30トカゲの尻尾切りショーを皇帝も見せられたところで納得しない
黙っていても罪も罰もなくならない。悪質とさらなる重い重い罰を受けさせられるだろうから、やめておいた方がいい。
「答えなさい。王の御前だ。黙ることは認めたと扱うぞ」
一番下の貴族であり下位貴族なので、先ほどの人達よりも尋問がキツい。罪は皆同じなのにねえ。そこら辺は嫌な気持ちになる。
ペコラが故郷で軽く扱われたのは平民だったからだ。中流階級。これが貴族だったらもう少しだけ、丁寧に扱われていたかもしれない。でも、雀の涙程度の誤差でもありそう。
「し、知りません。お、覚えて、いません」
身体を震わせて否定する。映像にしっかりクッキリ映っているので、無意味な罪状否定でしか無い。失笑する周り。
「ははは、最近の平民は冗談が笑えないらしい」
「おや、平民ではなく男爵ですぞ。ですが、すぐに取り潰されるから平民になるようなものですなぁ」
「ふざけるなよ小娘」
周りの殺意や殺気に俯く令嬢。
「貴様、最近王子と婚約者を置いて仲が良いと聞いたぞ。おごるには早すぎるのではないか?」
「ははっ、火遊びでしょう」
ははは、はははと人びとの声音が部屋に響く。低級の地位がここに来て、怒りを向ける対象として当たり散らされているようだ。
「う、うっうっくっ」
「泣くな。泣きたいのはこちらだ」
「男爵令嬢、答えよ」
笑うものたちに構わずに王が問いかける。
「どういう経緯で、聖女のお菓子の家を食べるに至ったか語るのだ」
王は厳かな声で問いかけていく。尋問官よりも口を開きやすいだろうと思ったので、早く解明したいと王は気持ちを急かす。男爵令嬢はもごもごと動かすと、言いにくそうにしている。
「早く、答えるのだっ」
王子たちが勿体ぶる女に声を荒げる。ことはもう生徒の手に負えることでは無いので、配慮などない。
「ひっ、お、お許しを!」
「はぁ?お許しを?許せるわけがないだろう?婚約を壊しておいてっ、言うことが、それか?ふざけるなよ男爵家風情が!」
思わずという口で兄弟たちは煮えた頭を暴走させる。しかし、王が落ち着け、と息子に伝えると二人はグッと言葉を止める。それでも諦めきれない周りは睨みつけた。
視線や威圧感に息苦しそうにする令嬢はしくしく泣き出す。王子を婚約者から取る令嬢が容易く泣くなんてありえない、と鼻で笑う人たち。
「ふんっ。流石は演技がうまい」
「ふっ。彼女は婚約者持ちを取るのがお趣味のようなので、こうやって泣くのもお手のものだろうな」
今の今まで王子と男爵令嬢の恋路に踏み込まなかったのに、これに乗じて色々言うなぁと呆れる。
もっと早く手を差し伸べておけば、こうならなかったのに。いや、それは親の王や王妃らに言わなければならないか?
「ひっく、ひっく、うぐっ、ひくっ」
泣く女子を助けてくれる者はいない。やがて、親も呼び出されるだろう。そうしたら、学園も退学か中退になるだろうし、親と言っても実父と養母なので風当たりが棘付きで酷いことになるのは目に見えている。
悪いのは男爵の当主になるしなぁって思ったけど、実際の家はどういう感じなのか知らない。もしかしたら養母の態度がひどいから、自滅願望が生まれた可能性なんてありそうで。
そうなると、男だけの責任ではなく女の責任になるかもしれない。ことは国自体の存亡がかかっているから、容赦なく処罰されるだろう。
簡単に終わらない。聖女も激怒しているのだから。説明責任が発生する。皇帝も確認を照合させるだろうから適当なことは許されない。四面楚歌というよりは絶体絶命。
「男爵たちはまだ来ないのか?」
男爵の家は辺境にあるので、時間がかかるとのことを周りから聞いてがっくりと肩が萎れる。
話を聞くにしても、罰を言い渡すにしても時間がかかることは聖女の怒りを解くことから遠ざかるのだ。そんなことはずっと待っていられない。
沙汰を早く出して聖女たちの怒りを解くしかないと、王たちは悩む。
まだ決まっていないが男爵位程度ならば早く刑が決められるから、王子を誘惑し王子と婚約者の間を割くように生活していると思い出して、頭が痛くなる。
遊びであろうと甘く見たことがここに来て倍以上になって返ってきた。きっと王子たちがお菓子の家を食べたのは男爵令嬢が誘導したから、諭したから。そういうことにすることもあり得る。
そちらの方が現実的かもしれない。そうすれば、王子や側近たちは許されて男爵令嬢本人だけがやったことだとしよう。
まだ情状酌量があるかもしれない方法はいろいろ考えたが、低位の男爵令嬢のせいにすることを決定しようと周りに問いかける王。字幕付きで表示されているから見やすい。
令嬢が息子らへ、食べるように誘導してわざと食べさせたと世間に説明をして、本来は令嬢一人の罪ではないかと声高らかに言う。周りは頷きながら女生徒を見て笑った。
彼らから見られてたし、問題の令嬢は嫌な予感に全身の毛穴が開いてしまうことに、間違えたと冷や汗が出る。スケープゴート。それくらい男爵という地位は低いのだ。
「え、父とあの人がここへ?」
父はともかく、義母が厄介だと涙が流れた。何を言われるのかと怖くなる女の子。菓子を食べてしまったことは大変なことなのだろうという、バイアスがかかる。
「ただでは済まないぞ」
貴族の誰かが呟く。国際問題を引き起こした女の子にも手加減はない。喉を引きつかせる男爵令嬢に周りは、容赦なく責め立てた。そうじゃないんだよね……とペコラは呆れる。
周りの子たちにも、お菓子の家を見張っていた兵士も止められなかったのは王子に権限をそれなりに、与えていたからだと、きちんと把握しているので。それさえなければ、あんなに易々と入れはしなかったのだ。
マスターキーを王子に与えたようなものだと、例えを浮かばせるとやはり悪いのは王たちといったことになる。実の父親が与えなければただのそこらにいる何にもできない子ども。
兵士たちがお菓子の家を簡単に放棄した理由は、彼が人の人事に影響を多大に与えられる事実が転がっていたから。反省するべき、させるべきは男爵の地位を持つイケニエではない。
トカゲの尻尾切りショーを皇帝も見せられたところで納得しない。




