16「誰が口を開いていいと言った!?そんなことさえできない者が当主を名乗るな!剥奪だ!」「「え?」」
アルクレイが羽をぴこぴこさせながら、辛辣な評価を下す。彼らは今まで高位貴族として様々なことを感受していたから、その分の落差で耐えきれ無さそうだ。この子どもはどっちなんだろう。親にも興味なさげだし。
ウサギの鼻をぴくっとさせて、もちもちとパフェを食べ出すアルクレイ。白玉が気に入ったらしい。和風もハマったようで今度和風をコンセプトにしたものも植えようかな。
「な、なんだこれはっ」
夫婦がやらかした国の王に手紙と本人たちが届けられたシーンだ。王は仰天している。即裁きを下せるように外交官が城に夫婦らを留めており、子どもは家に帰らせていた。
ペコラも同じようなことが起きたら怒るのは当たり前なので、やはり手紙を読んで怒られていた。彼らはそれでも反省する素振りさえない。反省する心を持ち合わせてないから。
「聖女のところへだと!?」
ふざけるな!と二人に向かって怒鳴るが、世間から甘やかされた二人は相手の怒りを本気で受け止めるわけもなく。
「大丈夫です」
「私たちは悪いことなんてしてません!嵌められたのです」
へらへらしてる。それに再度キレる男。甘やかしたツケだ。
「パフェ農園に行ってないと?」
希望を見つけたような顔をするが、妻の方は行きましたよと正直に答える。会いた口が塞がらない王。
「言ったんじゃないか!?騒いだと書いてあるが?」
「騒いでません」
「……本当にか?」
そんな王を絶望に投げ入れるのはその時のことを写している映像魔法。試しにと初めて見る魔法の道具を起動させて見てみると、婦人が聖騎士らに怒鳴りつける姿が誤魔化しようもなく映り込んでいる。
今にも王が発作を起こしかけていた。
「こ、こんな魔法を使う、聖女、に……」
フラァ、となって目頭を抑える。椅子にぐったりとなる様子をまだヘラヘラして見ている二人。危機感を持つ生活を送ったことがないので、経験則がない。こうして笑っていられるのも今のうちなのに。
「な、な、な!」
あまりに笑うから王は我慢ならないと、二人を牢屋に入れるように指示した。それでも二人は呑気にそんなことはされないと思い冗談ですよね〜、と述べた。
「誰が口を開いていいと言った!?そんなことさえできない者が当主を名乗るな!剥奪だ!」
堪忍袋の緒が割れた声に、彼らはようやく首を傾げて不思議そうにあちこち見る。冗談ではないのか?と疑心がやっと生まれたようだ。
「え?」
「っえ、あの、私どもは単に旅行をしに。聖女のところへも」
「聖女?貴様ら程度が呼び捨てにするな。聖女様、だ!そこから敬意をなくしている!呼び捨てにするな!いいな?」
王の額に何本もの血管が浮き出る。
「え、ええ」
「聖女、様……に、バルーンルームを見せて欲しいと、子どものためにと思ったのです」
「そうです。妻は」
「今度は子どもになすりつけるのか?」
呆れた声音が部屋を満たす。少しずつまずいと感じているのか、言い訳じみてきた。今頃なのは遅すぎる。
「い、いえ」
心情が悪くなってはいけないと、慌てて頭を振る侯爵。しかし、もう取り繕うのは手遅れ。
「お前は何をしていた」
「わ、私は皇帝陛下にご挨拶を」
「夫人から目を離したのか。事前に会いに行くと聞いていたのか?嘘を吐くとさらに罪を加算するからな」
威圧感で睨まれて涙目になる男。男の涙目は、心を動かさないのだ。
「そ、れは」
「はっきり言え。はいかいいえで済むだろう」
自白しているような反応だが、侯爵は妻を庇うのか否かという瀬戸際。
「あなた……」
妻の言わないでと言いそうな声音が、夫をかすかに目覚めさせる。
「き、聞きました」
「そうか……聞いていても聞いてなくとも罪は変化しないが」
「「へ」」
二人の魔の抜けた揃った返事に王は眉を寄せる。
「事前に知っていなくても聖女と皇帝に叱責された事実は変わらない。侯爵家の人間であることも。よって、罪はやらかした内容で裁く」
至極当然のやり方だ。知っていても知ってなくてもやらかしているので、そのことで罰を受ける。侯爵が知ってようが関係ない。
「な、なぜ?正直に告白したのに」
「はぁ?何を甘ったれているのだ」
ここに来てまでなお、素直さで減刑されるわけもなく証拠が手元にあるので正直に言ったところで変化はしない。
「あ、甘ったれではないです」
声を小さく反応も小さい。
「頭が弱いと言っている」
「な、そんな、ひどいわ」
「は、はぁっ?私どもは弱くなどありませんっ」
王ははあ、と首を振る。
「不敬罪などと古臭い言葉を使いたくはないが、お前たちはここへ来たときから私に対して、大したことがないとこちらへ示している」
「我々は」
「そんなことはありません。勘違いです」
この人たちにあるプライドは、訳もわからず持ち寄っているみたい。頭脳とプライドが離れすぎている。そんなんだからこうなるのだ。
ペコラから見ても、王族を相手に裁かれることはないと鷹を括ってきた。今までも迷惑をかけてきたが、爵位が強くて皆が尻拭いしてきたのかな。
忖度だ。完全にそのせいだ。
「喋っていいと言ってないのに勝手に話すのは貴族としてマナーを軽視している証だ」
「え、あ」
二人とも思い出したのかアッと顔つきを変える。
「そんなふうに言葉を捉えなくても」
「そうです。私たちは遊びに行っただけなのに突然、捕らえられて」
「突然……?」
「「はい」」
ハイッと元気よく返事をする者たちにイライラしてくる国王は、この数分で何度も血管が破裂しそうな顔をしている。
「聖女の農園に先ぶれもなしに向かっただろう?」
「だって、子どもが行きたいと言うのですから」
「行くくらい普通では」
行くまではいいとして、入れないなら騒ぐ行為に抗議が来ている。王はもうダメだなこの二人はと、即刻判断を議会に投球することにした。
「もういい!牢屋に入れておけ!」
「ハッ」
兵士たちも、聖女にドストレートにまっすぐ向かっていた馬鹿たちを早く入れねばと、責務を今年一番に感じながら全うする。腕を掴むとギャアギャアと言い出す二人の腕を捻っていくと「ぎゃあ!」と一際強く悲鳴をあげた。あれは絶対に相当痛い。




