22聖女が巻き込まれればいくら王子でも進退は免れないし、婚約はなかったことになるだろう
この考えに前後は存在しないから。
「お願いします。わ、私の発言が……知られたら」
急に情緒不安定になった。年頃の子を慰める方法なぞ知らないので、聖女たちが平気だと言葉をかけていくのを見る。唐突になんだか空気が変化した。怒ったわけでもなく、不機嫌にもなってない。
「す、みません……わたしの婚約者はこの国の第二王子なのです。今は大切な時期でして、不手際を露呈したらなにを言われるかと不安になりました」
「ええ。断ったのに自分語りやり出したんだけど」
引きに引いた。いらないと言ったことを語り、怒ってないのに無駄に怯える。思春期って怖い。王子の婚約者だからなんだというのだろう。聖女パワーでぶん殴れって?
人に頼りすぎてるな、この世界の人たちは。呆れて目を細めた。一応この中で一番自分が年下なんだけど。この女の人は年下に悩みを打ち明けることをしている。
控えめに言って精神面が深刻だ。言うなら自分の親とか担任とか、とにかく大人を先に頼るべきだ。おまけに他国の人間なんだよね。
「国際問題になるから無理」
首を振るなんて仕草をせずともガシッと断る。
「ぐすっ、すみません」
「え?泣き出した……嘘でしょ。よわ」
言い切る前になんとか口を閉じた。まるでこっちが泣かせたみたいに見えるから、お茶会から離れて欲しい。もう、ゴタゴタはうんざりだから巻き込まれたくないのに、なんなんだこの子。
自分たちは一人残らず初対面だ。泣いて慰めてもらって、解決してもらおうという魂胆?
「帰ろう」
付き合ってられない。もうお菓子の家も作ったので、あとは滞在場所へ戻るだけ。立ち上がると聖女たちを足す。彼女たちも同じような場面に立ち会ったことがあるのか、苦笑して立ち上がる。
「……え、あの」
ぐすぐす泣いていたのに顔を上げて、こちらを見るがティータイムテーブルをなくさせた。亜空間にしまいこんだのだ。
「では、これにて」
まとめ役がさらりと見なかったことにして、頭を下げる。全員、やれやれと顔に出てないけど雰囲気が目に見えた。
「ま、待ってくださいっ」
涙は引っ込んでいたのか、すぐに追いかけようとしていた。涙はどこに行ったのかな?嘘泣きなの?
この国は問題あるみたいだし、早めに帰った方が賢明。関わり合いになったら終わる。
「帰りましょうか」
「はい」
「はい」
皆の気持ちは一つになっていた。花を咲かせたら帰ろう!と。
「お花をいくつも予定しておりましたけれど、一つにいたしましょう」
聖女たちは一様に頷きあう。この学園も嫌に思う。空気が澱んでいたけど知らないふりをした。誰も関わり合いたくなさそうだったからね。
普通に相談すればいいのに、何故か案を取り戻そうとして泣いてこちらに配慮なしな態度が、顰蹙を買ったのだろう。
聖女らの心までは見通せないが、関わるととんでもない地雷に当たると皆が薄々感じたのはわかる。
ペコラが集中的に絡まれたのは年下で一番幼いと思って、懐柔し易いと思われたのかも。残念、一番懐柔できない類いの聖女であり人間不信だ。
「なんだったのかしらね?唐突に泣き出して……聞かれるのを待っていたのかしら?」
「どうでしょう?そういえば、ちらりとペコラ様に視線を寄越す回数が多かったような。単に年下の子が混じっているのが気になって見ていただけかと思いましたが」
思案した顔つきで悩ましげに息を吐く各自両名。そんなに見ていたのか。周りを見ていなかったので気にしてなかった。殺気とかならスキルが反応したので、そのような感情はないらしい。
「可愛らしいと見ていたわけではなさそうね」
「言うことを叶えてくれ易いと狙われたのでは?」
「そうね」
「あなたが年下の頃も、一番叶えてもらいやすそうだと話しかけられていましたものね?」
ペコラより年上だが、周りよりも年下の方の聖女が身に覚えがあると肯定する。甘く見積もられているのだ、つまり。
そんな年下であるが故のトラップがあるなんて知らなかった。来襲した侯爵夫人もそれだったのかもね。
声をかけやすいとか、経験を積んでいないから受けてもらえるかも、情に訴えたらやってくれるかもしれないをやる者たちが後を経たないらしい。
これが新人で本当の年齢だったら引っかかるだろう。悪意を知らない子どもなら余計に。
「怖いね、アルクレイ。私が逆に嵌めるべき案件の人たちに聞こえる」
「準備運動でも始めるか」
ノリが良い相棒にテンションも上がる。副会長から距離が離れて皆が安心したところで、今後は無難に対応しようということになる。副会長には聖騎士らに壁になってもらうしかない。というか、接近禁止扱いみたいなものだ。
恐ろしい学生が副会長をやっている。王子も会うのが嫌だ。変なのと変なのしかいないのかと頭がクラクラする。
「情緒が安定しない」
「婚約者の王子は何をしておられるの?ああいうときに補佐をするかメインを張るべき事態ではないかしら」
聖女たちは困ったと憂鬱なため息を吐く。ああいう類の人は権力に頼る癖がある。
副生徒会長の立ち位置と婚約者が王子というので、ペコラのイメージは高飛車だったり誇りの強い女の子が婚約者に冷遇されており、敵前逃亡で難を逃れることをしたりするものと。
婚約者の浮気を暴いて、大人の対応で冷静に断罪したりするものが浮かんだ。
けれど、普通の学生の女の子だったので今回はただの子どもが婚約者に悩み追い込まれているけれど、親に相談できないと思って他人のこちらへ厄介な事案を持ち込もうとして、事態を大きくして助けてもらおうとするもの。
聖女が巻き込まれればいくら王子でも進退は免れないし、婚約はなかったことになるだろう。ペコラはその思惑をあの人が企てている前提で様子見することにした。




