52料理に入れると美味しくなるものを教えてくれたり、馬車の馬っぽいものの世話を見せてくれたり。カステラも
既婚者の馴れ初めやエピソードを聞きながら、この話を聞き続ける自分を慰めて食べ続けた。聞くのは興味がないけど、不愉快ではないので一応聞いておく。
「ペコラちゃんのお友達のアルクレイちゃんは仲良しなのね」
本当になんで聞いているのかわからない。
「ぷっ。アルクレイちゃん」
「寝ている時に鼻を塞ぐからな」
耳元でこっそり言われる。前に笑ったことがあるので、おあいこじゃない?
「うん。仲良し」
「いいわね。可愛いし。可愛い二人が可愛いのは奇跡的」
言いたいことはわかる。食べ終えて家に戻ると夫の方はリビングの椅子に座って帰りを待っていてくれた。余裕のある大人だ。美味しかったわと夫に伝える妻を優しげな顔にこちらも、なんとなしに眺める。
デザートを二人に出す。もちろん相手がいらないと言わないように試食と名を打つ策を打ち立てた。二人はこちらの意を汲んでくれたのか受け取ってくれる。
「これはなんと言うの?」
「カステラ」
「ふわふわして美味しいね……ありがとう。その、あの子にも……あげていいかい?」
半分あげようとしているとか、半分だけ食べて残そうとする男の人に内心ため息を吐いて、やれやれともう一つ出す。
「用意してるからそれは食べて」
「すまないね。なんだか催促したようで」
「催促したのよもうっ」
妻が困ったように眉をひそめて男をこつく。しかし、彼らはいらないとは言わず保存するためにそれを横に置く。
「美味しいわ」
カステラを引き続き食べる二人は、本当に美味しいニコニコ顔で口を動かす。これも売るのかと聞かれてまだ考えてないと言っておく。
カステラについては単にアイテムボックスに入っていたから出しただけ。カステラじゃないものは明日は出そう。せめての宿泊費。
「一緒に寝ましょうね」
食べ終えると寝室へ案内され、共に寝転がる。ここへベッドや寝袋を出すことはできない。
普通ではないと身バレしてしまう。そんな理由だと思われるだろうが、ここじゃただの子どもでいたい。
バレたらどうしようかなと思う。身分が知れたら畏れるだろうし。それは望むことではない。いずれは聖女と知られた場合はまあ、その時に考える。バレるミスは早々しないが。
気まずくなるからなと想像して、嫌な気持ちになりそうになったが顔をちょっとしかめた。でも、優しい人たちは優しいから。あえて知らないフリをしてくれるかも。期待がもたげる。難しいかもしれないけれど。
「どう?聖女ってバレるよりバレない方がいいよね?」
「ああ、まあ、どっちでもいいかとは思う」
音が外に漏れないように魔法を使って相棒と会話する。
「どっちでもいいの?居心地いいのに」
「居心地はいいが、あの娘が気になってしかたない。おれからすると不愉快だな」
アルクレイが言う子は、テッタのことだ。ペコラとて頭に浮かぶ積み上がったまぶたと瞳。目の前にある幸福という宝が見えない女の子。
のちのちになって知るのだろうか?知らないまま、自らの寂れた人生を憂いさせるのだろうか?
「まあそこはねぇ。私も楽しくはないけどね」
ペコラからしたら寂れてない。十分恵まれている。羨ましいぐらいだ。将来どこかここに今すぐ住める別荘を増やしても構わないほど。
「明日も明後日も絡まれるかもな」
「別に好きにしていればいい。一線を越えたらそれまで。超えないなら同じ仕返しをするだけ。やられっぱなしにはならないから」
「夫婦はいい人たちなのに、テッタにはもったいなかったってことか」
彼の言葉には頷く。確かに良すぎてあの子なんかには立派な人格者過ぎて、あの子は思春期で終わらせるには性格がアレだ。
ペコラの周りの環境が特殊なのでどちらの経験もしており、最悪と最良が比較できる。よって、彼女たちを悲しませることならしたいなんてことない。
でも、テッタはやらかす気配が濃厚なのだ。困ったことに。拗らせた女子に旅慣れた年下はコンプレックスを刺激されてしまうのだろう。
少しでも反抗心が起こらないようにむっつり黙っていたんだけど……それでも反抗したい気持ちが強くなった。ペコラはやれやれと思いながら眠りにつくしかない。
次の日、またお店を開店させると客がわらわらと来る。昨日よりも多い。ウワサが出回ったのだろう。
「噂で人が」
システム任せなのでペコラ本人が店に立たなくても自動的に客の対応をする。楽々だ。
「美味しいねぇ」
「買ってよかったわぁ」
「お土産にいいな」
テッタがそうっと、草場の影から顔を出しているのが見える。買えばいいのにとは思ったけど、子どもの小遣いではちょっと手が出せない。
「あいつ、益々拗らせるな」
「見なきゃいいのにね」
「目立つんだから見てしまうんだろう」
そっと見るしかできないんだろう。それはそうだろうし、敵勢調査ってところか。無駄なんだけどね。ペコラが気になって仕方ないのだろうと、感情云々を知らずともわかりやすい。
声をかけられても返事をするつもりはないので、かけてきても意味はない。仲良くしようと思う気持ちも湧いてこない。
この世界に何人人間がいるのか考えれば、わざわざ嫉妬を拗らせている人を選ぶメリットはないだろう。まったく、これっぽっちも考えるわけがない。仲良くなろうと考える余地もなく。
「ペコラちゃんのお店、大人気ね」
友達というよりも知り合いになった夫婦で事足りる。
「ありがとう」
奥さんの方に話しかけられて、礼を言う。
「今日のお店は大変なんじゃないのかな?」
旦那さんの方にも声をかけられる。それに対して大丈夫だと言っておく。そこにいなくても販売ができるのだ、と軽く説明しておいた。
二人はすごいねと褒めて、それなら時間に余裕があることを知ると色々教えてくれることになった。例えば手でやれること。
「これはね、ステスニの実と言って鍋に入れると美味しくなるの」
料理に入れると美味しくなるものを教えてくれたり、馬車の馬っぽいものの世話を見せてくれたり。
「この子は撫でると喜ぶよ」
「この生物はよくいるの?」
「いるよ。世話も楽で食事も安いもので済むんだ」
ブラッシングをするので眺めていると、やるかい?と言われてやってみることにした。
「おお、硬い」
アルクレイなどブラシいらずのふさふさだから、毛質の違いに夢中になりそう。
「ふふ、そうだね。結構硬めだね」
「短毛種ってことなんだ?冬は?」
「雪にも寒さにも強いんだって」
「え、すごい」
流石は異世界産の生物だ。




