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貞潔は記憶  作者: monoplayer
1章(現代編)
10/12

九話 岡宮との問答(前編)

1週間後…


「おっはよー!大和!」

「今日も来たのか…」

「それは当たり前ですよ。約束を守るのが唯ちゃんですから」

「こういうどうでもいい約束は別に守らなくてもいいのに…」

「どうでもよくない!」


あれから1週間後

若木は宣言通り、毎日決まった時間、決まった方法で俺の家を訪ねてきた

…正直なところ、とても助かっている

朝の弱い俺にはまだ誰かの介護が必要だった

その相手が若木なら申し分は無かった


「ほら、早く顔洗って着替えて!」

「今日は早いんだから!」

「早いか…?今日はテストも出席もない授業だろ?もっと、ゆっくり行こうぜ…」

「だめ!こういうのが堕落の始まりなの!」

「お前は俺のお母さんか」

「大和の服ってどこ?ここ?」


そう言いつつ、俺の家のクローゼットを物色する


「こ、こら!やめろ!」

「あ、これかな?…ってわぁ!」


どうやら下着が入っている引き出しを引き当ててしまったらしい


「なんでパンツなんて入ってるの!」

「入ってるだろ!普通!」

「大和のセクハラ魔神!」


理不尽すぎる…どうすりゃいいんだ…


………

……


「はぁ…疲れた」


あの後、若木とコントとも言えない茶番を繰り返して結局授業ギリギリになってしまった

軽く小走りになりながら大学を目指す

あんなに大声でやり取りをしてるんだ

いつか、隣の部屋から苦情が来るに違いない…

その時は菓子折りでも持っていこうか


「ん…?あれ?」


そんな適当なことを考えていると、若木がわずかな言葉を漏らす


「どうした、若木?」

「ほら、前」

「前?」


前方には、人影

道路と歩道の間にあるガードレールに座り、足をぷらぷらさせながら、空を仰いでいた

少し季節としては早いだろうか

でも、白のワンピースを着ていたその女は非常に様になっていた

だが…肝心の顔は見えない。だからこそ勝手に期待してしまうのだ

あの姿はまるで…


「里月…?」

「え?さつ…なんて言ったの?」

「…すまん。若木、前が見えないんだ」

「あぁ、そっか。大和、目悪いもんね」


そんなはずはない

ここに彼女がいて良いはずがないんだ

近づくと分かった…

彼女は…


「おはよ。小磯くん。唯ちゃん」

「り、琳ちゃん…」

「よ、よう岡宮…」


なんだが、空気が重い

そろそろ雪も解け、暖かい春になるというのに、ここの空気だけ5℃下がったような…そんな気がする


「今日も二人で仲良く登校なんだね。仲が良くて羨ましい」


岡宮と会うのは、あの日以来ぶりか

そもそも彼女は、大学自体に必要最低限来ない人間だし、他の課外活動で忙しいと聞く

だからこそ、必要でも何でもない日に、こうして早朝から会うのはとても珍しかった


「琳ちゃん…今日はどうしたの?今日は課題とか無かった気がするけど」

「それに、西川くんも居ないし…」

「別に…いつも西川君と行動してる訳じゃないよ」

「あと、体調が悪いから今日は休むって言ってたような」

「あ、そうなの?」


…そんな連絡は貰ってない

西川とはほとんど毎日連絡するが、授業を休んだ日には、勉強したいからノートとレジュメを分けてくれと言ってくるほど律儀な奴なんだが


「私はね、小磯くんに用があるの」

「大和に?」


そう言って、岡宮は俺の目を見据えてくる

いつも飄々としている視線とは裏腹に、今日に限っては真剣な眼差しをこちらに向けていた

そして、視界の端では若木も不安そうにこちらを見ていた


「…なんだ?」


絞り出すように、そう答えた


「…」


岡宮は何も答えない


「お、岡宮、あの、」


瞬きを一瞬

岡宮は、その数コンマで距離を詰めてきた

その距離は5cmほど

あの時の夜と、同じだ

視界いっぱいに広がる岡宮の顔

