53あんたさちょっとさ調子乗りすぎなんじゃない?と生意気女子に言われたがレベチなのでやめておいた方が傷は浅いぞ
逞しい。二人で話していると妻の方が飲み物を持ってきてくれる。緩んだ空気にスローライフが身に染みた。
しばらくこのままがいいなと思いに耽る。それに邪魔な子が一人いるが無視しとばいいかなと、考えるのをやめた。しかし、だ。
こちらが穏便に行こうとしているのに、あちらは穏便にやろうとしていない。はぁとペコラとアルクレイはヒソヒソし合う。
「なんなの、あのうっとしい視線」
「お前が店持ちで、大人気で美味しいから嫉妬してるって目だろ?」
「それはさすがにわかるんだけど。嫉妬せずになにか言えばいいのに黙って睨んでくるの、年上としてダメダメ過ぎない?」
夫婦二人とまったりノン聖女ライフを楽しんでいたら、ふと視線を感じて見てみるとテッタが壁の向こうからじっとりした目をペコラに向けているのだ。
無視しているのに無視してくれないとかこれいかに?
夫婦に相談するようなものではまだないので、そろそろこの村の決めていた滞在日も間近なのでわざわざなにか言う必要もないだろう。跡を濁さずという言葉もあることだし。
なーんて気遣っていたのに村をぽてぽて歩いていると待ち構えていたテッタが腰に手をやり偉そうに立ちはだかる。
え?本気?本気で自分と張り合うの?
「あんたさ、ちょっとさ、調子乗りすぎなんじゃない?」
「?」
「私に悪いと思ってるんだったら、誰も食べたことがないものを出しなさいよ」
「!?」
思っていた口上じゃなかった。予測と違う方向から切り込まれて驚く。あの家出ていきなさいよ、とか言われるのかと思ってたのに……違うの?
ジャンルとかテーマがだいぶズレておとずれたことに、ぽろりと溢れる疑問。
「カツアゲ?」
というか百パーセントカツアゲ、恫喝、恐喝ではないか。どうみても犯罪者ですねと内心、心の解説者が話出す。子どもだから見逃す、なんて甘っちょろい真似はしない。
「寄越せ……か」
ペコラは聖女になるまでたくさん奪われてきたというのに?
「そっちが奪うっていうなら」
ペコラは魔法を起動して、テッタの足元をどろどろにして足をずぶりと沈ませる。
「え」
当然のことに遅れて声を上げる女の子。
「きゃあああ!?」
この子は今、誰にも見えないようにしているから声も聞こえない。強欲の罪といったところかな。
興味を無くして別の道を歩いていった。泣き声も聞こえないのは魔法のおかげだ。魔法さまさま。
夕刻になって家に戻って伸び伸びしていると夫妻がテッタが遅いと話していて、どこかの誰かがこの家の扉を叩き、テッタが道端で泣いていると言う。伝えてくれるなんて親切。
この村の人たちは基本的に純粋だ。擦れてない。見ていると夫妻は二人外へ向かうので、ペコラも野次馬をしに付いていく。テッタがどんな反応をするのか、ぜひ見てみたい。
「どうしたのかしらね」
「最近特に変わったことはなかったんだがなぁ」
ここへ来てからずっとむすくれていたから、あれが常備状態だったらしい。なのでなにか思っている顔をしても、誰からも気づかれなかったみたい。
「この村が相当不満だったのか。贅沢な」
アルクレイもペコラのことを知っているので、この村がどれだけ優しさに満たされているのか知らないことに呆れている。ペコラも頷くくらいの良い村なのに。
道端に人が集まっている。店を少しやっただけでわらわら集まるほど、普段何もない村なのでテッタのことですらあっという間に広まったのだろう。
ふええんと声が聞こえて、赤ん坊みたいに泣いているみたい。予想していた通り。ふむふむ。
「ああ、来た来た。おおーい、皆退いてやってくれー」
集まっていた人たちは夫妻を待っていたのか、ササッと一本道に避ける。慣れているなと感心した。
「え、テッタ?」
「テッタ……なにがあったんだ?」
「うわあああんん!うわああんん!」
ずっと泣いているみたいで、声がガラガラ。泣きながら夫婦を見てさらに声が大きくなったがペコラを見て声がヒュッと鳴る。恐怖に声が詰まったのだろう。容易に想像できる。
「あ、あ、あ、あ、ああっ」
どもってなにも言えなくなり、ペコラを見ながらぐりんと白目を向き気絶する。夫妻は慌てて医者のところに連れていき、そこまでついていくとテッタをそこへ入院させる。
