78ペコラの尾を踏んだ親子
首を振ってアルクレイと顔を合わせ、ペコラは手を上に上げてお手上げを示す。
「来られたくないから書いておこう」
「来るなとしっかり書いておけばいい」
「なんで、謝れる立場だと思ってるんだろうね」
もう出るのは不満しかない。
「小さいながらも国王だからな。なんでもかんでも謝ればいいと思っているんだろうな。聖女を重く見てない。軽く見てるわけじゃないが……聖女を帝国ほど理解してるわけじゃない。この国には聖女がいないから比較対象がいない」
この国は小さすぎて聖女がいない。だから、聖女が来ても有名人が来た程度のものなのだろう。ミーハーな気持ち程度。
息子がやらかして怒ったけど、ペコラに詫びが随分遅かった。息子を怒ったのは有名人を怒らせたからというのと、帝国に苦言をもらった怖さから。本当の恐ろしさを知らないだけ。
聖女に対して不味いとはそこまで思ってない。ガチャでやらかしたことに怒っている。それなのに、今回は、さらにやらかしたマリナサ。前回分の精算もまだなのに。
王はこれ幸いに、マリナサに罰を下すだろうことはわかる。わかりやすい性格をしているもんね。アレはやるだろう。単純だから、持てるものを使うつもりなのだ。権威とか権力とか、裁量権とか。
「返信、渡すね」
使者にお断りの文言入りの手紙を託すと余計な時間を使ったなと肩を揉み、次はマリナサを見ようとソファに座る。
「今は何をしてるんだろう?怒られてる?」
どうやらマリナサの父に王からの叱責の手紙が届いたようだ。しかし、平民に絡んだことを叱られているので父親はなぜという顔をするだけ。
留学生で帝国人を困らせることに怒っているのかと、疑問を口にしては首を傾げている。
父親は娘に当然、尋ねるわけだ。高位貴族としての人生が終わりかけていることを、察しもしないなんて。
「マリナサ。こんなものが届いた。何か覚えはあるか」
学園から帰ったマリナサを執務室に呼んだあとにあった会話だ。ついさっきみたい。帰りたてほやほやで呼び出すとは。王はどうやって把握したのだろうか。
「さぁ」
学園に監視人でも置いてるのかも。息子がやらかしたから次はないようにしたのかもしれないけど、次のトラブルが元婚約者であり、王が罰し終えたと思っていた令嬢。
「知らないわけがないだろう。帝国の留学生に絡んで教師に注意されたと書いている」
注意を受けたことを述べるが彼女は戸惑うだけ。今までこんなに、真剣に言い聞かせられたことがないからだろう。
「えっと」
青天の霹靂だな。今頃自室か執務室で頭を抱えている頃か。
「話しかけたのか?」
問いかけに何も変なことはないと頷く娘。
「はい。話しかけましたが」
マリナサはそれが問題だとは一つも思ってない、キョトンとした顔で父に受け答えする。今回のことを、なんてことのない会話だと思っているのだ。あんなに嫌がっていたのに伝わってない。
「次からは気をつけなさい」
お叱りに対してまともに受け止めていない返事に、ペコラはやっぱりねと期待してなかった展開に鼻で笑う。
「ええ。わかりました」
中身がない返答、中身がない上っ面だけの注意。よし決めた。この男も対象にしよう。たった今ペコラの尾を踏んだ親子に考えていたことを実行することにした。
「よーし理解した。大切な場で赤ん坊返りするのをかける」
平民だからと軽く見たら痛い目に遭うとも知らず、映像の中の二人はそれぞれのやることをするために動く。
やらなければいけない時や人前のときに赤ん坊みたいになる魔法だ。これならもうこちらに絡むこともあるまい。二度と。
今回は転生者も含まれており、危機回避もせずに好き勝手にやることに許せない気持ちがかなり上回った。念には念を。
「なぜ呼び出されたかわかるか?」
王に呼び出されたマリナサ令嬢はやはり一つも思い至っておらず、怒られるとはおもっていない。王との話し合いの場には父親も居てどちらも何を言われるのか、理解していない顔。
「いいえ陛下」
「そなたは?」
娘の方に目をやる王に首を振る。マリナサはこれから何が起こるのか少しでも考えた方がいい。
「先ほど、帝国から注意を受けた」
「注意ですか?」
具体的に言うと聖騎士達からの報告を受けた帝国の外交官だ。王の顔は険しい。親子はそれを見てもまだ呑気にしている。貴族筆頭なのにそれでいいのか。
相変わらずゆるい。大国の貴族の筆頭ならもっと政治や王への態度が違うのかもしれないけれど、小さな国の貴族だからか自覚は非常に薄い。
王に叱られかけていても全く把握せず座ったままだ。娘のやったことを、大したことのないことと思う部分は貴族っぽさがある。
悪いことではないにしても、あまりにもダメだ。平民でもなんでも一方的に迷惑をかけた親として教育不足、監督者不向き。
「帝国は大国だ。平民でも留学生に選ばれるほど、優秀な生徒が選ばれてここに来ていることは理解しているのか?この国と違って、大国の平民の価値はこの国の国民一人の価値じゃない。我々は帝国から、客人を預かっていることを自覚していなければならない」
「あ、え、ええ。わかっております」
ポケッと聞いている男はようやくおや?という顔をする。




