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15待っているのはもう二度と戻れない生活。優雅に暮らせず甘ったれたことを言ってもお世辞のままに聞いてくれる人間など現れない

 学食といえばカレーなのだ。カレーを帰ったら食べよう。今日はここにあるものしかないので、Bランチを頼んだ。ランチの中身は一般的な魚料理で美味しかった。


 帝国の料理は他国から見てかなり洗練されており、ペコラも時たまレストランに入るほど。アルクレイもお気に入りのお店に行きたがる時は共に行っている。


 アルクレイ単体で歩き回ることがあるので、そのときにお店の開拓をしているらしい。アルクレイは案内人なのでこの世界からしたら強い。だから、攫われる心配もない。

 仮に攫われても転移で移動すれば済む。


「うまい」


 Bランチについてきたサラダをもりもり食べた。ランチの野菜を根こそぎ食べ出したので、味気なくなるけれど気にせずに完食した。

 これもアルクレイの個性だととっくに受け入れている。わざとじゃなさそうだし。それと、聖女たちもこぞってアルクレイに野菜サラダを差し出す。


「わたくしのものもどうぞ」


「いつも撫でさせてくれていますので」


「わたくしたちも食べませんの」


 アルクレイは受け取ると野菜サラダだけを食べ出す。その様子を蕩けた顔で見遣る聖女たち。うさぎのふれあい時間だ。食べているところをみたいんだなぁ。


 身に覚えのある光景と感覚に、この世界は娯楽が思ったより少ないのでアルクレイの見た目で癒されるのは、当たり前の価値観なのだろうと予想する。ぱりぱりと咀嚼する音を顔を真っ赤に染めて聞き惚れる面々。

 視覚と聴覚と体験により、益々ウサギへの可愛らしさがアップする。


「可愛らしいわ」


「もっと聴きたいわね」


 食堂にウサギ鑑賞会が生まれる中で、ペコラはウサギにしては凄く大食いだなと方向性の違うことを考えていた。



 *


 パフェ農園に新作を生やそうかなと思案する女が一人、寝転びながら一人会議を開いていた。


「抹茶かな」


 決定したものを口にする。


「あんこは入れるのか?」


 アルクレイが散歩終わりに声をかけてくる。彼なりにこの農園を気に入っているようだ。


「あんこは癖があるから……オプションにしようかな?」


「それはいい。おすすめと記しておくことは忘れないようにしろ」


 単に彼が好きなだけだが、好きだからこそ誰かに教えたい欲は理解できる。頷いておいた。あんこは美味しいけれど、食べてみないと黒い何かなのだ。


「学園のレクリエーションも無事終わって、おれたちも暇になったな」


「元々なにもなかったら暇でしょ」


 ふふ、と笑ってペコラは彼の毛並みを撫で付けた。ブラッシングをやる。ウサギ本人はかなり良さげに受け入れている。うさぎではなく案内人なのでプライドがないながらプライドらしいと、前に語っていた。


「なにしようかな。抹茶パフェは生えるまで時間かかるし」


 腕を組んで頭を悩ませる。なにか自分でやれる範囲でと思っていると例のクレーマー貴族夫人たちのことが思い浮かぶ。自国に戻されたと聞いている。


「あの他国に来たのに自国に連れ戻された二人を見よう」


「少し気になってた」


 ウサギの彼も頷く。あんこだけを食べていた。あんこを話題にしてあんこを急激に食べたくなったのだろう。ペコラもトーストを焼いてあんことバターを乗せる。ついでに二人分作ってアルクレイへ渡す。耳をぴこぴこさせているので喜んでいる。

 あんこを二人で味わいながら例の他国貴族らを見た。


「この度はトルトオン侯爵家がご迷惑をおかけしまして」


「本当に迷惑をかけられた」


「ぐっ。申し訳」


 外務大臣らしき人が他国の外交官に嫌味でもない本音を投げかける。


「どうしてくれる?かの聖女は呆れて、聖騎士たちも不愉快な気持ちにさせられた」


「王から対応を一任してもらっております。彼らを自国に送還いたします」


 この場面は外交官がの彼があの夫婦を迎えに来たところだな。めちゃくちゃ怒られている。そりゃ怒られる。土地という大きな枠の中で、王たちよりも格が上でいなければ安静に過ごせない相手に、粗相をやらかしたのだから。


「入国禁止だ。一部のものに関しての関税を引き上げることになった」


「な……そ、れはっ」


 相手国の人は何が言いたそうだったけれど、何も言えずに項垂れる。やらかしたのはあちらだから言えるものもないのだろうな。代わりに合流した夫婦たちに思いっきりがなりたてた。


「トルトオン侯爵!余計なことをしてくれましたなっ!?」


「!?……な、なんだというのだ」


「まぁ、怖いわ」


 妻の方は見てないからいいとして夫は映像を見たのだから、妻が何をしたのか知っているだろうになにをと言いたいのは外交の男だろう。ふざけんなと思うのは当然だが。

 関税の上乗せは洒落にならないもん。ペコラも大変なことになるんだろうと予測できる、ヤバ目な事態だ。


「ことは国王に伝えますが!あなたたちの処分は重いものになるでしょう!今のようにっ、反省の気がないことも伝えさせもらいますからね!?」


「うるさいぞ。耳元でガーガーとがなり立てるなっ」


「そうよ!品がないわ!」


 品がないわという二人に殺意を抱いた目を向けて、外交官は共に連れてきていた兵士たちに言い無理矢理二人を馬車に乗せる。


「こちらへどうぞ」


「なにするの!」


「離さんか!私は侯爵だぞ!?」


「そうよ!王家の血がうちの家系には入ってるんですからね!」


 妻の方は嫁なので王家の血筋はないだろう、と後ろから歩く外交官が鼻で笑う。

 夫妻の子どもはあとから別の馬車に乗せられるらしい。連座される次代だがどうなることやら。彼らは反省などしなさそうだけどね。


 ペコラは映像をそのまま追随していく。

 子どもはつまらなさそうに兵士と外交官と共に乗っているので、空気的に暗い。今から爵位が落とされるのだけれど、子どもはそれでも気にしなさそうだ。


 カタカタ動く中で、屈強な兵士に板挟みにされている兵たちに囲まれる侯爵夫妻。今も喚いて文句を言っているが、その兵たちに殺意に塗れた目を向けられると声を止めた。

 帰国したら貴族のままではあるがかなり地位を落とされるから遠慮しなくていいと言われていたから、強気で睨みつけられるのだ。


 夫婦たちが帰ってしまえば、何が待っているか予測してもいない。待っているのはもう二度と戻れない生活。優雅に暮らせず、甘ったれたことを言ってもお世辞のままに聞いてくれる人間など、現れない。

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