51テッタという少女は恵まれているのに満たされない特有の思春期らしい
ステータスで確認済みであり、元より夫妻から聞いていたから。
「ペコラちゃん。この子よ。テッタと言うの」
「叔母さん、この子……?」
「数日間、ここへ泊まることになるって言ったでしょ?」
すでに泊まることになっていたらしい。どちらでもいいけど。もし無理になったら別のところに泊まれば良いし。帝国パフェ農園に戻って、通う選択肢もある。
「う、うん。言ってたけど」
子どもだから、みすぼらしいとでも思っていたのかも。旅をしているとなれば、見た目に気をつかえないイメージはあるかな?
「テッタの部屋は使わないの。ペコラちゃんは私たちの部屋を使うから、大丈夫」
妻はいとこへ説明する。何度目かの説明なのかもしれない。
「思ってたより小さかったから」
ああ、まあ、聖女の中でも二番目に若いから。見た目は完全に旅なんて無理でしょというもの。信じられなくなったとか、かもしれない。
こちらとして泊まるので変化はない。すでに映像で見ていたので、こっちはもう顔を知っているから言うことは皆無。静かに待っていると少女はこちらを見て、上から下までジロジロ見る。
年齢特有の排他的な視線。不愉快だが、今回初回だけは我慢してあげた。
「ふーん?」
ふーん?だって。内心ちょっと考えていたようないい子、という幻想は完全になくなった。ふーんのあとに、よろしくと言われたのなら握手はしていたんだけど。それはもう無理そう。
危ない変な空気にいとこと紹介した女の人が、空気を変えようと上擦った声音でペコラがお店を開くという話をする。今するのは、不味い話題なのでは。と思ってしまうが時すでに遅し。
「み、店?」
「ええ。ヨウカンという甘くて美味しいお菓子なのよ!とっても濃厚な甘さだったわ」
褒めに褒めて言う言葉にこちらを胡散臭げに見る子。
「へ、へえ。私にはないの?」
「商品だから」
ビシッと言った。挨拶一つもまともにできない相手に、自分の食べ物を分け与えるほど人間できてないからね。
「は、なっ」
嘘でしょという言葉が聞こえてきそう。聞こえないふりをする。
「……そ、そうなんだ。美味しくないから自信ない?」
いや、いくら挑発しても渡さない。
「テッタっ。なんてこと言うの?初対面の子なのに」
「でも、叔母さん、この子は今日から寝泊まりするんでしょ?なら、うちのルールに、私が先に来たんだから」
「え?なに、急に言ってるの?ルール?」
唐突な発言に戸惑う奥さんに、夫も近くに来てテッタに問いかける。自分もテッタも、居候という条件は同じなんだけどなぁ。女の子は焦ったように言い募る。ヨウカンが食べたいから、言葉や口が滑りまくっているらしい。
「テッタ、落ち着いて。ペコラちゃんはお店をすると言っていただろう。私が買ってきたから、今日は食後に食べられる」
そういえば買ってきたけど、いつ食べるのかは考えてなかった。この子のために買ったようだ。やはり、お人よしな人たち。
それに対してこの子は、この村に不満でフラストレーションを溜めている。こんなところにいるべきじゃないと書いていたから内心は知っていたけど、拗らせているなと目を細めた。
テッタはハッとした顔をして、こちらを見てからキッと睨みつけてきた。
「わ、私はこの子がないって言うから、年上を敬わない態度に躾ないといけないって思っただけ!この子が悪い。叔母さんたちも先に言ってよっ」
テッタは言い切ると、自室にしている部屋へ走っていく。
「テッタ!待ちなさいっ」
夫婦は止めるけれどバタン!と強い音で扉が閉まる。典型的な反抗期。ちょっと見てて面白い。聖女たちは優等生な性格なので、こんな人は周りにいない。
反抗的な態度の人はそもそも聖女に近寄れない。聖騎士らにまずもって、排除される。テッタのような存在は目にはいることがない。貴重な体験。
「あ、あの、ごめんなさい。いつもはあんなことを言う子じゃないのだけれど……ごめんなさい」
いつもはあんなことを言わないけど思っていたのかもしれない。それが、表に出たってだけ。それが年下という自分が有利に出られそうな、ペコラ相手に出やすくなったというところかな。
「あの子とあなたたちは別。気にしないで」
テッタへのヘイトは溜まったけれど、顔には出さない。それに夫妻は関係ないと言えるけど彼女へは別の意味で気にしているので、二人が謝っても意味はない。
「でも、私たちから誘ったのに」
二人とも気まずい顔をしているので、気にしないように話題を投入する。これも大人の対応。
「この村に空いてる土地はある?本格的にお店をする時はそこでやりたい」
パフェ店もやりたい。ヨウカンはあくまで副業的な商品。サイドメニュー。
「ああ。そうだな……村長に聞こう」
夫の方がこちらを見たら、提案してくる。ありがたい介入なので頷いて受け入れた。
「そうさせてもらう」
「食事は……気まずいかな?」
「食事できる店に行く」
「そんな……そうだわ。私も一緒に食べに行く」
女の人に胸がふんわりと浮かぶ。
「じゃあ、奢る」
「はは、いやいや、私が奢るから二人で美味しいものを食べてこればいい。明日は私と行こう」
男の人は、子どもだからと甘やかしてくる。うーん、相変わらず良い人たち過ぎて心配になるなぁ。ペコラがそんなことを思うなんて、不思議な気持ちになる。
ペコラは女性とお店に向かい夜ごはんを食べた。うん、味は普通で普通に美味しい。食べ物は常に美味しいのを望んでいるわけではない。
彼らはテッタの話題を言うことはなかった。男の人も女の人も。気を遣われる。聖女じゃなくても関係ない。いい人たちだからこそ思いやりがある。
それなのにテッタという女の子は。こんなにいい人たちは、この世の贈り物のような人なのに。勿体無いなんて話ではない。
「美味しいわ」
「幼馴染の夫と食べられなくてごめんね」
ペコラの生みの親はアレだったのに。いとこなので親ではないけれど、居候先がここなんて幸運だろう。テッタは酷い家庭を知らないから、幸福なことに気づかないだろうなと分かる。
「ふふふ。いいのよ。彼とは結婚する前からずっと食べていたから」
惚気と自慢と幸せそうな顔でこちらにもオーラを当ててくる。なによりである。言うことはそれだけ。自分に恋愛とか到底考えられないもんなぁ。




