45ど、どうして?なんで?助けてよ!い、いつも助けてくれるのに、なんで助けてくれないの?
罰はちゃんと機能しているらしい。会う人会う人に即知れるレッテルをペタッと貼り付けたのだ。とっても効果あり。
謝ってないことを再び責めて、憤慨しながら詰る家族たち。泣きながら言うからやった本人も俯くしかないらしい。涙を流しながら無尽蔵に出ていく水分。怒るだけなら反発心でも湧いたかもしれないが、湧く余地がない怒り方。
加害者たちはひたすら申し訳ない、と言い続けることしかできない心境になる光景だろう。全く同情しないけど。
聖女の言うことを聞いて聖女の机を隠したらこうなると才能や秀才なのだから、分かろうものなのに。どうして回転の速く賢い頭を働かせないのか。そのとき、無意識に思考停止にでもなっていたのだな。
あちらの国の王が事勿れなせいであるので、全てあの頼りなさすぎる王に負ってもらうしかあるまい。やったことの責任は個人に取ってもらうが、やらせた結論に行かせたのは聖女と王。そんなことはすでに分かりきったロジック。
今見ている画面の奥にいる家の人たちは、普通の人たちで平民。余計に見られる度合いが違う。今後、食べ物すら売ってもらえなくなることもありえるかも。
でも、クラスで見ていた人も同罪だろう面もある、とペコラはみなしている。皆同じだけの余罪あり。
「見ていた人はどうしようか……」
腕を組む。
「クラスメイトたちは自分たちを巻き込まれただけの、純粋な被害者と勝手に思っているようだ」
映像を変えてそれぞれのクラスに居た人たちを見ていく。彼らは見ていたら聖女が帝国の聖女の机を隠し始めた、と涙ながらに語っている。
謝れとは言わないけど黙ってることはできなかったのか?
自分たちは悪くない、という逃れたい心情から来るアピールにしか見えない。
せめて、こちらの気持ちがそちらに向くと思っていないからか、勝手に被害者ヅラして勝手に語るとはね。語っていいのはペコラのみ。それか、帝国の聖女たちくらい。
「チャーハン美味しい」
「焦しバターがいいな」
二人で鑑賞しながらチャンネルを変更する。次は誰にしようかと思って、聖女ツィツィにしようと決めた。
チャンネルを映すと彼女が映ったが特になにか変化はない。やらされた人たちは人生が変わるような、大変なことになってるっていうのに。
「むかっときた。痛い目を見ないと反省もしない。わかってたけど」
イラついて今やることにした。呑気に使用人に爪を手入れさせていたのだ。そりゃあ、怒りも倍増する。だって周りの人に強制したようなものなのに、相手はゆったりリラックスして呑気にネイル整えているんだから。素知らぬ顔をした悪魔だ。
今しているそのネイル、なにかしたらさぞ驚くだろうか。ピンと閃いた。早速ペコラが指を相手に向けると、画面の中にいるツィツィの爪に変化が起こる。ニョキニョキと急激に成長して伸び始めたのだ。
初めに気付いたのは整えていた使用人。無言で見てから把握するまでのタイムラグがあり、聖女が気づいたのは爪が床に付くところ。
「え……な、なにっ!」
「ひっ」
「え、なに?なになになに!?た、助けて!助けて!いやあっ」
重いからか、気付いてから大声で叫ぶ。
次いで妖精たちに助けを求めた。彼らが助けを求めたら、すぐさま願いを叶えてくれるんだけど今回はうんともすんとも言わない。シーンとなる。使用人たちの悲鳴だけが室内にあるだけ。
ツィツィは初めてのことに涙が涙袋からぶつりと溢れて、なにも起こらないことに叫ぶ。
「ど、どうして?なんで?助けてよ!い、いつも助けてくれるのに、なんで助けてくれないの?早く助けてよ!な、なんで?た、助けてくれないの?いや、気持ち悪い!」
「ひぃー!」
使用人たちは右往左往して部屋から出ていく。警備や兵や他の人に教えにいくために走ったのだがツィツィからしたら見捨てられたように見えたみたい。普段からそんな風に思われることばかりしている自覚が、ちょろっとあったっぽい。
今もゆっくりな速度でにょろりと伸び続ける爪。聖女は問題が解決しないことに涙を流す。
「グス!グス!やめて、止めてよ!誰か止めてよ!」
立ち止まるものも、戻ってくる人もいない。直ぐに兵が来て「何事ですか」と声をかけられる。しかし、兵士たちが来たところで。魔法使い、貴族、王、聖女が来たとしても止められる人は誰もいない。
助けて助けてと叫ぶ少女に、差し伸べられるものはない。対処できる範囲を大幅に超えている。王も報告を受けてやってきたがその頃には爪で部屋が覆われており、生い茂ったようになっていた。
「何事だ!?ひっ!?」
「王、危ないのでお下がりを」
「な、なんだ。き、気持ち悪い」
「おそらく、使用人から聞いた状況をまとめたところ……ツィツィ様の爪です」
「爪?」
「はい。爪を整えていたら突然爪が伸び始めたとか。妖精に声をかけても叶えてくれることなかったとも、言われました」
王はどうすることもできないと、立ち尽くす。
「ど、どうにかしろ。聖女へ至急要請をするように!」
慌てて命じて、大国の聖女たちが呼ばれる。現場に着くと、さらに伸びた爪により声がどちらも届かない。
「はい。なんでしょうか……これ、は」
ある程度聞いていた聖女がまたあのわがまま女のわがままだろうと、辟易した顔で来ると部屋を見て瞳を目一杯開けた。
説明し終わるが聖女の顔は混乱と諦めにあり、王も周りも無理かもしれないムードで満たされる。
「無理です」
何人も聖女が来て色々やってみるが、びくともしない。そもそも、そういったことすら簡単に解決できる強力な聖女が、今咽び泣いているツィツィなのだ。
「王、無理です」
きっぱり言うと王は肩を落ち込ませる。
「な、どうすれば……いいんだ?」
「迷っている暇はありません。帝国の聖女に助けを求めましょう」
「怒らせた相手に怒らせられた相手を助けろと言うのか?無理に決まっている。皇帝の顔を見てないからそんなことが言えるのだ!」
助けを求めるには帝国にまず、打診せねばならない。
「もっと、怒らせるだけだ……言えるわけが」
「解決する方法は他にはございませんわよ」
無理だと首を振る王に、聖女がフッと笑う。今まで苦い湯を飲まされていたツィツィの情けない様子に、彼女らはざまぁみろという顔つきをしながら部屋を見る。
「皆様、行きましょう」
「はい。聖女ツィツィ様、失礼いたします」
「ご愁傷さまです」
「また出会えたら良いですね」
「ふふ、もう。笑わせないで?」
「あらあら、ごめんなさい」
聖女たちのストレスはかなりのものだったらしい。




