39ペコラの聖騎士の担当はかなり人気らしいと聞く。わがまま言わないし強いからいざという時は一人でどうとでもできるし
ペコラの実益はあってもなにもしなければ無害。
対してツィツィは全身から自信たっぷりな、古典的なオーラが漂っていた。自分は最高なのよ、最強よ、妖精の愛し子なのよ。
「どうしたらいい?ぶん殴っても直りそうにないかな」
「もう、ふふ、ペコラ様ったら。抗議いたしますので少しの間お待ちくださいな。んふふっ。こほんこほん。すみません」
「わかった。とは言え……王の言葉を重んじるように思えない」
それは彼女も感じているらしいが、抗議しに行くのでもう準備しますと言われて魔法を切った。
「聞いた?抗議してくれるんだってさ」
「嬉しいと言いたいが焼石に水だろ」
「うん。私もそう思う」
「そうなったら、あの聖女は次回山で男泣きすることになるな」
共に聞いていたウサギは尻尾を自分でブラッシングしつつ、あくびをする。
「眠くなってきたな」
「まだ昼過ぎだよ。なにか食べてから私は寝る」
「ああ、じゃあ先に寝ておく」
浮いたアルクレイはふわっと浮いてベッドまで行き、丸くなる。ひとなでしてペコラは別行動をすることにした。城を探索しようと思って。聖騎士たちを壁にしておけば、聖女だろうと誰だろうと近くに来ることはない。
城を探索することを口にすると聖騎士たちがお供します、と笑みを浮かべて対応する。非常に楽しそうだ。
毎回なにかしら食べ物を渡しているので、それも功を成しているみたい。他の聖女たちや噂でペコラの聖騎士の担当はかなり人気らしいと聞く。
それはまあ、わがまま言わないし、強いからいざという時は一人でどうとでもできるし。
さらに言うとそんなに出歩かないから、警備が楽。人と話したがらないから、取り次ぎもほぼ無い。
手間をかけさせられない楽な警備な上に、食べ物の差し入れは美味しい。自分で言うのもなんだけど、この世にいる聖女の中で護衛するには安心感が段違いだと思う。
「城はどう?空気とか、雰囲気とか」
他国への空気感の経験がないので違和感があっても、ペコラにはまだまだわからない。
「そうですね……一人の聖女の力が強いと空気が悪くなりがちです」
「ツィツィか〜」
「はい。厄介です。あの類の者は自国の聖女や王の言葉を一切聞きません」
だろうな、としか言えない。
「澱ませてどうするんだろうね」
「本人は自覚がないかと」
「自覚がない。自尊心が肥大化してる……ナルシスト」
やはり、性格は思った通りみたい
「もし、無茶を言ってもこっちの方が勝てるし」
小声でボソッと言う。本音であり事実なので聞こえてもいいけど、自慢に思われたくない。城を散歩していると他の聖女たち、ツィツィ抜きを見つけた。彼女たちはこちらを見ると軽く会釈してきて、こちらも頷く。
「またお会いしましたね。お散歩ですか?もしよろしければお薦めをお教えいたしましょうか」
城内には楽しそうな場所はなさそうなので、城外の情報を得たい。一応、事前に半年間の間に有名な観光地は調べたけれど、知る人ぞ知る人が教えてくれるのならいいかも。
「聞きたい」
「わかりました」
有名なカフェは知っているが本当に美味しいのならば、そこを勧めるだろう。聖女たちは次々自分たちの知っているお店や場所を述べていく。それをメモする聖騎士たち。
聖騎士たちも情報交換をするのだろう。どこか行きたいと言われれば今聞いたところを言うだろうし、勤勉な男たちだ。聖女らはさらに信頼を深めることになる。
「ありがとう、聖女様たち」
敬語を使うのはできるが、恭しい空気は苦手。精一杯のお礼を言うと嬉しそうに笑う。
ああ、そうだ。懐からお近づきの印として用意していたクッキーの包みを一人ひとりに渡す。聖女の数は聞いているので残りの人の分も渡しておく。
「わあ、ありがとうございます!」
「美味しそう」
本当にびっくりするくらい美味しいから、頬が落ちるよ。なんて。
「私たちもなにか渡したかったので、半月後に催しをご用意しておりまして、もしよろしければご参加ください」
返答は考えておく、にしておいた。断りやすくて行きやすい言葉だ。便利なので多用している。彼女たちと別れると外に出かける。聖騎士たちも事前に知りたいだろうからね。
「一番目は有名店ではないけど、絶品のお菓子がある店」
アルクレイを連れてまた来よう。カフェに向かうと人が楽しそうにしていた。外の空気はよさそうだ。
期待できる。室内へ入ると聖騎士たちを見た人たちがちらりと見て、驚いたように立ちあがろうとするが必要ないと声にする。
帝国ではカフェに行かないから、対応がよくわからない。帰ったらカフェに行こうかな。アルクレイや他の聖女たちを誘ってみるのも、ありかもしれない。
「失礼いたします」
代わりに聖騎士に言葉を伝えてもらう。
「席を立つ必要はありません。帝国の聖女なので、カフェに寄りました。注文して食べて帰るだけですので、人払いも必要ありません」
完璧に言ってくれた。そうそう、それでいい。ペコラが食べる時に、誰かに退かれたりするのは嫌なのだ。邪魔するつもりはない。しかし、他者がいると邪魔なので近寄られても困るから、聖騎士たちは必要。
「メニューお願いします」
「はい」
聖女たちがすすめたので、来ることもあるみたいで店員は慣れた手つきで渡してくる。他国の聖女もよく来るみたい。大国だからかな?
「おすすめの今日の一品とこれとこれ」
指を差して注文を終える。メニューを返すと知らない人が話しかけてきた。すかさず聖騎士の鎧で埋まる。
「あのう、ここにお願いします」
なにを言いたいのか聞いているとサインが欲しいと言われる。初めて言われた……。
「え?私?え?私?」
つい二回も、同じことを言ってしまった。
「え??」
ここと言われて、用紙を差し出される。ぽかんとしていると相手は微動だにしない。
「書く?」
聖騎士たちに目を向けると「こういうことってあるの?」とアンケートを取ってみた。
「ございますね」
「人気にもよりますが、聖女はよく声をかけられます」
「私初めて……」
外に出ないでパフェ農園と家に居るからね、声をかけられるわけもない。
「ええ?ちょっと待ってて」
サインの依頼は多々あるらしい。混乱してアルクレイを召喚した。この場で。
「ぷぅ!!?」
アルクレイが本物のうさぎのような声を出した。
「ど、どうした?」
寝ていたので起き抜けの顔つきで、恐る恐る問うてくる。
「あのね、なんか……サインをお願いされた」
「……書けばいいだろう?」
わざわざ召喚されるまでもないことに、彼は首を傾げて簡単に言ってくれる。




