十話 岡宮との問答(後編)
岡宮は足を組み直し、こちらを見据えるような格好をとった
「はっきり言えばね、唯ちゃんは大和の事が好きなの。それも、随分前からね」
「…」
「西川くんに言われたんじゃない?どうして答えてあげないんだーって」
「それは、岡宮の差し金だろ」
「うん、確かに私が西川くんに聞いたのは事実。でも、西川くん個人も気になってたんじゃないかな?」
「西川くん、興味のないことにはとことん興味ないし」
…確かに、西川はそういう奴だ
岡宮個人の、それも私的な頼みごとをなんの対価も無しに受け入れるだろうか
…しかし、西川は岡宮に甘いからな
「貴方はね、自分の一存で唯ちゃんの気持ちをずっと躱しつづけているの」
「まるっきり、脈が無いってことはないのにねー」
「それは、俺が若木に好意を持っていると?」
「それ以外に考えられないじゃん?それなのに、その好意を隠し続けて唯ちゃんと接しているの」
「それが、岡宮の言う『人に本音を隠して生きている』ってところに繋がるわけか」
「そうそう」
岡宮は、会話の間にちびちび飲んでいた酒の缶を軽く振る
彼女の飲むペースが早いのだろうか…少し軽そうだ
「でもね、責めてる訳ではないの。アニメやドラマなら、『はっきりしないのは男らしくない!』なんて言われるけど、そんなのは理想論」
「現実は、もっと複雑な手順を踏まないと恋人同士にはなれないよ」
「…なんて、恋人居たことない私が言ってみたけど」
「どうして、大和は唯ちゃんの気持ちをずっと無下にし続けてるの?」
「どうして、って…」
「西川にも言ったが、俺は…変わらない今の生活が好きだ」
「何かを成そうとして…壊れる可能性があるならしないほうがマシだ」
西川と言ったセリフと、一言一句違わなかった
まるで聞かれることを予想していたかのように、機械的に言うことが出来た
「じゃあ、どうして変わらない方がいいって思ったのかな」
「変わっても、楽しいこと、良いことはいっぱいあると思うけど」
「それは…」
「…」
「…言えないならそれで良いよ。まだ私が踏み込めない領域だったね」
岡宮は余っている酒を逆さまにして一気に呷る
「それで…ここからが本題なんだけど」
「唯ちゃんと付き合うのは無理かもしれないけど、私なら行けるんじゃないかな」
「は…?」
いきなりのセリフに動揺してしまう
お、岡宮が俺と付き合う?
確かに、今までの行動から嫌われてはないと思ってたが、あくまでネタとか面白がっている範囲内だと思っていた
それに…
「さっき俺が言ったこと聞いてたのか?俺は誰とも付き合わない」
「確かに、普通の人ならそうかもね」
手に持っていた空き缶を遠くに投げると、立ち上がる
そして、こちらに距離をずいと縮めてきた
「でもね、私たちは似た者同士なの」
「『付き合った』っていう事実があるだけで、その実何も変わらない。んで、お互いがお互いを尊重しあうから、良いコンビになれると思うの」
確かに、岡宮は周囲が驚くほどの大人だ
細かいところまで配慮の抜け目がないし、人徳もある
だから、サークルや課外活動に引っ張りだこなのだろう
「それに…」
「…それに?」
また、岡宮が口を塞いでくる
「お、岡宮。やめ…」
次は、人目をはばかることもないからだろうか、背中を掴んで濃密に
口からは、ほんのりとアルコールの匂いがした
「…こういうことだって出来る」
思わず頭を抱えたくなる
岡宮には敵わない
人生経験が一個も二個も俺より上回っていた
沸騰した頭を必死に回転させながら、言葉を絞る
「そ、そういうのはいい…」
「その…良いコンビとやらになれる根拠を出せ」
「全く、いけずなんだから」
岡宮は俺からそっと離れると、代わりに手を繋いできた
「…なんだ?」
「じゃあさ、一旦デートしてみようよ」
祝、十話です。
励みになるので、ブックマークやポイントをしてくれたら嬉しいです。