若木はどちらかと言えば垂れ目で、優しそうな印象を受けるが、岡宮は逆

少し吊り上がった目は、はっきりとした印象を彼女に与えてくれる

…こんな小賢しいことを言っているが、つまりは、彼女に見惚れてしまったのだ


「大和…」

「こ、こら岡宮!ここは路上だぞ!少しは遠慮を…」

「っ!?」


強引に唇を塞がれる

逃げようにも、無理やり舌を絡ませられ、無為に引き剥がすことはできない

周囲の人間はどう思うだろうか

バカップルのリピドー溢れる情事とでも思っていることだろう


「…はぁっ」

「…」


数秒後、漸く開放される

お互い、湿った目で見つめ合う


「…私ね、すごい不器用なの」

「どんな美辞麗句でも、甘言蜜語の言葉でも、私の心を表現する事はできなかったの」

「だから、こうして態度で示してみた…どうかな?」

「…やりすぎだ」


この場では…何を言っても角が立つ気がする

だから、ここは上手く有耶無耶にして…


「や、大和…」


背後から聞こえる若木の声

…そうだ、若木がいたんだ

自分の馬鹿さ加減に、落胆しながら後ろを振り返る


「唯ちゃん、先週二人で話したこと、覚えてるよね?」

「…」

「これは、貴女が選んだ結末だよ。もっと自分に素直になればこんなことにはならなかったのに」


ものすごく挑発的な喋り方で、若木を煽る

内容そのものは分からないが、何か二人で合意があったのだろう

そう言っている時にも、身体に抱きつくのを止めない


「…り、琳ちゃんのバカッー!」


若木はそれだけ言うと、走り去ってしまった


「…唯ちゃんは、いい子だけど子供過ぎるのが玉に瑕だね」


二人取り残された後、そう岡宮はひとつごつ


「…岡宮、どういうつもりだ。若木を煽って、こんなことをするなんて」

「何?いまさら文句?大和も案外満更じゃなかったくせに」

「満更じゃないというか…」

「…うん、知ってる。大和は誰も選べないものね」

「今もどうしたら私と唯ちゃんの仲を取り持てるのか考えてる」

「…そこまで理解してながら、どうしてこんなことをするんだ」

「うーん…まあ、若者故の過ちってやつ?まだ私たちって大学生でしょ?こういうのも、青春の一頁だと思うの」

「…答えになってないぞ」

「…そんな怖い顔しないでよ」


岡宮はくるりと方向を変えると、大学とは明後日の方向に歩く


「お、おい。大学には行かないのか?」

「今日は自主休校~」

「着いていくなら勝手だよ。まあ、今更大学に行ったところで唯ちゃんと気まずい空気になるだけだと思うけどね」

「どう言い訳するのか、見てみたい気もするよ」


ひらひらとワンピースをはためかせながら、どんどん遠くなっていく岡宮の姿


「ああ、くそ」


俺は岡宮に着いていくことにした


………

……


岡宮が向かった先は、近くの商店街にある酒屋の裏口

そんな洒落た格好をしながら、どこかアングラな雰囲気の暗がりに行くのは、どうも違和感があった


「こんなところに酒の自販機なんてあるのか」

「そうそう、年確が面倒くさくてさ。最近はここで済ませてるんだよね」

「朝から酒なんてどうなんだ?」

「ええー?良いじゃん。なんなら大和もいる?」

「いや、遠慮しておく」

「あっそ」


酒を買った岡宮は、近くのビール瓶ケースを逆さまにしてそのままどかっと座った

…やっていることはまるで中年男性だな


「こんな所で座るもんじゃないぞ。服が台無しだ」

「いいのいいの」

「…」

「それよりさ、さっきの続き、しようよ」

「さっき?」

「どうして私がこんなことするのーって」

「あぁ、それか」

「私達ってさ、似た者同士だと思うの」

「どこが」

「人に本音を隠して生きてるところ…かな」

「俺は、他人に嘘をついたことはない」

「嘘をついたことはないかもしれないけど、隠し事はあると思うよ」

「例えば…そう、唯ちゃんとか」

「若木?」

「本当に、今のままでいいの?」

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