「ああ」となる。
「レモネード」
彼は笑って解説して来た。
「お前のいた国では馴染みがないが、子供は海外でレモネードを作ってお金を稼ぐことも多いぞ」
確かに見たことがある。お小遣い稼ぎの定番だ。
「テレビで見たことはある。私の国では見たことないけど。ペットボトルとかで商品になったものを買う程度だったかな」
レモネードを作った後に量産して聖女たちが売るなり、業者の人間を雇って委託するなりで使い用はある。
「アルクレイ詳しいね」
褒めるとまぁなと、返ってくる。
「スマホの御用聞きだからなんでもある」
元はペコラのスマホのゲームの案内人だった。なんでも詳しいのは性質が質問されて答える側だったからだ。
「ゲームの中になにかあるかな」
今回のレモネードに使えそうなもの。レモンを育てておくというのもありかもしれない。農家のスキルでレモンをたっぷり作っておけば、いつでもどこでもそれが使えるようになる。
「名産のところのレモンを植えておこう」
せっせと現実の世界の畑とゲームの中の畑の一角にレモンを植えていく。現実の世界の畑とゲームの中の畑の作物の味に差はない。単なる気分だ。現実に植えられているところを見るのと、ゲームの中で植えられているものを見るのはやっぱり違う。
「もう実ったし食べる?」
直ぐに育った艶々のレモンを見て彼へ問いかけるが首を振られる。酸っぱいだろうと。ふふふ、と思わず笑ってそうじゃないことを教える。
「私のレモンが酸っぱいわけないじゃん。ほら騙されたと思って齧ってみて」
だいたいこういう時は、ノリで酸っぱいオチなのだが。
「本当にか?嘘だったらレモネードを飲み干すからな」
すっぱい衝撃が苦手らしい。
「疑り深い。けど、気持ちはわかる。まあ、食べてみて、びっくりするから」
アルクレイでも躊躇する果物。レモンがウサギに齧られた途端、へにょりとなっていたウサギ耳がヒョンと上がる。
「甘い!?」
「ね?」
レモンなのに甘い。しかもこのレモンにはすでにある仕掛けがしてある。
「甘いだけではないな。レモネードの味がする」
「レモネードという種類のレモン」
「そうか……流石は農家だ」
カジュアルゲームには時としてネタ的な農作物がある。パフェなんてものが木に実るのだからこそレモネード味のレモンなんてあっても、別に特に何らおかしくない
「甘い、美味い。これだけでもパフェに入れたい」
「私よりパフェ好きなときあるよね」
「パフェには無限大の可能性があるからな」
さすがは心得ているじゃないか。でもやっぱりパフェスキー同士として、笑ってしまうほど可愛い内容だ。
「これを使うか、普通のレモンで作るか」
手作り感を味わいたいのならば、レモンからジュースを一から作るべきなのだろう。聖女たちのお手製となれば、当たり前みたいに唸るように売れまくること間違いなしだ。
「レモネードを先に出してこれを作ろうと提案すればいい」
「おお」
「持ち帰れないやつ用にこっちを売るのもいい。これなら長期間保存が効くからお土産になる」
「おお〜。じゃあそれでいこう」
楽しくなってきた。まずは聖女達に連絡しよう。いやもう、たくさん集まっているところに向かおうかな。
そこら辺にいるはずの聖騎士たちへ、珍しく話しかけないと。相変わらずここのパフェ農園を巡回しているのは、仕事熱心だなと思うばかりだ。
頼んだことはなく、それでも聖女が寝起きしている住居を守るのが彼らの仕事なのだとかで。
「ちょっといい?聖女たちに会いに行こうと思ってるんだけど」
「我らに声をかけるのは珍しいですね、ペコラ聖女様」
のほほんと笑うのは白いヒゲの似合うダンディな聖騎士だ。今は聖女と結婚して引退していたが、ここの安全性を知った人たち。元聖騎士の妻となった聖女や聖女の夫である元聖騎士たちにこの農園の需要が高まっている、と聞いたことがある。
まだまだ聖女のために働きたい、夫にもう手荒なことが起こってほしくない聖女にとっての、妥協できる仕事先としてこれ以上ないほどの場所。
それはそうだろう。パフェ農園にはペコラの魔法がかかっている。範囲内にいる限り外敵が入ることは愚か、完璧に魔法的なシールドや結界にあたるものが張られているのだから。
わざわざ外にでも出ない限り人は傷一つ負うことなく、帰って寝れる。超がつく安全な職場復帰場所だ。




