40その友好国にヒビ入れてるんだから友好国じゃなくなりかけてるんだってそろそろ気づこう?
今まで聖女扱いを受けなかった自身。聖女覚醒があるまで双子の片割れが聖女として扱われていた。サインなんて縁がない。
サインを求めた人を見ると目をキラキラさせている。
「アルクレイ、手形押してよ」
「え、おれ、が?」
「私にやれば良いって言えるから、押して」
理論がめちゃくちゃなのはわかってるけど、いきなりサインと言われても。
「じゃあ、そうだな。お前の名前を書いたところの端に押す」
「押す……名前を書く」
とりあえず、キラキラペンを無意識に取り出す。ラメがインクに混じっているペン。それで名前を書いてから、アルクレイが魔法で肉球を押すと形がくっきり残る。
「はい……転売しないでね」
「て、てん?は!はい!なんのことかわかりませんが、ありがとうございます!宝物にします!」
大変喜んだ人は、カフェの椅子にまた座る。あ、座るんだ。頼んだら気まずいから出ていくかと思ったけど、行かないなんて心が強い。
うっかり転売と口走ったけど、この世界に転売の概念はなかったらしい。よかったな。いや、そんなことを言いたいわけじゃないな。混乱して思考までノイズが酷い。
「肉球のサインって珍しいよね」
「聖女初だろう。帰って良いか?また寝たい」
「また頼まれたら起こして良い?」
「いつでも起こしていいぞ」
アルクレイは優しく言うと城の部屋へ戻っていく。見送るとペコラは鼓動を落ち着かせる。漸くいつもの自分に戻れた。やはり、聖女扱いされるのは好きじゃない。
「ドキドキした……」
「お疲れ様でした」
聖騎士がアルクレイとのやり取りを見ていたから、微笑ましそうに言ってくる。
「うん……もうないといいな」
「それは、難しいでしょうがペコラ様がやりたくないと言えば私たちは阻止します」
「やりたくないというより、慣れてないだけだし。阻止よりも慣れた方がいいの?やめておいた方が?」
うーんと悩んでいると聖騎士たちがまた目を緩めて見ている。聖騎士は聖女を見知っているので、普通の人のように扱う。聖女が夫に選ぶ率が高いのも頷ける。
旦那になる人、相方になる人、伴侶にしたい人は自分を特別扱いしない人がいいと思うのは、自然な心行きなのだろう。
「でも、サインは嫌じゃなかった」
再度確認してもやっぱり嫌ではなかった。驚いただけだ。なので、不快感もなくサインを欲しいと言った人からも悪意は見受けられず。
「サイン欲しがられたら、またやってみて、嫌じゃないか確認しよう」
聖女覚醒からの日々を思うと、最初の頃よりは経験を積めたからかもしれない。良い人も微妙な人もたくさんいる。ペコラとして生まれた時には双子の片割れのせいで嫌な人、最低な人しかいなかったから。
それに比べたら同じような割合で人を見比べられた。最低な人たちしかいないと思っていた思い込みを、少しは普通の見方ができるようになったのかな。それとも、優しい人たちに出会えたから、気持ちや過去が癒されつつあるのか。
どれかわからないけど、一つだけよくなったとポジティブな意見が自分から出てくる。アルクレイもいつも肯定してくれるという安心感もある。
聖女になってから、良い人たちに出会えている証拠。双子にいい人たちを遠ざけられていたのかもしれない。
ホッとする気持ちを感じ取りながら、カフェで食事を済ませて美味しかったなと帰ってからアルクレイに伝えた。他の場所にも明日行こう。
「アルクレイも行くよね」
「学園にもカフェにも行く」
うさぎの口元が楽しそうにしている。その後も何度かツィツィから誘いの連絡がもたらされて、まとめ役の聖女が王に抗議を言えども誘う文言が止むことはなかった。どうなっているのだ。
「やめてくださいと言っているのです。なぜ、やめさせられないのですか?続くのならば帝国に伝えます。あなたのやり方が、まるで通じないといえばよろしいの?」
聖女が怒っている。視線の先でラダツィ国の王がタジタジになっていた。ペコラもいい加減にして欲しいので、同じ場に同席している。むんと胸を張って。
「いや、言ってはいますが」
「言っても聞く気がないのならばペコラ様には帝国に帰国していただく予定になりますよ?よろしくて?」
「こ、困ります。なんとか言い含めますので」
「できないのなら、言い切らないでほしいです」
今現在、聖女ツィツィの行為に再三の取り止めを請求しているのに、やめないことを咎めていた。向こうの聖女にも強く言っているのに、全くやめない。どうやら聖女らに渡したクッキーが、いたく気に入ってしまったらしい。
クッキーをまた食べたいから持ってきてと、敬語を使わず命令に近い言い方で馴れ馴れしく。ペコラは沸点が低い方なので当然、苛立ちにより心の中が吹き荒れた。ブオオオ、と。
「クッキーをまた欲しいとか、一緒に飲みたいとか、もううんざり」
王に向かって睨みつける。王は「ヒィ」と悲鳴をあげた。わがままは言わないが怒ったら世界一怖いことをまだ知らないので、まだこの程度なのだ。
「おたくの国から一人聖女がいなくなるのが嫌なら、今すぐやめさせて」
「ヒッ!わ、わわわ、わかりましたっ」
どうやら国王が舐められているのは聖女だからというだけではなく、彼自身が小心者だからという部分も関係ありそう。
「もし、次同じようなことがあったら賠償金が増えるから」
「え、増える?」
「今までの迷惑料を請求するから」
「へ、あの。この国は帝国とは友好国でして」
「だーかーらー、その友好国にヒビ入れてるんだから、友好国じゃなくなりかけてるんだって……そろそろ気づこう?」
ハテナマークを浮かべる王はびっしょり汗をかき出す。今更気づいたって言うのか、この人。
「あの、その」
「散々迷惑だって言ってるのに」
「う」
「やめてくれないのなら、強制的にこっちもやるしかない。そんなの当たり前でしょ。自国の人たちが今までは、割りを食ってたのを観て見ぬふりしてきたから、今回も見逃し続けて終わると思ってたの?ん?」
誰よりも年下の聖女が、大の大人を脅しつける。ラダツィ国の王も予想外だっただろうな。でも、手は緩めない。
「それは無理な話。相手は聖女だから。そこらにいる一般人じゃない。同じ同等の立場。いつかそんな日が来るって一度も思わなかったの?そんなわけないよね?わかってたはず。目を逸らし続けた結果が、これ」
理詰めにより王は呼吸が大変そう。
「どうせ今日も適当に、ハイハイって返事して適当に対応してろくに、あの聖女に行ってないから無くならないってことはわかってる。もう期待しない。この国は聖女も適当に扱うって帝国も聖女も私もよくよく知ったし」
王を見ると口をぱくぱくさせている。




