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貞潔は記憶  作者: monoplayer
1章(現代編)
11/13

十話 岡宮との問答(後編)

岡宮は足を組み直し、こちらを見据えるような格好をとった


「はっきり言えばね、唯ちゃんは大和の事が好きなの。それも、随分前からね」

「…」

「西川くんに言われたんじゃない?どうして答えてあげないんだーって」

「それは、岡宮の差し金だろ」

「うん、確かに私が西川くんに聞いたのは事実。でも、西川くん個人も気になってたんじゃないかな?」

「西川くん、興味のないことにはとことん興味ないし」


…確かに、西川はそういう奴だ

岡宮個人の、それも私的な頼みごとをなんの対価も無しに受け入れるだろうか

…しかし、西川は岡宮に甘いからな


「貴方はね、自分の一存で唯ちゃんの気持ちをずっと躱しつづけているの」

「まるっきり、脈が無いってことはないのにねー」

「それは、俺が若木に好意を持っていると?」

「それ以外に考えられないじゃん?それなのに、その好意を隠し続けて唯ちゃんと接しているの」

「それが、岡宮の言う『人に本音を隠して生きている』ってところに繋がるわけか」

「そうそう」


岡宮は、会話の間にちびちび飲んでいた酒の缶を軽く振る

彼女の飲むペースが早いのだろうか…少し軽そうだ


「でもね、責めてる訳ではないの。アニメやドラマなら、『はっきりしないのは男らしくない!』なんて言われるけど、そんなのは理想論」

「現実は、もっと複雑な手順を踏まないと恋人同士にはなれないよ」

「…なんて、恋人居たことない私が言ってみたけど」

「どうして、大和は唯ちゃんの気持ちをずっと無下にし続けてるの?」

「どうして、って…」

「西川にも言ったが、俺は…変わらない今の生活が好きだ」

「何かを成そうとして…壊れる可能性があるならしないほうがマシだ」


西川と言ったセリフと、一言一句違わなかった

まるで聞かれることを予想していたかのように、機械的に言うことが出来た


「じゃあ、どうして変わらない方がいいって思ったのかな」

「変わっても、楽しいこと、良いことはいっぱいあると思うけど」

「それは…」

「…」

「…言えないならそれで良いよ。まだ私が踏み込めない領域だったね」


岡宮は余っている酒を逆さまにして一気に呷る


「それで…ここからが本題なんだけど」

「唯ちゃんと付き合うのは無理かもしれないけど、私なら行けるんじゃないかな」

「は…?」


いきなりのセリフに動揺してしまう

お、岡宮が俺と付き合う?

確かに、今までの行動から嫌われてはないと思ってたが、あくまでネタとか面白がっている範囲内だと思っていた

それに…


「さっき俺が言ったこと聞いてたのか?俺は誰とも付き合わない」

「確かに、普通の人ならそうかもね」


手に持っていた空き缶を遠くに投げると、立ち上がる

そして、こちらに距離をずいと縮めてきた


「でもね、私たちは似た者同士なの」

「『付き合った』っていう事実があるだけで、その実何も変わらない。んで、お互いがお互いを尊重しあうから、良いコンビになれると思うの」


確かに、岡宮は周囲が驚くほどの大人だ

細かいところまで配慮の抜け目がないし、人徳もある

だから、サークルや課外活動に引っ張りだこなのだろう


「それに…」

「…それに?」


また、岡宮が口を塞いでくる


「お、岡宮。やめ…」


次は、人目をはばかることもないからだろうか、背中を掴んで濃密に

口からは、ほんのりとアルコールの匂いがした


「…こういうことだって出来る」


思わず頭を抱えたくなる

岡宮には敵わない

人生経験が一個も二個も俺より上回っていた

沸騰した頭を必死に回転させながら、言葉を絞る 


「そ、そういうのはいい…」

「その…良いコンビとやらになれる根拠を出せ」

「全く、いけずなんだから」


岡宮は俺からそっと離れると、代わりに手を繋いできた


「…なんだ?」

「じゃあさ、一旦デートしてみようよ」




祝、十話です。

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