105赤ん坊と焼き芋。赤ん坊がやってきた
話を仕入れた先は、何気ない会話名の中であった。いつものように聖女たちにお菓子や映像を渡していると、聖女たちの華やかな声の中に珍しく赤ん坊を産んだ聖女のことが出てきたのだ。
相手に聞かせようという意思はなく、ここ最近のブームでありホットなニュースらしい。アルクレイも最近妊娠した聖女が出産したとか、薄く聞いたような気がしないでもない。正直言って流し聞きしていたので記憶が曖昧。
ふーんと言ったのだと思う。とくに興味を感じるわけでもなかったら、全ての返事がふーんになる。ぼんやりしている間に話題はさらに深化していく。
赤ん坊を見てみたいと周りは羨ましそうにしている。子供なんていいものではない。なんてことを言おうものならば、周りからあなたも子供でしょうに、という生暖かい視線を突きつけられるのがわかっているから、言わぬが華。
噂の聖女が目の前に現れたのは、それから二週間ほど後だった。赤ん坊の声というのは結構響くので、アルクレイが聞こえると言って向こうに行きたがるので、無関係な気持ちと野次馬気分で後をついていく。
ほあほあと聞こえる高い声が、聖女たちの声の間から聞こえる。こんなに女々しいのに聞こえるなんて、赤子の声の質とは不思議だ。普通なら埋もれて聞こえないだろうに、母親などを呼ぶために特化している説は濃厚だ。
ついに集団が目に見えて、わいわいとした声がさらに聞こえてくる。コチラに気づいた何人かが、手招きした。華やかな空間に気後れしそうになる。陽気なのは得意じゃないのだ。
「まあ、ペコラ様。コチラにおられたのですね」
「赤ちゃんを連れてきてくださいましたのよ」
「名前を受けて欲しいなんて依頼もあるけれど、私は無理なのよねえ」
「私も。ご両親がつけて欲しいわ」
赤ん坊にまつわる依頼なんてものもあるのか。絶対に受けたくない。相性がすこぶる悪いのだ。子供に近寄るなんて絶対に無理。鳥肌がブワッと広がりかけて、深呼吸で落ち着かせる。
「ペコラ様も見ます?」
「え?いや、いい……」
近寄るのも無理なのに、顔を見るなんて余計に無理。首を振ると聖女たちは微笑ましげにフフフと笑う。子供が赤ん坊に遠慮しているとでも思ってそうだ。そんなことはないが、何も言わない方がいいのだろう。彼女たちの好きなように想像させておけばいい。
「お可愛らしいわ。あ、アルクレイ様はどうなさります?」
「見る」
「見るの?」
「おれは別に苦手じゃない」
相棒が無理と腰が引けてるのなんてなんのその、彼と言えばこちらの様子をなかったようにして赤ん坊のところへ空中を無音で進み、見に行く。あとでどうだったか聞く程度なら大丈夫かも。どんな感触なのかとかも聞いておきたい。
「可愛いですね。ウサギと赤ん坊の二つは癒されますわ」
「もふもふですアルクレイ様」
「赤ん坊がアルクレイ様の耳を掴んでますわねえ」
実況してもらえるからわかりやすい。耳を触ってもなんとも思わないのは初耳だが。結構許せる範囲があることを知った。ペコラは触られるのが好きじゃないので、年齢なんて関係なく避けてしまうだろう。
「いい二つを見ると永遠に見てられますのね」
「可愛らしいわぁ。疲れた気持ちがなくなるのね。なんだかやる気も浮かぶし」
「ヒーリング効果だな」
アルクレイが説明して聖女たちは「へえ」とさらに盛り上がる。あそこだけ温度が違う。聖騎士たちもアルクレイの言葉を聞いて、フンフン頷く。
うさぎは何故か物知りであるというのが、共通認識なのかもしれない。知らない間に渡り歩き、交友を広げているみたいだし。
ペコラとは正反対の社交性を持っているらしい。そうでもなければ、彼がゲームの案内人に抜擢されはしないだろう。コミュニケーション力がカンストしているだけはある。
「最近、母乳を飲まなくなってしまって」
「え?」
母親の聖女がここに来たのは見せるためであるが、相談もしたかったのかもしれない。医者に見せても、他のことを試しても余り飲まないと悩みを打ち明ける。
「私たちは産んだことがないから、力になれるとは思えないけれど」
ペコラも赤ん坊の育て方など知らないので、何も言えない。自分から出てきたら驚かれるだろう。母乳を飲まないとなると、どうすればいいのか。話を終えたアルクレイと家に帰ると相棒が、そっと話しかけてくる。
「ゲームイベントで仲間が赤ん坊になってしまうストーリーがあっただろ?その時に、大量にミルク缶をゲットするミニゲームをやったのを覚えてないか?」
「イベントストーリーは薄すら覚えているけど、ミルク缶までは覚えてない」
「そうか。アイテムボックスに入ってるそれを、聖女にやればいいんじゃないかと思ってな」
「言わなくても、あなたが渡せばいいんじゃないの」
別にアルクレイにはアイテムボックスを使う権利があり、共有財産として同期させている。彼にも取り出せるのだ。
「お前から渡せばいい」
軽い感じで言われるが、いいことをするのは好きじゃない。この世界に貢献しているみたいで嫌だ。今の世界を壊したい派なので何かするなんて馬鹿らしい。首を振り拒否を示すとフッと笑う相手。
「じゃあ、連名にしよう」
彼の言葉を聞きながら、芋を木を集めた火に入れた。勿論、アルミホイルに巻いて。聖騎士たちがなにをしているのかと、パフェ園の真ん中に鎮座する焼き芋風景を物珍しげに見てくるので、大量に入れていく。
ペコラは長いトングを手に軍手を付けて、更に焼き芋を乗せると熱々な包みを破る。香りにまた寄せられてきた面々に、好きに食べていいと言う。
「わ、ありがとうございます」
「あつっ、あつつつ!」
中に熱々の芋というものがあるので取って勝手に食べていいとも告げながら、ホクホクと甘い種のものを口に含む。
「おいひいです!」
「ふぁ、うまい!」
聖騎士たちに危険などないこの場所では、こういったことが娯楽になる。人通りは皆無のただのパフェしかない木々が、毎日の話し相手にしかならない。




