表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マリアナの女神と補給兵――硝煙の魔法と起源の魔人――  作者: 月立淳水
マリアナの女神と補給兵Ⅲ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

77/82

第五章 最後の任務(5)


 シャーロットの悲鳴を聞いたのは、アルフレッドもアユムも完全に同時だった。


 彼女に何かが起こった!


 この思考に、二人の心は乱れた。

 敵の銃口から延びる射線が巡回する機械室の中で、アユムは動きたくても動けない。

 でも、動かなければ、ロッティが。

 葛藤は震えとなって突撃銃の先にまで伝わった。

 セシリアに視線を送る。

 ついで、隣のエッツォに。

 三人で一斉に飛び出せば、一人くらいはシャーロットのもとにたどり着けるかもしれない。

 それに賭けるしかない、とアユムは考える。


 ――同じとき、アルフレッドは、目前のフェリペの存在を忘れる。

 何とかしなければ。

 一対一の戦いを忘れ、思考は現実から乖離する。


 その瞬間を狙われた。

 フェリペが大きく踏み込み、強烈な左フックをアルフレッドに向けて振り下ろした。

 ふいをうたれたアルフレッドの頭部は、防弾ガラスにしこたまたたきつけられる。ガラス表面に額と鼻の頭の皮脂が残っている風景が、ずるりと上に流れる。


 その瞬間、ガラス越しに彼は見た。

 そこにランプを明滅させる、黒い箱を。

 ――エクスニューロ。


 防弾ガラスの向こう、そのさらに奥の、薄いガラスで区切られただけの小さな区画に置かれたそれは。


 ……敵の、彼女らの、戦う力そのもの。


 なぜ、今まで思い出せなかった。

 休もうとする意識を引き戻し、ガラスの縁に両手をかけて、肺一杯に息を吸い込む。

 そして吐き出すのと一緒に。


「アユム! エクスニューロを破壊しろ!」


***


『アユム! エクスニューロを破壊しろ!』


 さすが、アル。

 すっかり忘れてた。

 そうね。

 あれさえ破壊してしまえば、あいつらはただの人。

 問題は、あそこまで、あれが見える位置まで、走らせてもらえるかどうか。

 ――たぶん、無理ね。

 でも、やるしかない。

 ロッティの悲鳴。

 あの子はもう――そんな気持ちを抑えこむ。

 まだ、間に合うはず。


 ロッティとアル。

 なんて素敵な二人。

 この二人だけは、絶対に、助ける。

 さあ、息を吸い込んで。


「私が行く! セシリア、エッツォ、援護して!」


 二人の返答も聞かずに駆け出す。

 敵からの攻撃にも対応するため左を前に半身で走る。

 遮蔽物の無い通路に出たとたん、いくつもの銃口がこちらを向くのに気がつく。

 銃口から伸びる射線が見える。

 右腕に一つ、右腿に一つ、もう一つは何もしなくても当たらない。


 左に体を逸らしながら、さらに突進する。

 急な踏み出しに足の筋肉が悲鳴を上げてる。

 ガラスの部屋のエクスニューロ本体は、ラックに隠れてまだ見えない。


 射撃可能になるまで、あと、八歩。


 七歩。


 右肩に痛み。

 あら、銃弾だわ。

 困ったわね。

 これがエクスニューロの限界ね。

 いくら射線が読めても、避ける体が追いつかなきゃ意味が無いものね。

 ああ、足がだるいわ。


 そう言えば、感覚遮断の思考オーダーなんてあったわね。使う日が来るなんて思わなかったけれど。

 エクスニューロ、オーダー。右肩の痛覚遮断。

 ……ふふ、便利な機械ね。


 あと六歩。


 射線が四つ見える。

 四つとも、私の胴体を貫いてる。

 ……なんだか、避けるのも面倒になっちゃったわね。

 前へ。


 残り五歩。


 一つの射線が消えた。

 ああ、セシリアがけん制してるのね。

 ありがとう、セシリア。

 足の筋肉にも、もうひとがんばりしてもらわなくちゃ。


 あと四歩。


 痛っ。

 今度は右わき腹。

 エクスニューロ、オーダー。右わき腹の痛覚遮断。

 もう目の前。銃を構えて。


 最後の三歩。


 左肩甲骨。

 エクスニューロ、オーダー。左半身の痛覚遮断。


 二歩。


 っ。

 右の腰に、痛み。

 エクスニューロ、オーダー。全身の痛覚遮断。


 一歩。


 残り一歩。


 意識だけ保てればなんとかなる。

 私の脇を潜り抜けて行った弾丸が、派手にガラスを破る。

 お手伝いありがとう、名もなきウィザードさん。


 ゼロ。


 棚の陰から視界に入ったターゲット――エクスニューロは、五つ。

 残弾は六。


 一つ、二つ、三つ。


 なぜかしら、視界が狭い。

 エクスニューロ、オーダー。視界を拡げて。


 四つ。


 エクスニューロ! オーダーよ! 視界を拡げなさい!


挿絵(By みてみん)


 五つ。


 外した。

 もう一度。


 ……五つ。


 当たり。

 ターゲット・オール・クリア。

 ふふ、ロレッタに、私の活躍、自慢しなきゃ。


挿絵(By みてみん)


 ……なぜ目の前に床があるのかしら。


 そうね。

 私は、眠るの。

 立ったまま眠るなんて行儀が悪いものね。


 硬い床だこと。

 ゆっくり眠れるかしら。

 それじゃ、お先するわね。


 ありがとう、アル。


 元気でね、セシリア。


 さようなら、エッツォ。


 ――がんばってね、ロッティ。


***


 振り向かない。

 何があったかなんて分かってる。

 でも私は振り向かない。


 私は、アルフレッドさんと約束した。

 私のこの狙撃銃が守れる人がいる限り、止まらないって。


 テーブルの陰から飛び出すと、空中をさまよう敵の射線がたくさん見える。

 でも、ふわふわと頼りなく漂っているだけ。


 そうよ。

 アユムさんが、もうやっつけちゃったんだもの。

 私は、シャーロットさんを助けに行くだけ。


「エッツォさん!」


 呼びかけると、エッツォさんも、飛び出す。

 すごく険しい顔をしている。こんなエッツォさん、初めて見る。

 ……私も同じ顔、してるのかな。


 鼻の奥が熱い。

 額の辺りが痛い。

 のどが苦しい。


 ――でも、進まなきゃ。


 放心してへたり込んでる五人のウィザード。

 もう、この人たちには興味は無い。

 さあ、もう一歩。


 ……部屋の中には、こちらに銃口を向けてるエレナさんと、伏せて震えてるシャーロットさん。


***


「シャーロット、しっかりしろ!」


 エッツォの怒号で、シャーロットは再び我に返る。

 自らの口から出た悲鳴に再び度を失い、心を恐怖が支配していた。

 危なかった、と息をつき、急いで対エレナのけん制に戻る。


 今度は立ち上がっても大丈夫のようだった。

 それは、セシリアとエッツォが同じようにエレナを圧しているからだった。


 ――アユムは?


 その疑問はすぐに湧いてきた。

 だが、彼女の全知の力は、なぜかその疑問に答えなかった。


「なぜエレナは動いている」


 エッツォが吐くように言う。


「アユムさんが壊したエクスニューロは五つでした」


 セシリアが短く答える。

 エレナのエクスニューロだけは、どこか特別な場所に置いてあるのだ。

 だから、エレナは魔人の力を失わず、彼らに対峙している。


 三対一の状況。


 少なくとも膠着ではあるし、どちらかと言えば圧せる側かもしれない。

 それでも、エレナの圧力はすさまじく、わずかでも気を抜けば、セシリアやエッツォは瞬く間に倒されてしまうだろう。

 シャーロットは再び、今度は相手をしっかりと視界に捕らえて、精神の戦いに没頭した。

 確かに、今度はシャーロットたちが圧していた。

 廊下に近づこうとするエレナの意に反して、それを防ごうとする三人の圧力は、ほんの数センチメートルずつではあるが、エレナを、扉の反対の部屋の隅に追い詰めるように圧していた。


「シャーロットさん――」


「任せて。攻めるタイミングは、あたしが射線で合図する」


 何かを言いかけたセシリアに、シャーロットは強く言い放った。

 セシリアはうなずき、狙撃銃を構える腕に力を込めなおす。


 エレナは時折射線をセシリアやエッツォの急所に当てる。

 だがそのたびに、シャーロットがその隙を突くぞ、という意志を発揮する。

 驚いて戻る射線。すると次に、セシリアがトリガーの指に力をかける。

 未来視に突き動かされるように、ほんのわずか、エレナは体を逸らす。その方向が、扉と逆方向になるのは、エッツォが油断無く扉側にサブマシンガンで弾幕を張るという脅しをかけ続けているからだ。


 エレナにとって、セシリアかエッツォを即座に撃ち倒すのは、容易い。

 だが、銃の反動だけは、魔人の力を持ってしてもどうにもならない。

 反動で動作が硬直した瞬間を、シャーロットにやられるだろう。

 さっき、何を思ったかシャーロットが突然撃ってきてその隙を突けたように。


 お互いを照準の先に捉えているのに、引き金を引けないジレンマ。

 シャーロットにしても、精神力でエレナを圧し続けるのが精一杯だった。


***


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
本作は三部作の「第2作」です。

第1作、第3作をお読みいただけるとより作品世界を楽しめます。

■第1作
魔法と魔人と王女様
本作の八百年後。ボーイミーツガールから始まる、王女と高校生の冒険! やがて、宇宙千年史に隠された、全知の知能機械・ジーニー、奇跡の反重力システム・マジック、星界を繋ぐ超光速航行技術・カノンの謎へたどり着きます。


■第2作
マリアナの女神と補給兵
本作。荒廃し見捨てられつつある、惑星マリアナ。戦乱の混乱の中、一人の補給兵が出会った少女は、死を恐れながら戦う女神だった。全知の力はどこから始まったのか。「最初の二人の魔人」とは。千年に渡る罪と絆の原風景。

■第3作
魔法と魔人と王女様:プリンセス・リーザ; The Seventh
本作の四百年後。政治と宗教の間で泳ぐ第七位の王女と、千年を生きる不死の伝説。譲れない信念のぶつかり合い、そして、裏切り裏切られる一人の科学者。やがてたどり着く歴史の真実、彼女が四百年後に繋いだものとは――ここから魔法は始まった
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