優しい人たちだ。なにがあったのかと二人は言い合うが会話に入らないで、聞き役に徹する。彼女たちは優しいなぁと再度思う。
ペコラのやったこと、その前に奪う宣言をしたことを反省して性格を治してもらいたい。なぜ怒らせたとかね。
「どうしたのかしらね」
「疲れているのかな。友達もできてないみたいなんだよ」
把握されている。素直じゃないとかは思ってそうだけど、性格がひん曲がってるところは知らないだろうな。
翌日、夫妻が迎えにいき家に着くとこちらを見てびくりと跳ねて、すぐに部屋へ入った。早過ぎて二人とも驚きに目を丸くしている。
話を聞こうとしても、一言も口をきかないらしい。そりゃそうだよね〜。年下の女の子に威張ったら仕返しされた、なーんて。
「いつもだって話さないけど」
夫妻は本当に何があったのかと疑問を口にする。夫婦たちが悩んでいる間にも、ペコラの帰還時間は迫っているので二人に声をかける。
「もう旅に戻ろうと思ってる」
「そう」
「結構滞在してくれたね」
二日前から言っていたので二人は頷き、見送りしてくれる。
「ペコラちゃん、もう帰るのかい」
村の人たちにも帰ることは出回っているのかぽつぽつまた来てねと、外に出たら言われる。店は残っているので商品はいつでも買えるようになっている。
村の人たちが手を振るので頭を下げる。手を振るタイプじゃないから。
静かに村を出ると、その場で帝国のパフェ農園に戻った。パフェ農園の聖騎士たちがペコラたちを見つけると、ハッとした顔をして走り寄る。
「おかえりなさいませ、ペコラ様」
「うん。何か伝言はある?」
聞くと彼は首を振る。何も問題がないようで何よりだ。ペコラも安堵した。何もないことが、いい便り、なんてね。
辺りを見回しても何かあるわけではないので、本当に何もなかったらしい。平和が一番ってことだなー。テッタのことがあり、少し身構えていたので肩透かしもちょっとある。
「守ってくれてありがとう」
「いえ、我々は聖女様の身体と心を守るためにおりますので!」
騎士道精神が高い。どこぞの国より断然レベルが違うなぁ。見習って欲しいけど、そもそも心がアレゆえに見習うなんて無理か〜。
彼を一瞥してから、クッキーを取り出してお土産を渡す。お土産って言うより、作ったから渡すだけのフェーズかな。妻の方と作ったのだ。
ペコラの素材を使ったので、とても美味しい。味は保証する。聖騎士に渡すと顔色が変わって嬉しそうに破顔するので、相当食べたいものなのだ。
ペコラの作ったものにハズレはないといった積み重ね。不覚にもテッタの口にも入るわけだが、驚き過ぎて何度も咀嚼していたから味が忘れられなくなるだろうな。
「ありがとうございます!いただきますっ。いつも美味しくいただいておりまして、妻も……」
妻の惚気が始まった。アレ?これ、聞かなきゃいけない感じ?
「おおい、それ以上はやめるのだ」
「はっ、すすすすみません」
二十分間聞き流していたら交代時間だったのか、こちらへ来た聖騎士が止めに入る。
「いや……うん。新婚だから言いたくなるんでしょ。うん」
他に何も言えない。また謝り赤くなった彼は、ぺこぺこしながら先輩聖騎士に肩を叩かれて休憩していった。ふうー、やっと解放された。
止めてくれた聖騎士が謝ってくる。あいつ、結婚してからあんなんなんですよと。いや待って、あの人確か新婚になる前から惚気てたよ。
もしかして皆から煙たがられて聖女にターゲット絞ってるとか、ありえる?
次に惚気たら、妻をその場に召喚しよう。そっちの方が話が早いかもしれない。
「次から彼の奥さんに惚気聞こえるようにしておく」
「そ、それは。いい考えですね」
困った顔をしたけど、聞き飽きたのだろう。全面的に評価し始めた。彼とも別れて我が家に戻る。パフェ農園を通りながら、ぼちぼちと行く。
アルクレイはペコラに抱っこされながら、ゆっくりと運ばれている。ふわふわの毛がいつまでも触っていたいくらい、もちもちしている。
「いい村を引き当てられたな」
「うん。また行きたい。取り敢えず、パフェ展は別のところでやる」
家の扉を開けると嗅ぎ慣れた部屋の香りに肩の力が抜けて、今回はなかなかよい寄り道だと自分で高評価を付けた。




