75マリナサがペコラに話しかけてきた。逃げたい
現実に話しかけても、答えなど貰えるばかりではない。
「なんでよ」
逃げるように他所へ行ってしまう男子生徒へ投げかけたマリナサ。そろそろ、次期王子妃の言葉が何の意味もなくなっていることを、自覚した方がいい。
「あの子、もう王子妃候補じゃないし、婚約者じゃないから言葉を聞く旨みがないって思われてるの、まだ気付かない」
「高位貴族ではあるからな。チヤホヤされてきたから、自分の言うことを聞かない世界を知らないんだろう」
傅かれて先に誰かが、何かをしてくれるのが当たり前の生活。転生者でも貴族の生活をしていたら染まる。特に、筆頭王妃候補であり婚約者という不動の地位にあれば、どの貴族よりも王族の次に周りから忖度を受けるはず。
「それがなくなったから。周りも恩恵が受けられなくて反動で逆に孤立するかも」
ペコラも学園に通いながらせっせとパフェの資料を集めた。個展は違う場所でやることにしたし、街のパフェについては永久に見送ることになりそうだ。自分的には漸く学園に通えたので一応、感謝はしてないけど思い出にはなったかな。
ガチャを取ろうとした記憶もバッチリあるけど。
「もう直ぐ期間も終わる」
アルクレイと街中を歩きながら、マリナサを鑑賞していた。歩きながらでもながら観できるのは最高。今現在、夢を見せるという罰を与えた女生徒は、王に密かに罰されていた。
己が父に頼んだことも忘れて、学園の生徒たちに頼むという非常に目立つ行為をしたという表向きの、規律違反。実際は王の私欲による罰も含んでいる。王が恨みの光る瞳で、いい機会だと呟いていたから間違ってない。
彼女の父は、娘のマリナサが学園の生徒たちに無茶なことを頼んでいたことをあとから知り、叱責した。だけど、何が悪いのか、悪いことをした意識がない娘を叱ったとしても響かない。
それについて、家に各家から抗議の手紙が届くまでになっている。普通は安易に届けられることはないが、ことがこと。
とんでもなく怒られた上に王室から怒られていた。対する女の反応はハテナマークばかり。自分は高位貴族の娘なのに罰されるなんて、どうしてだという顔。それはそうだろう。
今まで注意どころか、周りを威圧できる立場だったんだから。それが突然、王室や父からのお叱り。意図が分からなくて首を傾げる女の子。子というほど小さくはないが、大人に近い年齢。
責任を取る形で謹慎を申し付けられた。王に叱られた事実は貴族たちにも知られて、今後の婚約と婚姻に影響してしまう。
王太子だった男の婚約者として愛されていたのは皆知っている。今さら彼女と婚約して、王太子の妻になる予定だった女に手を出す気概のある相手はあまり居ない。
「謹慎か……ありなの?」
アルクレイに問いかければスッと頷かれる。
「婚姻や縁談が来ないだけではなく、王家と仲良しアピールも難しい。旨みが本当に無くなった。今までは辛うじて王家と繋がっているから王家へ媚を売るツール扱いだったが、今となっては厄災扱いだ」
アルクレイは独自に情報を集めているらしい。色んなところを映像で観れるが、他の生徒たちを観る時間はない。相棒はそれを観ているのだろう。やたら相関図的に詳しい。
情報を精査するのが楽しいみたいだ。探偵みたいな気分になるとかで、情報を精査したりしているのを見かける。今回のことを映画みたいにしてから、聖女たちに向けて上映しようと思う。
スキャンダラスなニュース映画といったものになるだろう。編集しているのもあり、そちらの作業に気が持って行かれていた。忙しいということだ。
学園の方はというと、マリナサは謹慎を受けても、学園に通えるようになっても反省も気付きもなく、誰彼構わず近寄る。困るのは巻き込まれる生徒たち。
「ちょっといい?」
果ては、忘れていたと思っていたペコラにまで接触してきたことにより、方向転換がなされた。初めに戻ってくるとは人間とは不思議だ。
「え?」
何で来るんだと鬱陶しい女に嫌な顔をしてしまう。いそいそとやって来てこちらを覗き込むように見て来た。
「嘘でしょ……今?」
相手に聞こえないように呟いた。アルクレイは小さくよく思い出せたよなと、バカにした声で合いの手を入れる。同意の意。本当によく思い出せた物だと逆に驚けた。ペコラならとっくに忘れているか、忘れたいと強く思って他人のふりをするからだ。
そう思えば、彼女には直接的に接触を受けたことはなかったな。だから、初対面なんだけど受けた迷惑を考えると、共犯同然の範囲に入る。
そんな相手に話しかけられて嬉しいわけもなく、不愉快極まりなく話しかけないでオーラを出してみた。他の生徒たちの空気にも気付かず、当然効くわけもなく。
しかし、相手はもうただの貴族として生きていて、現代人特有の人の機微を察する能力を失っているのか全くこれっぽっちも気付かない。
これじゃあ王妃は無理そう。小さな国だからでも転生者でもちょっと、足元を掬われる。転生者として染まりきっている。




