77駆逐してやるとそのとき、聖女はその存在を認知する
早く排除しなければ。もう一番底というか、何もかもがどうでもよくなった瞬間である。
「先生、助けてください。無理です。助けて」
下手に否定するよりもこの子はヤバいんだと視線で知らせて首を振る。涙目つきで。こっちが叩き落とす必要もないと一応、情状酌量をくれてやったというのに。温情をぐしゃっとしてきた行為に慈悲は一粒だって残っていない。
配慮とやらをしてあげる一線を、彼女は簡単に踏み抜いてくれた。留学先の王にもまだ報告してないから、強い罰を受けてないというのに。
これでは恩を仇で返されたようなもの。マリナサは知らないから何も知らず、王も知らずに過ごしている。誰の責任かを追求せずに見逃してあげたというのに。怒りメーターに隙間はなくなった。
そうかそうか。そんなにペコラの制裁を受けたいのか。夢で自覚させるために小細工をしたというのに、温情をここまで無駄にするとは天晴れだ。逃げたり、他のところに行こうとする悪癖があるらしい。
「アルクレイ、あの王に会いに行って全て言おうと思う」
教員たちにもマリナサにも聞こえないように魔法を施して相棒に伝えると、彼はふわふわの羽をにょきりと動かして頷く。
「おれも今マリナサに怒りを抱いた。今すぐ記憶を無くさせたい」
「記憶を無くさせる……そのアイデアいいかも」
記憶をなくせばペコラに興味を無くすだろう。顎に手をやり、リストにある魔法の欄をスクロールさせた。
その間、担任とマリナサたちの会話は続く。言い合っているが彼女にはこれっぽっちも届かず、無意味な問答。イライラして仕方ない。
「先生、これは私たちの問題なのです」
マリナサが小賢しい言葉を使って相手の問いかけを封じるようなことを言って来た。生徒に教師がこう言われては、口出しできなくなるようなことを。
「もう嫌です。私、留学を辞めます」
「え、待ってくださいペコラさん」
教師がギョッとした顔をする。途中で留学を辞めたという実績がこの国にできることになる。今後帝国から誰も来なくなることは明白。しかも、実は聖女が留学しており、留学をとりやめたとなれば他の人たちも来ることもなく。結局、誰も国のことなど目を向けなくなるだろう。
さらに言うと聖女に無理を突きつけられた国として、密かに色んな影響がある。観光にも。聖女が留学した国は、どこでも流行るのだと聞いたことがある。影響は計り知れないという証だ。
こちらの正体を知っているわけでは無い担任は、今のところ留学生をトラブルで帰国させたレッテルを阻止したくて、ただ単にこちらを止めているだけ。思考停止させている。
そんなことは知るかと怒りを込めて職員室という都合のよい舞台で、首を振る。泣いたふりをして相手が悪いからこの学校に来たくない、と印象付けさせる。そうでもしないと逃げきれない。逃げれるが、彼女の前で聖女バレしたくないから消えないようにする。
マリナサはキョトンとしてペコラを見ているが他人事では無い。一番の関係者で加害者になるのだ、これから。他人事みたいな顔つきが、心底憎たらしい。
「え?いきなりどうしたの?」
どうしたの、ではない。
「このことは、帝国側に報告させていただきます」
涙を拭いたふりをして、被害者だと全方位にわかりやすく伝える。なんとも優しい対応だと自分でもわかる。
「ま、待ってください。行き違いやすれ違いの可能性もあるので話し合いを」
「私が違うと……言っているのにですか?」
低い声で訴えるように、責めるようにじっとりした空気にさせる。ペコラという留学生に絡んだという実績を残せば今後、マリナサも今まで通りの生活は送れまい。
「そ、それは……お、落ち着いて、くださいっ」
今まで裏で色々していたから明確に彼女はなにもしていないことになっており、罰という罰を受けていない。
「失礼します。今から報告に向かわないといけないので」
「あ……」
足早に職員室を出る時に、担任以外の教師の声も聞こえた。周りにあんなに人がいたのに、諌めるのは一人だけというのが現実だ。
相手は貴族筆頭の令嬢。問題を起こして謹慎が解けたばかりとはいえ、貴族の中では最上位の爵位を持つ家の娘。
教師程度がどうこうできるだろうという無茶は言わないが、全員で言えばいい。今トラブルがあったのは学園の中で、生徒たちのトラブルのクッションになるべきだ。
それができない癖に呼び止めて、何を言うというのだ。あちらを止められない彼らに、もう用はない。それよりもマリナサ含めて、生徒会のメンバーたちに対してやらねばならないことが増えた。
帰宅して少しすると留学先の王が、ペコラの居る場所へ使者を寄越し手紙を渡して来た。手紙でも聖女だと書けない契約なので、詫びをしたいからと家に来るかこちらへ来るかをしたい、と書かれている。
「どっちも嫌。来られたくないし来てほしくもない」
来ても謝るだけなのに無意味じゃないの。謝られて許す許さないの段階ではないのだ。マリナサを兎に角、視界から退けたいんだから。




