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貞潔は記憶  作者: monoplayer
1章(現代編)
9/12

八話 三つ巴戦の女たち

~Her Side~


「水、いるか?」

「ええ、頂いておきます」

「…ぷはっ」


今まで、激しい運動をしていたからだろうか、じっとりと湿った身体に沁みて心地が良い

ベッドの脇に置いてある自分の携帯電話を取り、『彼』から連絡が来ていないか確かめる


「…ふぅ」


私が送ってから特に返信はナシ

少し、言い過ぎてしまったかしら…

後悔が頭を巡る

私は贖罪をするように返信が来なくなった携帯電話をじっと眺める


「どうした?男か?」

「…えぇ、そんなところです」


薄ら笑いを浮かべ、同じく携帯電話を弄っている男を一瞥した

くすんだ金髪に、いくつも穴の空いた耳、そして口から漏れでるタバコの臭い

まさに『いかにも』な風貌な人間だった

そして、そんな軽薄そうな男と一夜を共にした私もまた『いかにも』な人間であろう

名前も知らないこの男には、何も感情を持つことはない

ただ、自分の快楽のために利用しているだけだ


「悪い女だ。他に男がいるのに、こんなあからさまなナンパに引っかかるなんて」

「…ええ、そうでしょうね」


そう言いつつ、彼が口を塞いでくる

タバコの、臭い

多少の不快感に蓋をし、そのうち来るであろう快楽を楽しみに、この身をこの男に委ねた


~Her Side End~


………

……


(PPPPPPP…)


「五月蝿い!」


不快な目覚ましをがちゃんと切る

今日はどうしたものか

昨日全く寝付けなかったからか、倦怠感と眠気が全身を襲う

今は…8時ちょうど

あと5分くらいなら大丈夫か…


………

……


~Yui Side~


「すぅーはぁー…」


大和の家の前で軽く深呼吸

いつも通い慣れた景色だって言うのに、今日はなんだか違って見える


「よし…!」


(ピンポーン♪)

意を決してチャイムを鳴らす

…特に応答はナシ

まあ昨日もそうだったし、いつもの事よね…

(トントントン…)

次は軽くノック

…これも反応ナシ

うーん、まだ寝てるのかしら…

でも起きてても大和は無視してくることもあるし…うーん

どうしたものかと、適当にドアノブをがちゃがちゃ弄る

…ん?空いてる?

なんて不用心…

私は多少の申し訳なさを胸に、無視してくる大和が悪いんだからねという意味不明な言い訳を盾に、部屋に入った


………

……


「お邪魔しまーす…」


大和の部屋は琳ちゃんの部屋みたいに綺麗じゃない

でも、琳ちゃんのと同じような雰囲気を感じる

通販サイトで買ったであろう荷物が入っていたダンボールが部屋の隅で山積みになっているし、本はもう本棚に収まり切らず、床に置かれて積まれている

だけど、それだけだ

私物らしい私物はそれくらいしかなく、真ん中にポツンと机が置いてある以上には何も無かった

そして、彼は…大和はその奥で眠っていた


「zzz…」


もう…気持ちよさそうに眠っちゃって

私がどんな思いで今日ここに来たと思ってるの…


「…」


そっと大和に近づく

いつも見慣れた顔

…目の下にはうっすらと黒い隈のようなものが見える

大和も、寝不足だったりするのかな…

もう少し、顔を見たい

私はゆっくりと自分の顔を、大和の顔に近づけていく

…距離はもう5cmほど

昨日、琳ちゃんもこれくらいの距離まで近づいていたよね

少し、悔しい

あと少しで、あと少しで…大和の…


~Yui Side End~


………

……


(PPPPPP…)

携帯のスヌーズ機能だろうか…

気持ちよく二度寝していたというのに、アラームが鳴る

(五月蝿い…)


「うーん…」


そう悪態を吐きつつも、うっすらと目を開ける


「あっ…」

「ッ!?」


えっ…若木?

