19双子のあの子が不法侵入で突撃してきたが周りから顔が似てないと言われて笑いが止まらない件について
言うことがそれなのが遅い。あまりに遅すぎてあくびが出た。そのセリフは森に捨てた頃に出すべき言葉だ。
捨てる前と言いたいところだが、誰も後悔してるようには思えないから何かしら理由をつけて捨てようとするだろうし。
仮にペコラたち双子のどちらかの聖女ではなかったとして、捨てなかった確率はとっても低い。ペコラは片割れをいじめていたり、いびっていたと自称して被せていた。
なので、特別な存在と思わされていた親たちが手を緩めるわけがない。
「なんで来たの?」
試しに質問してきた。
「聖女なんだから雨を止ませて」
「言葉遣いがダメ。敬語は?」
「はぁ?わたしはあなたのっ……ぐはっ」
アルクレイが言い終わる前に片割れの顔を踏んづけた。数メートルくらいから跳んだみたいで、重力がいい仕事をしてくれる。
「ひ、あ、ひ、な」
何かを話そうとして顔が痛いからか言葉にならない。世間では格上の聖女に、あんな言葉遣いをしてこれで済んだのは幸運だ。皇帝に追加で全て開示するから刑を受けるだろうけど。
「案内人としてお前がやったことは許せなかった」
アルクレイはまた浮かび上がる。バカなことを言ったら落下するぞと目に見えてわかる言外の移動に、あの子は黙り込む。
「うーうー!うーうー!」
舌を噛んだのか呂律が回らなくなった。どっちみち牢屋で過ごすのだからそのまま口内炎になればいい。
今まで散々バカにして蔑んだ自らの舌がやってきた罪が今になって、痛みを伴ったなんて……運命を信じてしまいそうになる。
「報いを受けて報われた」
語呂もいいし、アルクレイももう一度やる気で可愛いお尻をどっちり丸くして、いつでもラビットメテオできるようにスタンバイしている。
「いかがなされました!?」
「不法入国者かもしれません」
聖女の担当者が走り寄ってくる。聖女によって担当者がいるらしいが、ペコラは自炊や自活しているのでお役御免なほどやることがない人。
その人が慌ててやってきて、似ているとはもう言えないくらい風貌が変化している女の子を見た。
「え、誰でしょう」
「故郷にいたかつての元家族です。姉妹の一人でした」
双子であることは常識。担当者は言葉をなくして何度も見比べる。
「あ、の、え?双子ですよね?ご本人なのですか?偽物、なのでは?すみませんが似ておりません」
「え」
双子の子があっけに取られた表情を浮かべる。ついに聖女としてだけではなく、双子としての顔も偽物と断じられてしまったようだ。ふっと口元が上がる。
「よかったね。もう聖女だとか、個性を出そうとしなくても誰でも見分けられるってさ」
当時、彼女は聖女と思われたくて必死だった。たった一人の姉妹の一人を葬り去るほどに。
今はもう自ら前に前に出なくても、聖女ではないと知られていて、さらに真の聖女を殺そうとした禁忌の双子とわかる。二度とそっくりと言われることはないだろう。
双子なのだから聖女と言い続けて、我を出そうとせずとも顔を見ただけで偽聖女だと皆は知ってくれる。
「おめでとう。願いは叶ったってことで」
聖女ではないとわかっていたから、あんなに必死だった。今では偽聖女の聖女殺しと有名人。だからペコラは、この子と間違われることもない。
「や、いやっ、いやっ、ちがう!私はあなたと双子でっ!同じ顔でっ!」
「あなたに双子はいない。あなたが森に捨てて殺したから」
「あ、ちがう、ちがうっ、殺してない、生きてるっ、生きてる、ここにいるのにっ」
首を緩く振る。死亡届を見せつけた。顔にスッと。
「こ、これっ」
双子の子は信じられないといった顔を浮かべているが、それはこちらがたくさん言いたいんだけどなあ?
「覚えてるよね?わたしの死亡届!ほら、ここ、見て見て。名前書いてるでしょ。ペコラって。日付も」
名前を指差し、森に捨てて死んでしまうだろう時期の日付が印字されていた。
「あなたの死亡届も今すぐ作ってみせようか?」
「!!!!」
言葉だけで怯えと死の恐怖を抱く片割れ。その絶望感をペコラは思い出す前に抱き、覚醒したのだ。作ろうかと言っただけで多大なる心の傷を作る薄っぺらさに、死亡届を出すのをやめる。
「怯えるな!私は実際死んでもいいと捨てられたっ!」
「ひ!?な、何よっ!?」
「なによ!?親を諭して子どもを捨てさせるあなたは聖女どころか悪魔だ!恥を知れっ!」
「あ、せ、いじょに、私が」
ペコラは職業スキルを解放して怒火を燃やす。
「聖女?なりたかったら勝手になっていたらいい!私を巻き込む理由はどこにある?自分の身に置き換えることもできないの?わたしは聖女になりたいから森に捨てると、今から捨てさせるけど!?いいの!?わかった!捨てる!」
ペコラは衝動的に双子を森に転移させた。ついでに両親も同じところへ移動させて放り出したら全員尻餅をついてお尻から落ちる。
映像を投影させる。この映像はペコラとアルクレイしか見えないので、周りは見えない。
聖騎士や担当者には家に帰したと言っておいたので、彼らは聖女の言葉に従ってなにも見なかったことにした。
豪雨の国の森は今や、土色の水たまりだらけの場所に成り果てていた。そこにダイブしたので服はドロドロだ。雨はそこから容赦なく体を打ちつける。
「え?なに!?」
「家にいたのにっ」
久しぶりの両親だ。残された方の娘の顔を見て目を丸くしている。王城に無理矢理連れて行かれて会ってなかったらしくどうしていたのかと目が言うが、その前に屋根がある場所を探すのが先だと慌てた。
彼らは3者がバラバラに動き洞窟を見つけると雨宿りする。この雨は止まないので雨宿りではない。
「なんなんだ」
「どこに行っていたの?」
「ペコラのところに、王に、謝るまで、帰ってくるなって」
王の無茶振りシリーズは多岐にわたる。今回は未成年を隣国まで行かせる、といったミッション。遂行できるかと突っ込んだ。せめて、お供をつけておこうよと思う。謝るどころか雨を止ませろと命令してきたんだが。




