06周りは聖女を自国に戻すことばかりに意識を向けすぎている。誰が瘴気で終わらせると言ったのだろうか?
誰が見ても明らかに聖女の己が瘴気を消し飛ばしたところを目撃して行った。
どんなに遠くに居ても、見えたくらい高く光の柱を打ち立てたから。ペコラは満足気に頷くと、バルコニーから部屋に戻る。
聖騎士らも見ていただろうけど、職務をしているみたいで廊下から誰も離れていない。さすがは国がつけてくれた真面目な騎士たちだ。
この国の人たちは今は城も町も関係なく何が起きたのかと言い合っていて、見ていて最高だ。特に王、王妃らの会話を聞いていて、なかなかにイラついていた心を慰めてくれる。
光が消えて、瘴気消失の確認がなされた王たちの会話はまさに、本物だった、どうしよう。という至極当然の流れ。
大臣たちも、勤めている人たちも話題が同じ。センセーショナルなことに、興奮冷めやらぬ様子でなんとか聖女と話せないかと方法を探っている。
カメラを起動して二人して鑑賞する。ぽりぽりとスナック片手に。
「王!瘴気が消えました!」
「そうか!よかった!」
「はい!……聖女というのは本当だったのですね!」
「ああ。あの国がわざわざ偽物を寄越す理由はないが」
そうすると、少しずつ興奮が冷めてきたのか顔が暗くなる重鎮たち。
「しゃ、謝罪を」
「受け入れてもらえそうにない」
「ですが!するより、しない方が心象が悪いと思うのです!」
それでも、既に聖女を派遣することへの条件に王の署名がされている。破れば今後、なにかあっても聖女の派遣にさらなる重い条件が科されるか解決に時間がかかるやり方に変えられて、どうにもならない事態に陥る可能性が大いに起こりうる。
今回の瘴気も予想だにしなかったこと。聖女と名乗る子どもは聖女ではなかった。聖女のもう一人の片割れが本物であったのだ。
謝ることや、謝って済む問題ではない。それに、聖女の身内だから箔がつくと、片割れの存在を勝手に婚姻させて、いなくなったからと離婚した経歴はきっちり残っていた。
つまり、本物の聖女には離婚歴が理不尽にもつけられてしまっている。これが他国に知られたり、国民に知られたりすれば本来大切に扱わないといけない聖女に、傷をつけたことが混乱の元になる。
いや、確実に今後この事実が知れるだろう。否応なく。
王は頭を抱える。王妃も考えていた。聖女の元婚約者も、聖女の名前だけを買った元夫になる男もタダでは済まないということを。いつ骸として報告されるかなど、時間の問題だ。
それなのに、そのことを今まで知りもせずに聖女へ国に戻ってくれなど言えるわけがない。そう考えている面々の中で、一際低い地位にいる男が手を挙げる。
「少しよろしいでしょうか」
「申してみよ」
悪い予感に周りは冷や汗をかく。
「私は人口管理事務部です。今回の方が双子の片割れ様の場合、死亡届が受理されておりますので。この国ではいないことになっています」
オドオドとしているが、その分事実らしいと皆に思わせる。嘘を報告する理由はない。ハッとなる王の子どもたち。
「な!そんな!それなら、国に戻すことなんてできないじゃない!」
王女が叫ぶ。
「取り消せば?」
王子が面倒そうに言うが、王はため息を吐く。
「取り消して、戻ると本気で思うか?」
王は投げやりに聖女の報告書を王子に渡す。そこには聖女と嘘をつく姉妹に散々してやられてきた行きすぎた行為の数々が。
周りの人間も聖女と思っていた女の言葉を鵜呑みにして、今まで好き放題に悪意を向けていたと書かれている。
控えめに言って、こんなことをされた国に戻りたくはないと思うわけだ。王子は無言になる。
「しかし、あの瘴気を一瞬でなくした力は……もしや、聖女の中でもトップクラスなのでは」
王弟なども、報告書をめくって、苦み走った顔つきを浮かべては声にする。言われなくても、そんなのはこの国の者たちは全員が理解している。聖女の中でもかなりの強者ということに。
皆が皆、悔し気になるが女大臣が気にした様子でため息をフゥと吐く。
「諦めるしかないですわ。あまりにもこの国はあの方に、恨まれておりますもの」
「は?」
「恨まれてなんてないです」
「憶測で、ものを言うな」
わなわなと震えてペコラが恨んでいることを否定するが、報告書を読んだ王族たちはその意見に反論もできず。かと言って、恨まれていないとも言えない。
「デタラメを言って混乱させるのは控えてくれたまえ」
男の大臣が相手を睨みつける。映像を見ていたペコラはこの女大臣は、かなり賢いのではないなと思う。だって、正解だから。恨んでいるから掻き乱す気だし。
この女大臣で一本のドキュメンタリーが作れそう。ズームアップしたらかなり苦しそうな顔をしている。細かいことを聞いていなくても、恐らく別ルートで調べたのかもしれない。
隠してないし、隠れてないので調べたらかなりエピソードがザックザクにわかるだろう。やれ、聖女をいじめているのだ。やれ、聖女を虐げてるのだとか。
兎にも角にも聖女を冷遇しているとか、聖女は自分だと言っているとかね。自分は一度だって、自分が聖女です、と言ったことはないのに。
「まずはどうやって面会するかが問題です。王よ、あなたがあんな紙切れにサインなどしてしまったのですから責任を持って話をしてくださいっ」
周りは聖女を自国に戻すことばかりに意識を向けすぎている。誰が、瘴気で終わらせると言ったのだろうか?
「今回のことが終わったから、これで聖女を取り込めるってさ。私は次の計画も立ててるってのに」
聖騎士たちがガッチリ、守る部屋に入る方法はない。
王や配下たちの話を右から左に流して次への布石を打ち込む。ペコラは魔法陣を起動する。
この魔法は雨を降らせる魔法だが、本来は農家が雨を利用するためのもの。職業レベルがカンストしているので今では天災並みの雨を降らせることが可能。
「次は……農家か」
「いちご食べたくなった?」
「アイテムボックスから好きに食べられるから、今はいい」
「アイテムボックスにアクセスできたんだ」
特になにか思うことはない。案内人だし、彼は色々教えてくれたのでゲーム内でも有能だった。アイテムボックスを漁るくらい、なんてことない。
「王侯会議が終わる」
画面にはずらりと並ぶ重鎮。結局、プレゼントなり手紙なりを渡すようにと、方向性が決まったらしい。自分の持つものより質の良いものが、よいものだとは思えない。
「私の持つコレクション見たら、ここの人たち目の色変えるね?」
壁を見てみると美しい絵画や調度品がデザイン性よく並んでいる。とてもではないが、この国の人たちには手が出せない値段がすることだろう。
この部屋に一歩でも入れば、どれほどありえないようなものがあるのか知ることになるけれど、入れる予定はない。
映像が終わったので切ると、笑顔を浮かべた女は紅茶を飲む。やはり、この国で飲んだことのある紅茶よりも美味しい。
雨の魔法陣はタイマー式にしておいたので、ペコラが帰ったあとに起こる。
そして、この国に長居することはないので、また呼びたくてたまらなくなるだろうなと、予想する。
あんな大雨を、聖女たちの誰かがどうにかできるわけがないからだ。
「さて、じゃあ……部屋から出ずに彼らが追い返されるのを楽しもう」
ペコラはアルクレイに言うと、彼はこくりと頷き、ぽりぽりとウサギクッキーを美味しそうに食べた。