視界いっぱいに広がる若木の顔面

一瞬何が起こっているのか分からず、動揺してしまう


「な、何やってんだ若木!」

「あ、ちょっと…大和落ち着いて…」

「「痛ぁっ!」」


必死に若木との距離を離そうと、暴れるが、焦った彼女と額をぶつけてしまう


「「~~~!」」


お互い痛みを堪え、数分は床を転げまわった


………

……


「すみませんでした…」

「いえ、こちらこそ…」


漸く痛みが引いた頃

お互いに正座して向き合い、謝罪の応酬をしていた


「んで…若木…君はどうしてそう普通に部屋に入れないのかな」

「いやいやいや…私だって好きでこうしてるだけじゃないよ!」

「昨日は大和が違う人だと思って開けてくれなかったし、今日はチャイムとノックもしたのに寝てたじゃん!」

「確かに…そう言われると弱いな」

「でしょー?むしろ大和が私に謝ってほしいね」

「いや…寝坊の件は謝っただろ…」

「じゃあ、この話はこれでおしまい!」


…なんだかうまく言いくるめられてる気がするが、これをもう一回掘り返して不興を買うのも嫌だな


「そういえば、今朝は珍しいね?」

「え、何が?」

「大和ってさ、他の作業でなかなか部屋から出ないことはあっても、寝坊で遅刻とかって無かった気がしてさ」

「あー確かに…言われてみればそうだったかもしれない」


ちらりと自分の携帯を確認する

『彼女』からの連絡はない

…そうか、今日は彼女からの連絡がなかったから寝坊してしまったのか

昨日の会話でぶつ切りのような形で会話を中断したのがいけなかったのだろうか

いや、彼女はそんなことを気にする人間では…


「…大和?」

「あ、あぁなんだ?」


なんだか不安げな表情でこちらを見ている


「例の女の子、気にしてる…?」

「え、どうして分かった」

「えー大和。分かりやすぎるんだもん」


若木は妙なところで鋭い

なんだか、野生の勘っていうものが彼女にはあるみたいだ


「恥ずかしながらな。その例の女の子ってやつに俺は朝のモーニングコールをお願いしてたんだよ」

「ふーん。なんだかカップルがやるみたいなやつだね」

「だから、カップルとか付き合ってるって事は無いんだが」

「ふーん…向こうの女の子は実はめんどくさがってたりして」

「む…」


確かに…その考えは一理あるかもしれない

勝手に『彼女はそういう事を気にする人ではない』と偏見を持っていた


「確かに、お願いしたのは俺からなんだが、最近は断っても向こうが乗り気だったりするんだけどな」

「え?そうなの…それじゃあ、違うのかな…」

「ていうか、どうしてそんなことを気にする…」

「えっ!?それはぁ…」


あぁ…とても目が泳いでいる


「そうそう!お願いされた手前、向こうも辞めづらいと思うの!こっちが断ったとしても遠慮だって受け取られたかもしれないし!」


なんだか、取って付けたような理由だが、若木の言い分も一理ある


「そういうもんなのか…?」

「そうだよ!大和は女の子とぜんぜん関わってきてなかったから分かってないだけで」

「…じゃあどうすればいいんだ?」

「私が、これからモーニングコールをする!」

「えぇ?」


………

……


~Rin Side ~

彼と出会ったのは、確か…なんかの哲学の授業のグループワークだった気がする

この先生の授業はいわゆる落単で有名だった

15回ある授業のうち、グループワークのある授業を3回だけ出席すれば単位をくれるなんともカモな授業だった

朝方まで飲み明かしていた私は、眠たい瞼を擦りつつその授業に臨んだ

その時に、グループで一緒だったのが二人の男の子だった

一人はいかにも知的そうな寡黙な男の子

もう一人は、陰気そうな生気の無い男の子

私はいつものように、努めて明るく振る舞う

酒が完全に抜けていなかったからか、自分でも驚くほど饒舌だった

そんな私に、前者の子はおっかなびっくりな様子で私に接してくる

まるで、私の心の内を探ろうと必死になっているようだった

後者の子は、私の様子を見ると一瞬で、


「無理、するなよ」


そう言い放った

自分でも言うが、私はわかりやすい人間だと思う

多少なりとも私と仲良くなれば、化けの皮なんて直ぐに剥がれる

そういう時、多くの人は嫌悪感を抱くか、そのギャップに困惑した

でも、彼のように私を見通してもなお、何も態度を変えずにそっと寄り添ってきた人間は居なかった

チョロいと言えばそれまでなんだろうか

でも、これが私の初恋だった


Rin Side End~

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